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2024.01.10

地獄にも行きたくなっちゃう♡かわいい仏像は、なぜみちのくで生まれたのか?

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仏像は信仰の対象であるばかりでなく、美術作品として見ても、美しく神々しいものが、京都や奈良をはじめとする各地に数多くあります。向き合うと安らかな気持ちにさせてくれる仏像の何と多いことか。ところが、東京ステーションギャラリーで開催されている「みちのく いとしい仏たち」展に出品されたたくさんの仏像を見た浮世離れマスターズのつあおとまいこの二人の反応は、少し違いました。一体ずつ向き合うたびに思わず顔をほころばせ、何度も何度も「かわいい!」と声を上げたのです。みちのくは東北地方のこと。彼の地の仏像を集めた本展は、何やら通常の仏教美術の展覧会とは異なる様相を呈していました。展示されていた多くは、農村地域の小さなほこらや小屋にあったものとのこと。作ったのも専業の仏師ではなく、大工などの地元の職人だったというのです。

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

おもちゃのようにかわいい仏様

つあお:今日見た仏像の展覧会は、とても楽しかったですね。例えば、この『山神像』とか、何だかユーモラスだなぁと思いました。

『山神像』 江戸時代 岩手県八幡平市 兄川山神社 八幡平市指定文化財 展示風景

まいこ:四角いお弁当箱みたいな顔が楽しい!

つあお:一応、螺髪(らほつ)があるから仏様であることがわかるんだけど、ちょっとギャグ漫画のキャラクターっぽい感じがするかも。

螺髪(らほつ)=
仏の三十二相の一つ。仏の頭髪の、縮れて巻き毛になっているもの。(出典=精選版日本国語大辞典

まいこ:そうですね。知り合いに似てる顔の人もいるような…。

つあお:へぇ。会ってみたいなぁ! しかし、この像の造りは、全体的にかなり大雑把な感じがしますね。

まいこ:確かに、京都のお寺とかで見るような仏像と比べるとかなり大味のような。

つあお:たとえば、合わせた両手の表現とかが、すごく適当な印象です。

まいこ:この合掌のポーズをさっき自分で真似てみたら、どうしてもこういう角度にはなりませんでした。

つあお:なになに、たわくし(=「私」を意味するつあお語)もやってみよう。両方の二の腕を脇にぴたっとつけて…合掌するのがまず難儀ですね。

まいこ:私たちの体が硬いのか、仏様の体が異常に柔らかいのか…。

つあお:すごくいかり肩で、胴体も四角い。頭もでかい。でも、この大味なところっておもちゃみたいで、逆にちょっとかわいいかも。

まいこ:このゆるさはかわいさのポイントですね! 私たちのゆるふわトークと一緒です。自画自賛(笑)

つあお:ゆるふわトークにおいては、かわいいことはとても重要ですもんね。

子どもの頃、仏像ってちょっと怖い印象でした。この仏様は、全然怖くない!!フレンドリーに話しかけてもOKって感じがする♡

農民の苦しい生活の裏返し

まいこ:その点、この展覧会に出ている仏様には共感しまくりです。文字通り、すべての仏様の前で、思わず微笑んでしまいました。

『観音菩薩立像』 江戸時代 貞享5年(1688年) 岩手県一関市 松川 二十五菩薩像保存会 展示風景

つあお:何せ、仏様自身がニコニコしちゃってるから、こっちもニコニコせざるをえません。

まいこ:私は、会場にいる皆さんが、展示の後半になるとみんなニコニコしていることに気がつきました!

つあお:実は、仏様のニコニコにも秘密がある。これらの仏像を作ったのは、いわゆる仏師ではないらしい。いにしえの東北地方の農村ですし。村の大工さんとか、そういう職人さんが作っていたそうなんですよ。

まいこ:へー! それでこんなに自由なのですね! でもそのおかげで、とっても味わい深いですね!

つあお:東北地方にはこけしを作る伝統もありますし、仏様の彫刻も、楽しく作っていたかもしれませんよ。

まいこ:定められた仏様の様式にはとらわれず、自分たちが親しめるような表情や形にしたのでしょうか。

つあお:そうですね、彫った職人さんは、仏像の姿はイメージとしては持っていたけど、「ここを楽しい世界にしたい」というような気持ちがにじみ出たんじゃないかなぁ。

まいこ:納得です!

つあお:展覧会を監修した須藤弘敏弘前大学名誉教授の話では、こうした仏像の姿は、農民の苦しい生活の裏返しなのだとか。寒い土地の農業は大変ですよね。貧しい生活を余儀なくされたでしょうし。

まいこ:今日見たお顔からは想像もできないような苦難が背後にあったんですね!

つあお:農民の皆さんはだからこそ、こうした仏像で癒されてきたのでしょう。

まいこ:私は、不動明王がやたらかわいかったのに衝撃を受けました。

つあお:普通は、怒りの表情が激しい仏様ですからね。そういえば、鬼もかわいかったなぁ。

『鬼形像』 江戸時代 岩手県葛巻町 正福寺 葛巻町指定文化財 展示風景

まいこ:閻魔(えんま)様ですらかわいかった!(本記事後半の「まいこセレクト」をご参照ください)

つあお:こんな閻魔様なら、きっとお裁きも寛大なのだろうなぁ。あー、地獄に行きたくなっちゃうかも(ウソです 笑)。

日々の苦しさをやわらげてくれる仏様のイメージが、笑顔だったのですね……。

限りなく深い「みちのく仏様愛」

つあお:それにしても、プレス内覧会でお話を聞くことができた監修者の須藤先生の「みちのくの仏様愛」は、限りなく深かったですね。

まいこ:私もそう思いました。好きで好きでたまらないという感じ。愛がほとばしり出ていました!

