不気味で楽しい絵本の世界
「こわい」や「不気味」は決して心地良い感覚ではないはずなのに、なぜだか惹かれてしまう。そんなあなたにぴったりな「本と絵」に関係する特別展が今夏3つも開催されます。
誰もが知っているあの名作絵本から怪談本の挿絵まで、ひんやりとワクワクを感じに出かけませんか?
1.横須賀美術館 企画展『ねないこだれだ』誕生50周年記念 せなけいこ展(神奈川県)
せなけいこさんの『ねないこだれだ』といえば、こわい絵本ランキングで常にトップに上がってくる名作絵本ですが、発売されたのはなんと1969年のこと。半世紀もの長きにわたって、子供たちの心を震え上がらせてきました。決してこわい絵柄ではないし、おばけだって愛嬌たっぷり。それなのに結末は……。
多くの子供たちに恐れられながらも愛されてきたのは、子供向けだからといって甘ったるい物語にはしなかったからでしょう。子供だって、どうせならゆるくない「こわさ」の方が楽しめるのです。
もちろん、こわいばかりがせなけいこさんの世界ではありません。デビュー作である「いやだいやだの絵本」シリーズの四作や、絵本作家になる前に手掛けていたイラストや紙芝居、さらにはフィルムに光を当てて投影する「幻燈」の手法を使った作品など、これまであまりスポットが当たらなかったせなさんのお仕事も紹介されています。
『ねないこだれだ』が世に出たばかりのリアルタイムに読んだ子供たちはもう50代。孫がいてもおかしくない年齢です。家族みんなで楽しめる、そんな展示に出かけてみませんか。
展覧会情報
展覧会名:『ねないこだれだ』誕生50周年記念 せなけいこ展
会期:2019年7月6日(土)~9月1日(日)
場所:横須賀美術館
公式サイト
なお、横須賀美術館に併設のカフェ・レストラン 横須賀アクアマーレでは、会期中にせなけいこ展コラボ特別メニュー「〜おばけの天ぷら〜 おばけのフリットミスト!」が出されています。
せなけいこ作・絵 『おばけのてんぷら』 1976年 ポプラ社刊 原画
絵本『おばけのてんぷら』で、主人公のうさこが作る「てんぷら」をイメージした特別メニューで、ランチ限定品です。せなさんの世界を舌でも味わえる、滅多にないチャンスですよ!
2.川崎市市民ミュージアム 企画展「なばたとしたか こびとづかんの世界」(神奈川県)
今でもはっきりと覚えています。書店の店先で、なんとも奇妙なコビトの姿を見つけたあの日のことを……。
「こびとづかん」が発売されたのは2006年。以来、キモかわいいコビトたちの世界はすっかり定番絵本の仲間入りをしました。ちょっぴり不気味なコビトたちは、私たちの身近なところに潜んでいます。姿形は千差万別、その性質もおとなしいものから、ちょっと凶暴なものまで多種多様です。
彼らは自然界の片隅で植物や動物たちと共生し、時には人里に姿を見せることも。その生態は「こびとづかん公式サイト」に詳しいので、ぜひ一度覗いてみてくださいね。
今回の展示では、「こびとづかん」シリーズの原画やスケッチ、作家お手製のフィギュアなどのほか、「こびとづかん」以外の作品など200点以上を見ることができます。
さらに、会期中には「こびと探し」スタンプラリーを開催。ミュージアム内のどこかに隠れているコビトスタンプを集めながら、施設内を探検できます。常設展などを見に行ったら意外なところで見つけられるかもしれませんよ。
サイン会などのイベントも数々行われる予定なので、詳しくは企画展の公式サイトをご覧ください。
展覧会情報
展覧会名:企画展「なばたとしたか こびとづかんの世界」
会期:2019年7月6日(土)~9月8日(日)
場所:川崎市市民ミュージアム 企画展示室1
公式サイト
3.菊池寛記念館 第28回文学展「文学の怖い絵」展(香川県)
絵本以外でも本と絵は縁深いもの。とりわけ、文学作品と装画や挿絵は切っても切れない関係にあります。
菊池寛記念館で開催される「文学の怖い絵」展では、高松市出身の文豪・菊池寛をはじめ古今の文豪が手がけた怪談文学をピックアップし、それらの作品に寄せられた一流の絵師/イラストレーターによる装画や挿絵にスポットライトを当てることで、作品世界をより深く味わえるようにした文学展です。
展示されている絵の一部を紹介しましょう。
一見美しい少女の絵なのに、背景をよく見ると無数の手が……。
これは、気鋭のイラストレーター谷川千佳さんが『文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション〈恋〉』(汐文社)という書籍の装画として描き下ろした作品です。イメージの源は同書に収められている川端康成の怪奇短篇「片腕」ですが、「恋と怪異は紙一重」を感じさせる見事な一枚です。
版画家であり、装幀家でもある金井田英津子さんの手によるこの一枚は、『文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション〈霊〉』(汐文社)所収の三浦哲郎の怪談掌篇「お菊」につけられた挿絵です。怪談でお菊といえばまっさきに思い浮かぶのが皿屋敷のお菊ですが、こちらは全く別の物語。絵の雰囲気の通り、優しくてたおやかでどこか物哀しい女性が登場します。
この他にも作家の文章力と画家の描写力が想像力によって結びついた時に起こるシナジーを、主に「怖い」という観点から感じ取ることができる作品が展示されています。
また、会期中には講演会や怪談会、寄席など多彩なイベントが開催される予定です。くわしくは公式サイトをチェックしてみてくださいね。
展覧会情報
展覧会名:第28回文学展「文学の怖い絵」展
会期:2019年7月27日(土)~9月1日(日)
場所:菊池寛記念館
公式サイト
「こわさ」とは、人を正気に戻してくれるもの。炎暑にぼーっとした頭をすっきり冷やしに出かけてみませんか?