漫画『ゴールデンカムイ』が盛り上がっています。作品には魅力的なキャラクターが多数登場しますが、そのうちの1人「白石由竹(しらいし・よしたけ)」にはモデルがいます。「昭和の脱獄王」と呼ばれた、白鳥由栄(しらとり・よしえ)です。
4度に及んだ脱獄、その人となりについて、『脱獄王 白鳥由栄の証言』(幻冬舎アウトロー文庫)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)を手がかりに人物像を3分でざっくり紹介します。
白石由竹は実在の人物、白鳥由栄がモデル
『ゴールデンカムイ』は、明治時代の北海道を舞台にした金塊争奪戦を描いた人気漫画。金塊を追う主人公の仲間の1人が、「稀代の脱獄王」の異名を持つ白石由竹です。
作中ではお調子者として描かれますが、白鳥由栄という伝説的な脱獄王をモデルにしているのです。
28歳から54歳までの脱獄全まとめ
白鳥由栄が最初に脱獄したのは28歳のときで、以後3回の脱獄に成功し、26年間の獄中生活で一般社会に出たのは3年あまり。紆余曲折を経て仮出獄した時は、54歳になっていました。
白石由栄の脱獄ヒストリーは以下の通りです。
昭和11年6月に青森刑務所から最初の脱獄、3日後に逮捕。同年11月準強盗殺人と逃走の罪で無期懲役が確定。
昭和17年6月に秋田刑務所を脱獄、3カ月かけて上京し小菅警察署に自首。昭和18年3月逃走罪で懲役3年の判決。
昭和19年8月に網走刑務所を脱獄し、2年間の山中生活。昭和21年8月殺人を犯し逮捕。昭和21年12月に殺人、加重逃走罪で死刑判決。
昭和22年3月札幌刑務所を脱獄し、300日の山中生活。昭和23年1月逮捕、同年5月傷害致死と加重逃走の併合で懲役20年の判決。同7月府中刑務所に移送。
昭和36年12月模範囚として仮出獄の許可。
青森では「鍵を使い房扉から」、秋田では「銅板張りの壁面をせり登って天窓を破り」、網走では「視察口の鉄枠を腐らせ」、札幌では「鋸で床板を切り抜き地下に潜って」脱獄を果たしました。
驚異の怪力を持ち関節が自由に外せた!?
前述の書(『脱獄王 白鳥由栄の証言』『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』)をひもとくと、白鳥由栄の型破りな人物像が浮かび上がってきます。
まず、手錠の鉄環を自力でねじ切る怪力、自ら肩の関節を外せる驚異の柔軟性の持ち主であったこと。それから、「人間の作ったものは必ず壊せる」という信念があったそうです。さらに、「真冬には脱獄しない」という持論に加え、「逃走4戒」(方々の集落から少しずつ盗む、逃げたら山中深くに潜る、移動は徒歩で昼歩きは禁物、本道は行かず橋だけ渡り間道・獣道を歩く)を固持したそうです。
もちろん、収監のきっかけとなった犯罪については、酌量の余地がないのは当然ですが、なぜ脱獄したのでしょう。ここでまた前述の2冊によると、「私利私欲で脱獄したのではない。刑務所のひどい扱いと、役人の横暴な態度に立腹し」たからであり、「逃げるときは必ず、つらく当たった看守に『脱獄する』と予告」していたそうです。また、脱獄の日は親切にしてくれた看守に迷惑がかからないよう、休みの日を狙ったそうです。
白鳥由栄の弁護人は、「律儀で遠慮深い人柄だが、愛憎の心の変転や感情の起伏も激しかった」と評しています。晩年は、「目に見えない鉄の鎖が縛り付けられている(保護観察という身分を称しての本人談)」という気持ちを抱きながら、71歳で生涯を終えたという話です。
参考書籍:
『脱獄王 白鳥由栄の証言』(幻冬舎アウトロー文庫)
『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)