愛を込めてみちのくの仏像のことを語る須藤弘敏弘前大学名誉教授

つあお:「かわいい」を連発してましたよね。粗末な材を稚拙な技法で彫った像なんだけど、稚拙をネガティブにはとらえないと断言。これだけの「みちのく仏様愛」を持てるということ自体が素晴らしい!

まいこ:この展覧会は、須藤先生の愛の結晶なのですね!

つあお:この『多聞天立像』も、ちょっと見は怖いんだけど、なかなかチャーミングですね。

『多聞天立像』 江戸時代 寛政2年(1790年)頃 青森県今別町 本覚寺 展示風景 

まいこ:太い眉毛がつり上がり、口はへの字ですが、なぜかそこまで怖くない。

つあお:顔もぎゅっとした中にお茶目さがにじみ出ている。何となくですけど、これらの仏像は「洗練」という言葉とは違う世界の存在のような気がします。

まいこ:「素朴」とも少し違うかな? 何となく笑いを誘う感じ。

つあお:踏んづけられている餓鬼も、心なしか楽しそう。痛くないのかな?

まいこ:ほんと、ポーズといい、表情といい、「ま、しょうがないか」といった感じで踏んづけられてますね。

つあお:すべてがなんだか親しみやすい。たわくしがこんな仏像のある地域にいたら、ごく自然に拝みに行きそうですよ。

まいこ:会場で流れていた映像で見たのですが、地元の漁師の皆さんが毎日漁に出かける前に頼りにしていることが、とてもよく伝わってきました。

つあお:やっぱり仏様のところには人が集まってくるんですね。頭に竜が載ってたり、閻魔様みたいなかぶり物をしてたり、『多聞天立像』はいろいろ盛りだくさんだし。

まいこ:一体で4役(竜神、閻魔王、大黒天、多聞天の4役を兼ねているとのこと)というのが、なんだか盛りすぎで面白い。

つあお:まったくもって、素晴らしい仏様です。

まいこ:後ろに回ると、竜がおんぶされてるみたいなのも、なんかかわいらしいですね。

『多聞天立像』 江戸時代 寛政2年(1790年)頃 青森県今別町 本覚寺 展示風景

つあお:竜は省略せずにちゃんと作ってるんだ。

まいこ:本当ですね! うねりがリアル。前から見ると顔をちょっと右に向けておどけてる。

つあお:こんな仏像が家にあったらいいなぁ。

まいこ:一人で全部満たしてくれますね。

つあお:そう、何があっても大丈夫。

なんでもありで、盛りだくさん!見るほどにジワジワきます~

まいこセレクト

『十王像』より 江戸時代 岩手県奥州市 黒石寺 展示風景

あの閻魔(えんま)さまが舌をペロっと出している!

閻魔さまといえば、「嘘をついた人は地獄で閻魔さまに舌を引き抜かれる」と恐れられているあのお方。早くも奈良時代には日本の文献にも登場していて、絵や彫造でそのお姿が伝えられてきました。でも大抵はとても怖い形相で、目がぎょろっとして尖った歯を剥き出しにしていたりします。ところがこのみちのくの閻魔さまは、近所の気のいいおじさんのようなお顔……。舌を抜く大王といういわれがあるからといって、自ら舌をペロっと出している閻魔さまはなかなかいないでしょう。「僕も舌を抜かれないように気をつけるね〜」とでも言っているようで親しめる! こんなに優しそうな閻魔像を作った理由として、「亡くした家族や友人の罪過を減らすための供養という大切な機能がありました」という、今展監修者である須藤弘敏さんの解説にはじ~んときました。せめてやさしくしかってという、願いが込められているのですね。

つあおセレクト

(左)『僧形立像(聖徳太子像)』 江戸時代 岩手県一関市 長徳寺
(右)『僧形立像(聖徳太子像)』 江戸時代 岩手県一関市 長徳寺 展示風景

聖徳太子信仰が生んだ逸品です。丸首・立ち襟の服装が、この2体が聖徳太子像であることを物語っているそうです。何せ聖徳太子は飛鳥時代に仏教を日本に広めた人物として知られていますから、信仰の対象になるのも自然のことだったのでしょう。仏様のように拝まれていたのではないでしょうか。それにしても、かわいいと思いませんか。

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『閻魔様の仏心』

地獄の沙汰を下す閻魔様。でもきっと、仏心もお持ちなのでは? みんなが笑顔になれる世の中が来れば、きっと閻魔様も微笑みっぱなしだと思います。そんな願いを込めて描きました。

展覧会基本情報

展覧会名:みちのく いとしい仏たち
会場:東京ステーションギャラリー
会期:2023年12月2日〜2024年2月12日
公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202312_michinoku.html

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。