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日本美術の決定版!「The 国宝117」

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Culture
2025.06.11

豊臣秀吉・織田信長は、本当に「シゴデキ」だったのか? 戦国武将爆笑エピソード集(シゴデキ編)

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「見た目は有能、中身は無能」。
そんなコンセプトで昨年ヒットしたドラマがある。
「無能の鷹」だ。

主人公はいわゆる「シゴデキ(仕事ができる)」風のオフィスワーカー。
実際は仕事ができないのだが、バリバリ仕事をこなすように見えるからややこしい。そんな見せかけの「有能さ」に、すっかり惑わされる周囲の人々。いやいや、なんでそんな勘違いを……と、もはやコメディ色強めの展開に。

だが、しかし。
ここで真正面から問いたい。
一体、「仕事ができる」とは、どういうコトか。
何をもって「シゴデキ」と判断するのか。

そこで、ふと我に返る。
これはもう、ただの笑い話では済まされないと。
「醸し出す雰囲気」や「ネームバリュー」。
「見た目」以外に、先入観を構成する材料はいくらでもある。
じつは気付いていないだけで、私たちも案外騙されていたりするのではと、そんな思いにかられてしまったのだ。

特に、歴史上の人物などは最たる例だろう。
何かを成し遂げたという「結果」にとらわれ、その人物の真の姿を見失っていないだろうか。
なかでも、ダイソンとやらの記事(ドキッ)。
苛烈な戦国時代を生き抜いたなどと、数名の戦国武将を取り上げて(ドキドキ……)。
その偉大さにスポットを当てることが多いが(確かに……)。
それは、果たして本当なのか?(なぬ?)

ということで。
今回の企画は、逆張りで。
彼らはホントに「シゴデキ」だったのか、その真の姿を考察しようという試みだ。
要は、戦国時代を代表する方のとっておきのエピソードを現代に置き換えてみるという話である。

妄想し、爆笑し、だが、冷静に。
彼らの真価を見極めたい。
さても、どなたがご登場するのか。
早速、ご紹介していこう。

※冒頭の画像は、橋本周延「織田、豊臣、徳川公之像」 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵 出典:東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)となります
※本記事は「織田信長」「豊臣秀吉」の表記で統一しています

予測不能な上司を目指す、やっかいな信長

さて、お1人目は。
前回もご登場いただいた、天下を……取り損ねた男、織田信長である。

確か、前回の戦国記事(怪異編)では。
ホームシックな蘇鉄に言葉をなくしていた様子だったと記憶している。
今回は、「シゴデキ編」での再登場。

それにしても、信長って……。
ズバリ、彼は「シゴデキ」上司といえるのだろうか。
うむ。これは、なかなか難しい問題である。

個人的な感想だが。
信長といえば、圧倒的なオーラがウリのイメージだ。それは誰も真似できない、生まれついてのモノのように思う。もちろん、見たことなどないから、あくまで後世に伝わる彼のエピソードに影響を受けた上での話だ。「直感」に忠実で、異国の文化をいち早く取り入れるなど、先を見通す力は冴えわたっていた。そういう意味でも、やはりカリスマ性があったのだろう。

ただ、突出した個性は、反面、ウィークポイントになる可能性も。
他人からどう思われようが気にせず、突き進む強さ。カリスマ性ゆえに周囲との間にできる溝。結果的に、信長の最期は、家臣に謀反を起こされるという最悪な結末を迎えることに。残念ながら、自身の未来を見通す力はなかったのか。いや、仮に見えていても、そのまま突き進んだように思えてならない。

歌川延一「本能寺焼討之図」 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵 出典:東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)

これだけでは、信長について「シゴデキ」の判定を下すのは難しいだろう。
となれば、いつものアレ。
戦国武将ら192名の言行をまとめた『名将言行録』にお世話になるしかない。

といういことで。
今回選んだ、信長のとっておきのエピソードはというと。
彼がぶちあげた「大将の作法」という話である。
具体的に、いつの頃の話かは定かではない。
ただ、嫡男「信忠」があとを継ぐ継がないの話が出てきているので。恐らく信忠に織田家の家督を譲る前、つまり天正3(1575)年11月頃、もしくはそれ以前ではないかと推測する。

