突然ですが、質問です。縄文土器にさわることができるとしたら、さわってみたいですか? さわってみたいかどうかの答えを考える前に「いやいや普通はさわれないでしょ」と思った人もいるかもしれません。
実は、愛知県名古屋市には縄文土器をはじめ展示資料にさわることができる博物館があります。その名前は、南山大学人類学博物館。南山大学(愛知県名古屋市昭和区山里町18)の博物館で、大学のキャンパス内にあります。
今回は博物館を実際に訪れて、学芸員の秦優莉香(はた・ゆりか)さんにインタビュー! 博物館の見どころとともに、資料のさわり方やさわることの魅力について深堀りしてきました。
縄文土器をさわる博物館との出会い
和樂webでこれまで幾度となく取り上げられてきた、縄文土器。力強さと美しさ、歴史の重さが感じられ、多くの人々を魅了し続けています。ガラスケース越しに眺めているだけでもその姿にウットリしますが、もし自分の手でさわることができるとしたら何だかドキドキしませんか。
学生時代の友人から「縄文土器にさわることができる博物館がある」「南山大学人類学博物館にぜひ行ってみてね」と教えてもらい、初めて博物館を訪ねたのが今から6、7年前のこと。それ以来、何度か訪問していますが、土器独特の温もりを感じて、毎回とても不思議な気持ちになります。
南山大学人類学博物館ってどんなところ?
南山大学人類学博物館には、縄文土器や弥生土器のほか、旧石器時代の石器、パプアニューギニアの民族誌資料、昭和30~40年代のくらしの品々が展示されています。南山大学の教育モットーである「人間の尊厳のために」を実践する博物館です。
一般の人も利用OK!「すべての人の好奇心のために」
大学の博物館と聞くと「大学生しか入館できないのでは?」と思ってしまいそうですが、一般の人も自由に利用することができます。「すべての人の好奇心のための博物館」をコンセプトに掲げて、オンラインも含めたさまざまな企画・イベントを展開しています。
「歴史や考古学に関心のある人たちだけでなく、親子連れや留学生など多種多様な人たちが利用しています」と秦さん。愛知県近郊だけでなく、北海道から沖縄まで全国各地からいろいろな人が訪れています。
目が不自由な人も楽しめる「ユニバーサル・ミュージアム」を目指して
この博物館が目指しているのは「ユニバーサル・ミュージアム」。年齢や性別、文化的背景、心身の障がいなど社会に存在するさまざまな差異に関わらず、全ての人が好奇心を充足できる博物館を理想としています。
「目の不自由な人も楽しめるように」というのも、当初から大切にしているポイントです。秦さんによれば「手でじっくりとさわることで、資料の形状や質感を感じ取ることができます」とのこと。
展示資料の解説パネルなどに点字を施したり、落ち着いて資料にさわれるように椅子を用意したりするなどの配慮がされています。過去には、3時間ほどかけて展示資料をさわって楽しんだ視覚障がいの人もいたそうです。
「視覚障がい者のためのイベントやプログラムを企画・開催してみましたが、感触がいまひとつでした。特別な場を設定すると、その時だけしか参加できなくなる可能性もあります。そうではなく、視覚障がいを持つ人たちがいつでも気兼ねなく利用できる博物館でありたいと思っています」と秦さんは語ります。
展示資料にさわる意味や魅力とは
展示資料にさわる意味について秦さんに尋ねてみると、こんな言葉が返ってきました。
「手でさわることで、目で見ているだけではわからない質感や重さが感じられます。さらに、作り方や使い方について、想像を膨らませることもできます」。
たとえば、「底を見て!」というタグが付いている縄文土器。土器を裏返しにして底を見てみると、ぎざぎざ模様があります。この模様は、土器を作る際に編み物を下に敷いていた痕跡なのだそうです。土器がどうやって作られたのか、想像を巡らせてみるーー。土器にさわることで、新たな発見が生まれます。
歴史の教科書では「縄文土器は分厚くて、弥生土器は薄いつくりになっている」と習った人も多いと思います。ほんとうに、その通りでしょうか。試しに、縄文土器と弥生土器の両方をさわったり持ち上げたりしてみると、その違いは歴然! 手でさわって体で感じることで、教科書の知識を自分なりに理解することができます。
数々の検討を重ねて、現在の姿になった
今でこそ「展示資料をさわることができる博物館」として知られていますが、初めからこうした形態だったわけではありません。現在の形態になったのは、2013年に移転してリニューアルオープンしてからのことです。
リニューアルに向けて準備をしていた2011年に、博物館の教員が出席したイベントで「誰もが楽しめるユニバーサル・ミュージアム」について知り、「ぜひ実現したい!」と思い立ったのが、その始まりでした。
実現に際して「さわれるものとさわれないものはどれか」「さわっても大丈夫なのか」など数々の議論を重ねて、現在の姿になりました。
展示資料をよくよく眺めてみると、外側から固定するタイプや円筒型のものを中に入れるタイプなど資料によって固定方法が異なっています。上のほうにある資料は転落防止のためしっかり固定するなど、安心して利用できるようにしています。
学芸員に聞く、展示資料のさわり方
「縄文土器にさわってもいいですよ」と言われても、いざ手でさわろうとすると、どうやってさわったらいいのかわからず、困ってしまう人もいるかもしれません。そこで、秦さんに展示資料の基本的なさわり方を教えてもらいました。
<資料の基本的なさわり方>
1.展示資料の全体をさわる。
2.気になった部分をじっくりさわる。
貴重な資料を保護するために、気を付けたいポイントもあります。
〈展示資料をさわる際のポイント・注意点〉
・腕時計や指輪などを外す。
・片手ではなく、両手でやさしく扱うようにする。
さわり方を説明する際に「どこまで具体的に指示したらよいか悩むこともある」と秦さんは言います。それは、詳細に説明すればするほどその方法に束縛されてしまい、説明した通りにさわるだけでは魅力を発見することが少ないからです。
どこに魅力を感じるのかは、人それぞれです。「まずはたくさんさわってほしいですね」と秦さんは笑みを浮かべました。
「さわる楽しさ」を継続して伝えていきたい
大学では考古学を専攻し、古いものが好きだという秦さん。博物館の学芸員として今後取り組みたいことを尋ねてみると、「『さわる楽しさ』を継続して伝えていきたい」という言葉が返ってきました。
コロナ禍では「仮想展覧会」と題したオンライン上の仕組みがスタートし、家にいながら博物館のエッセンスが楽しめる場を導入。SNSなども活用し、博物館の魅力をより多くの人に伝えるべく発信を続けています。
すべての人の好奇心のための博物館ーー。展示資料にさわる楽しさをいきいきと話す秦さんを前に、博物館のこれからがとても楽しみになりました。
和樂web読者に対しては「ぜひさわりに来てください!」という、秦さんからの熱いメッセージをいただきました。もし機会があれば、ぜひ現地を訪れて縄文土器などの展示資料に触れ、自分だけの魅力を発掘してみてはいかがでしょうか。
◆南山大学 人類学博物館
所在地:名古屋市昭和区山里町18 南山大学R棟地下1階
入館料:無料
開館時間:月曜~金曜 10:00~16:30
休館日:土・日・大学の事務休館日、毎月最終水曜13時以降、大学入試期間
ホームページ:https://rci.nanzan-u.ac.jp/museum/