青々と生い茂る葉の中に、こぼれんばかりに生る青梅。梅の実に目を細める季節がやってきました。店先に並ぶフレッシュな梅を見ていると、なめらかな手触りやしっとりと馴染む重さが伝わってくるようで、とっても幸せな気持ちになります。
今が旬の梅ですが、「梅」と聞くとパッと思い浮かぶのはやはり和歌山県。ダントツに多い収穫量や、南高梅などといったブランド力から、梅と言えば和歌山のイメージがしっかりと定着しているかと思います。
しかし!ことカリカリ用の梅の青梅に関していえば、群馬県がすごいんです。歯を立てた瞬間の、あの弾力とカリっという力強い食感……カリカリ梅の命である歯ごたえを出すために、群馬の梅農家さんとカリカリ梅メーカーは全身全霊をかけているのです。そんな彼らの「職人魂」と、群馬の梅の魅力を広める取り組みについて、元祖カリカリ梅メーカー赤城フーズの代表、遠山さんにお伺いしました。
知れば繊細な工芸品に見えてくる!カリカリ梅ができるまで
――おやつにおつまみにと身近な存在のカリカリ梅ですが、どのような点にこだわりがあるのでしょうか?
遠山さん:まず使用する青梅にこだわっています。梅はその用途により収穫タイミングが異なるのですが、カリカリ梅に適した青梅は鮮度がとても重要なんですね。カリっとした食感を出すためには、表面が瑞々しく、種は白くて実が青いものである必要がある。同じような見た目のものであっても、少し熟しすぎれば種が茶色くなってしまい、カリカリ梅には熟さなくなってしまうんです。
カリカリ梅に適した梅の旬は一瞬。その一瞬を見極め、本当に短い「旬」の間に収穫された梅を使用しているんです。
――旬が短いと、やはり収穫は大変なのでしょうか?
遠山さん:カリカリ梅用の梅はすべて手もぎなので、かなり大変だと思います。高いところに生っている青梅も、脚立に上ってひとつひとつ手でもいでいく。それも梅は収穫後も追熟が進んでいくので、当日漬け込みを行うために群馬の梅農家さんは朝日が昇る前から作業を開始してくれています。
――すべて手もぎ!それは大変ですね
遠山さん:青梅は繊細で傷つきやすく、少しでも傷がつくと歯ごたえが悪くなってしまうため、一粒ずつ手もぎで収穫をする必要があるんです。短い旬の間に大切に収穫された青梅。それらをわたしたちはじっくりと手間をかけ、最高のカリカリ感が出る方法で漬け込んでいます。青梅の収穫時期である5月下旬から6月上旬までは、早朝に梅農家さんが収穫してくれた青梅を、夕方から深夜にかけてわたしたちが漬け込むというサイクルで、関わる全員がてんやわんやで頑張っています。
――カリカリ梅にこんなにもこだわりが詰まっているとは知りませんでした
遠山さん:そうですね。特に群馬の梅農家さんの青梅に対する意識は本当に高いと思います。かつて不作の年に他の産地の梅を見たことがありますが、熟度が進みすぎていたり、青みが抜けてしまっていたりと、群馬の梅とは全く異なっていました。仮に群馬の梅がなければ、カリカリ梅が手に入らないのではないかと思うくらいに、群馬の梅農家さんはベストな状態の青梅を集めてくれています。しかし残念ながら群馬の梅の質はとても高いのに、その魅力があまり知られていないのが現状なんです。
群馬の梅を応援するために!競合他社が手を組んだ「うめのわ」
――群馬の梅を広めるために、活動をされていると聞きました。それについて詳しく教えてください。
遠山さん:2019年に「うめのわ」という群馬の梅を応援する企業の会を結成しました。参加しているのは、「梅しば」でおなじみの村岡食品工業さん、「かりんこ梅」など、様々な梅製品を製造している大利根漬さん、カリカリ梅「梅よろし」や梅干を製造する梅吉さん、群馬県産白加賀梅を中心に「こだわりの梅干」など梅干を製造するコマックスさん、そしてわたくしども赤城フーズです。
――メンバーが競合他社同士とは珍しいですね
遠山さん:これからの時代、競合他社同士でも足の引っ張り合いではなく、手を組み業界や梅農家さんを守っていく必要があるという話になり、「うめのわ」は生まれました。
群馬では10年程前から生産者の高齢化が進み、梅農家さんも年々減少しております。「素晴らしい梅の産地を継続していくために、自分たちが何かできることはないか」そんな想いの下、各社の社長や副社長が集って案を出し合い、活動をしている形です。カリカリ梅業界が栄えるだけではなく群馬の産地を応援し、うめを応援する。そこから生まれた梅の輪が広がっていけばいいなと思っております。
――うめのわでは具体的にどのような活動を行っているのでしょうか?