エピソードの内容は、信長と家臣との問答である。
信長から、嫡男「信忠」についてその人柄を問われた家臣。
彼は「一段と御器用な方です」と答えた。
さらには信長から、どのようなところが器用なのかと質問攻め。
それに対する答えが、コチラ。

内藤は「お客来のときなどは、この人へ馬、またあの人へは物具小袖などを与えられるであろうと思っておりますと、その通り仰せ出されます」というと……
(岡谷繁実著『名将言行録』より一部抜粋) 

なるほど。
これは、家臣からすれば、かなりやりやすいだろう。
トップの意向を読めれば、先回りして動くことが可能だ。
何より自分で判断する場合も、ある程度、トップの意を汲んで反映することができる。

だが、そんな答えに、信長は……。

そんなことを、どうして器用などといえるか。それこそ不器用というものだ。とてもわしの後を継ぐことはできそうもないな。
(同上より一部抜粋)

おっと。
強烈なダメ出しとは。これは意外。
真っ向から反対している。
まあ、信長であれば「さもありなん」という感じだろうか。

それにしても、である。
どうしてこれがダメなのか、サッパリ分からない。
家臣から予測されれば、信長が指示を出すコトも最小限になるだろうに。
だが、信長は大反論。その理由をこう述べている。

──部下の者の予想を破ることが、大将のすべきコト

例えば、刀をくれるだろうと思っているところに小袖を渡す。馬をくれるだろうと思っているところに別の物を取らせる。褒美が予想されない者に金子(きんす)を多く渡す。
その予測不能さは、敵からすれば非常にやっかいとなる。兵を動かすのも同じコト。敵方が考えているシナリオとは違う動きをさせるからこそ、勝利を得ることができるのだと。

そして最後に、信長は、こうまとめている。

みた目にいかにも器用そうにふるまう者は、実は無分別の真っ盛りというべきなのだ。武士はありきたりの手段を取らずに、下から予想されぬのが本当の大将なのだぞ。
(同上より一部抜粋)

月岡芳年「本朝智仁英勇鑑」「織田上総介信長」 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵 出典:東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)

かっけー。
かっけーよ。

ありきたりの手段を取らない。
下から予想されない。それがホントの大将だと。

つまり、信長の家臣たちは。
一体、うちの殿はどこに向かってるのか、もうよく分かんねー。
けど、「殿、我らはどこまでもついていきますぜい」的な感じだろうか。
家臣たちは、信長に身を預けるしかない。と同時に、信長に置いてかれないように、全力で突っ走るしかないのである。

家臣から見た信長は、いつも斬新で。
予測できないからこそ、必死に食らいつかなければならない相手。これぞ、「シゴデキ」上司といえるのではないか。

うんん?
待って、待ってよ。ダイソン。
それって、ホント?

だってさ、予測不能って、言い換えれば、心理的安全性が担保されないのと同じだよ。
例えばさ……。
分かりやすく、現代版に置き換えてみたらどうだろうか。

─ダイソン劇場─
シゴデキ上司と評判のA課長。そのオーラは激アツで、毎回、課長の斬新なアイデアに驚くことばかり。一体、どう考えれば、そんな結論になるのか、凡人の私たちには分からないんだよねと、同僚と愚痴半分、憧れ半分で騒いでる。実際に彼の下で半年働いたが、とにかくその凄さが、身に染みて分かった。でも、彼だって人間だ。コミュニケーションをうまく図りつつ、社内の大注目のプロジェクトを任せてもらおうと根回しは完璧。そして、担当者の発表の1週間前に、とうとう、A課長に会議室に呼び出されたのである。

