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2024.04.22

安倍晴明はシルバー人材だった! 謎に包まれた陰陽師の実像

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陰陽師(おんみょうじ)・安倍晴明(あべの せいめい/はるあき/はるあきら)というと、その名を知らない人はほぼいないのではないのでしょうか。2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』ではユースケ・サンタマリアさんが演じていることで話題になっています。

陰陽師というと、式神(しきがみ)という使い魔のような鬼神を操って妖怪退治をするというようなイメージがありますが、『光る君へ』では妖怪も幽霊も直接的に出て来ていません。では実際の陰陽師はどんな職業で、安倍晴明とはどんな人物だったのでしょう。

陰陽師ってなあに?


陰陽師とは律令制(りつりょうせい)の官制で、天皇の職務の補佐を行う最も重要な中務省(なかつかさしょう)の中の陰陽寮(おんようりょう)に属した官職の一つです。その長官は陰陽頭(おんようのかみ)と呼ばれます。ちなみに「陰陽」の読み方である「おんみょう」は「おんよう」が変化したもので、当時どちらも使われていました。

簡易組織図①

陰陽寮の仕事は、「陰陽道(おんみょうどう)」に則って天文観測・占術を行い、暦を作成することにあります。その中で、占いを専門的に行うのが「陰陽師」、天文観測をする「天文博士」、暦を作成する「暦博士」、時間を管理する「漏刻(ろうこく)博士」に分かれています。

簡易組織図②

そして安倍晴明はこの陰陽寮の陰陽頭……というわけではなく、実は天文博士でした。しかし安倍晴明の子孫は明治時代まで陰陽寮を統括することになります。

陰陽道ってなあに?


では、陰陽師があやつる「陰陽道」とは一体どんな技術だったかというと……。元々は古代中国の思想を元にした呪術・占術です。6世紀の仏教伝来の頃に日本に入ってきました。その後神道や日本仏教の影響を受けて日本風にアレンジされました。

律令制ができると、朝廷は僧侶をはじめ部外者が天文や災害・変異の吉兆を占う事を禁じ、そういったことは陰陽師の専売特許となりました。

そして安倍晴明はその中でも天文学に精通していました。陰陽道における占星術がどのようなものかはハッキリとした史料は残っていません。しかしコンピューターも計算機もない時代、正確な星座盤を作成するのは相当な計算能力があったはずです。事実、晴明はその計算能力を買われ、税収を管理する主計寮(しゅけいりょう)に異動しました。

それだけではなく、京内の司法、行政、警察を担う「左京権大夫(さきょうの ごんの たいふ)」や、諸国から納められた物品を管理する「穀倉院別当(こくそういん べっとう)」にもなっています。陰陽頭にはなれなかったけど、位階は陰陽頭の従五位下を上回る従四位下になりました。

大器晩成型だった安倍晴明


ドラマや映画では、見目麗しい俳優さんが安倍晴明役を演じることも多いため、若くから活躍しているイメージですが、実は歴史上の記録に出てくるのは40歳の頃。天文道を学ぶ学生「天文得業生(てんもんとくごうしょう)」としてです。その頃には村上天皇から占いを命じられているので、早くも貴族の間で話題になっていたようです。

晴明の出自(しゅつじ)に関してはハッキリとした記録はなく、どのように昇進していったかも諸説があるようです。しかし貞元2年(977年)、晴明が57歳の頃。晴明の師匠であり、陰陽頭でもあった賀茂保憲(かもの やすのり)が亡くなると、めきめきと頭角を現しています。

特に花山天皇の信頼を得ていて、記録にも晴明が占いや儀式を行ったことがたびたび書かれていました。花山天皇退位後は一条天皇や藤原道長から信頼されるようになります。

そして寛弘2(1005)年、85歳で亡くなりました。40歳で世に出て、そこからさらに40年以上働き、しかもぐんぐんと昇進する……。当時は40歳でもう引退を考える年だったので、いかに晴明がバイタリティーあふれていたかがわかりますね。当時からしたらバケモノと思われるのも仕方ないのかもしれません。

伝説となった安倍晴明


安倍晴明の数々の逸話が知られるようになったのは、鎌倉時代ではないかとされています。

清明の死後100年以上経った平安後期に成立した歴史物語『大鏡(おおかがみ)』では花山天皇の出家を、天文を見て察知し式神(しきがみ)を使って確認しようとしましたが、一歩遅かったというような話が書かれています。

平安末期・鎌倉時代以降にはさらに『今昔物語(こんじゃくものがたり)』『古事談(こじだん)』『宇治拾遺物語(うじしゅうい ものがたり)』などの説話集に登場し、幼少期のエピソードや呪術による不思議な技を披露するなど、その活躍がだいぶ脚色されて描かれるようになります。以降、近世・近代・現代と、安倍晴明は浄瑠璃・小説・映画・漫画・ゲームなどに登場し、「陰陽師」を代表する人物となりました。

しかし、これだけ人気の人物なのに……むしろ、「だからこそ」なのか、その生涯ははっきりとはわかりません。出生地や墓地も各地にあります。ミステリアスな人物というのは、今も昔も人々を惹きつけるものですね。

▼安倍晴明の知られざる姿は、こちらでも読めます。
安倍晴明は平安時代のスーパー国家公務員だった?羽生結弦の心も掴んだミステリアスガイの謎に迫る

アイキャッチ画像:菊池容斎 『前賢故実 巻之5 安倍晴明』出展:国立国会図書館デジタルコレクション

参考文献:
『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
山下克明『平安時代陰陽道史研究』思文閣出版
武田友宏編『大鏡』(角川ソフィア文庫)
『異界 陰陽道』(徳間書店)