遠山さん:群馬の梅のブランド力をあげるためのPR活動を行っております。例えば県内の展示会にブース出展したり、全国ウメ生産者女性サミットに参加するなどですね。今後は群馬内の主要駅の物販コーナーにうめのわとして梅のPRをしながら各社の梅商品を販売するなどを計画しております。
群馬の梅のレベルは高いもののブランド力がないため、南高梅など著名なブランドと並ぶと選ばれる確率は低くなってしまいます。群馬の梅の素晴らしさやおいしさが伝わりブランド力があがれば、梅農家さんの収益にもつながり、梅農家さんが梅を続けたいと思ってもらえるようになるので、皆で群馬の梅の認知度をあげることに注力しています。
他には梅の加工業者側として、農家さんにもっと協力できる部分はないかと、各農家さんにヒアリングを行っております。先ほどもお伝えしたように、カリカリ梅用の青梅の収穫はとっても大変な作業なんですね。なので少しでも楽に多く収穫できる道がないか(収穫時間やもぎ方、サイズ選定の方法の変更など)JAを通じてアンケートを取らせていただきました。農家さんに梅の収穫を続けていただけるよう、そしてお互いの状況を把握できるようコミュニケーションを図っています。
目指しているのは群馬の梅文化を応援し、守り、さらに発展させること。うめのわを通じて、皆が幸せになれればいいなと思っております。
――国内だけではなく、海外も視野にいれていらっしゃるのでしょうか?
遠山さん:はい、海外へのPRも進めております。うめのわ皆でジェトロ群馬の「グローバルビジネス実践塾」に参加して、それぞれの会社が個々に群馬の梅を海外へと打ち出しております。
――カリカリ梅や梅商品は海外ではどう受け入れられているのでしょうか?
遠山さん:海外においては梅干のような酸っぱい梅が苦手な方も多いので、甘酸っぱい梅が受け入れられやすく、梅酒や梅ジュースなどはとても人気です。カリカリ梅も甘酸っぱい味が好評ですので、刻んだカリカリ梅や梅干を海外のレシピに活用していただければなと思っております。
私の思いとしては、カリカリ梅を世界に広めていき、「KARIKARIUME」という言葉を世界共通語にしたいなと思っております。そのために赤城フーズとして英語のHPを作ったり、英語のyoutubeチャンネルを立ち上げたりしております。今後は英語で群馬の梅の魅力や、カリカリ梅の魅力を発信するSNSなどを作るつもりです。
日本では梅といえば和歌山というブランドイメージが強いですが、海外においてはまだそこに入り込む余地はあると思っております。群馬の梅の魅力を広めつつ、輸出できる国や量を増やし、世界にカリカリ梅文化を伝えていければと思います。
一粒の梅に最大級の付加価値を
カリカリ梅にどれだけの人が情熱を注いでいるか。どんな思いで世に送り出しているか。それらを知って食べると、何気なく食べていた時とは違う世界が見えるものです。
一粒のカリカリ梅に付加価値をつける。これはうめのわメンバーで常に考えていることだと言います。作り手の想いとこだわり、そして土地の恵みと文化の深み。これらが商品にしっかりと乗ることで、きっと群馬の梅の価値はさらに多くの人に認知されることと思います。これからどのような変化が群馬県で起こるのか。梅文化のこれからが楽しみです。