A課長:「色々……聞いてるよ。今度のプロジェクトに向けて、すっごく頑張ってるって」
私:「はい、絶対、担当したいので、やれるだけのコトは今からやっています」
A課長:「今の業務の整理はできそうか?」
私:「はい」(ヤバイ、来るぞ。とうとう、念願のプロジェクト業務が自分に割り振りされるのか……)
A課長:「もう一度訊くが、やってみたいか?」
私:「はい」(もう絶対100%イエスだって)
A課長:「今度のプロジェクトだけど……うちからは担当を出さない。そう、決めたんだ。みんな、キミが担当するって予想してたと思うけど。それをひっくり返してこそなんだよ。僕が思う『リーダー』っていうのはさ、周囲から予測されてしまうのは違うと思うんだよね。ありきたりな手段はクリエイティブに欠けるし。そうなったら惰性で仕事するしかないからね」
私:「はあ?(怒)」(何言ってんの、コイツ)

えええええええええ。
いや、これって「シゴデキ」上司の姿なのか?
予測不能っていうより、完全にカオス真っ只中じゃないか。
なんせ、頑張っても報われないかもしれないし。先が読めないから不安で仕方ない。上司が気になって、仕事に100%向き合えないのは、マイナスだろう。

というコトで。
信長のエピソードを現代版に置き換えると。
なんだかな。
疑心暗鬼になる明智光秀が分からなくもない、なんて思ったのである。

なぜか……どうしても笑いが起きる秀吉

さあ、それでは気を取り直して。
次のお2人目はというと。
やはり、爆笑戦国武将エピソード集には、絶対に欠かせないあのお方。

先ほどご紹介した1人目、織田信長の野望を引き継いで。
天下を取った男、豊臣秀吉のご登場である。

それにしても、なんだか最近になって。
来年の大河ドラマの関連のせいか、話題をさらいつつあるような気が。まあ、ダイソンはいつだって、24時間365日の大注目。大して変わりはない。

月岡芳年「月百姿」「志津か嶽月 秀吉」 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵 出典:東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)

そんな秀吉に関して。
またもや、直球の質問を投げよう。
ズバリ、彼は「シゴデキ」上司といえるのか。
うむ。これも、なかなか難しい問題である。

個人的な感想だが。
秀吉はじつに観察眼が鋭く、相手のニーズを読み取る力が抜群に長けていたように思う。だからこそ、底辺から這い上がって織田信長にも取り入ることができたし、さらには黒田孝高など実力派ブレーンを家臣に持つことができたのだ。
また、人心を掴むこと。そして、ここぞという時のパフォーマンス。
これも間違いなく「戦国随一」と言い切ってもいいだろう。

まさに、そのスキルを最大限いかして。
秀吉は、あっという間に天下統一を果たす。
なかでも「戦」に対する費用対効果の計算、その判断はさすが。
徹底的に相手が滅亡するまで戦うこともあったが、すべてガチで戦をしたワケではない。引くところは引き、緩急つけた様々なパフォーマンスで、戦わずして相手の戦意を喪失させるのもうまかった。

その一方で。
甥の秀次への仕打ちなど、もちろん首をかしげる判断もある。
特に、晩年の秀吉は朝鮮出兵、いわゆる「文禄・慶長の役」へと突っ走る。
これに関しては、結果も残せず、否定的な評価しかない。

こう考えると、秀吉の人生には華々しい成功もあれば、目を覆うほどの失敗もある。
これだけで「シゴデキ」の判定を下すのは難しいだろう。
となれば、いつもの如く『名将言行録』より、とっておきのエピソードを選ぶしかない。

さて、肝心の秀吉にまつわる話だが。
具体的な年代は分からない。ただ「このたび朝鮮へ軍勢をつかわした」という部分とその前後の内容から、恐らく「文禄の役」のために九州入りした頃だろう。つまり、天正20(1592)年頃だと推測する。

そんな大忙しの秀吉が、である。
日本にいる(もしくは出陣を待つ)大名や武将らが揃っている前で、自ら「能」を舞ってご披露ナウ。
ちょうど能の演目も半分ほど過ぎ、「太閤おぉ!」とイイ感じで場も盛り上がってきた時のこと。

相も変わらず、突然、秀吉は驚きの行動に出る。
それがコチラ。

すでに能が半分ほどすぎたとき、急に、「謡(うたい)をまず待て」といわれたので謡を止めたところ……
(岡谷繁実著『名将言行録』より一部抜粋) 

よく分からんが、なぜか能を一時中断。
それも秀吉がストップをかけたようだ。
現場は何が起きたか分からない。
秀吉の一挙手一投足を皆が見守るなか。
彼は意味深な発言をする。それがコチラ。

秀吉はかぶっていた面を頭の上に押し上げて「すぐに賄の者を呼べ」といって召し寄せられた。
(同上より一部抜粋)

いいねえ。
って、ついクセでつぶやいてしまったが。
秀吉の意図が、さっぱり分からん。
ただ、なんとなく。雰囲気的に、緊急性が高そうなのは分かる。

ちなみに「賄(まかない)の者」とは、簡単にいえば、食料や家計などを取り仕切る者を指す。
そんな人物を、である。
わざわざ能を舞っている最中に呼び出すとは、一体、何事か。
アゲアゲムードが一変。場が凍り付く。

さて、ここで秀吉は何を言ったのか。

その場で秀吉は「このたび朝鮮へ軍勢をつかわしたが、予定の兵糧がおそらく足りまいと思うので、いそいで倍用意せよ」と命じられた。すぐさま舞台に祐筆を召して文書を書かせ、朱印まで押して、そのあとはまた元のように面を顔に下ろして能を最後まで舞われた。
(同上より一部抜粋)

ふーむ。
確かに確かに。
今度は、シゴデキの場面っぽいぞ。

だって、やんやと先まで盛り上がっていても。
当の本人は、並行して兵糧計算までやってのけちゃう。
なんなら文書関連の業務に携わる「祐筆(ゆうひつ)」に文書を書かせて、さっさと押印。仕事も超早い。これぞ「シゴデキ」の条件の1つといえるだろう。

さらに、である。
能面を外して「シゴデキ」顔をチラ見せ。
用が終われば、何事もなかったかのように能面を戻して舞う。
このギャップがヤバい。
男性でも女性でも、こういうところを不意に見せられると、即沼落ち確定のはず。
実際、こんな上司がいれば、頼りがいがあるっていうものだ。

歌川延一「佐久間盛政秀吉ヲ襲ウ」 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵 出典:東京都立図書館デジタルアーカイブ(TOKYOアーカイブ)

……?
うん?

ちょ、ちょっと待って。ダイソン。またもや、早まらないで!

確かに、一見「シゴデキ」の場面にも見えるのだが。
果たして、それは本当か。
冷静に考えてみると、何か引っかからないか?

だってさ。
そもそもの話……兵糧が……ええい、もういいや。
四の五の言わずに、現代版に置き換えれば分かるコト。

──再びダイソン劇場──
明後日は我が社のキックオフミーティング。
目標達成に向けて意欲を高め、一体感を醸成する大切な場だ。ちなみに我が社は上場企業で、社員数は5000名程度。キックオフは、そんな全国の社員らが集まり一同に会す重要な社内行事。その準備を任されているのが、私の所属する管理本部。部を率いるのは現場からのたたき上げで、あっという間に部長までのし上がったB氏。仕事も早くて、社内社外問わず、ここぞという時のパフォーマンスも得意。一方で、親しみやすくて、気さく。女性にだらしないという噂もあるのだが、ひょうきんなお人柄で人気がある。

キックオフミーティングまであと2日。
この段階で、ほぼ準備を終えたのは驚きだ。部長が変われば、やり方も違う。例年よりも早く終わり、夜に簡単な食事会が開かれた。
その後は、お決まりのカラオケタイム。やんやと盛り上がり、このままキックオフまで突っ走るぞという部長の掛け声とともに、部長自らB’z(ビーズ)の「ウルトラソウル」なんかをご披露。
キレッキレで歌うB部長。
「ウルトラ!」と皆が掛け声を出す途中で。

「ちょっと、歌を止めてくれ!」とB部長。
皆、怪訝な顔で止まる。
止めたははいいが、今度は次に入れた歌が始まって、皆パニック。
「早く止めて!」「リモコンどこだよ?」と右往左往。

B部長はいきなりスマホを取り出し、コチラに背を向けて電話をかけ出した。
相手は、恐らくケータリング業者だ。
「ええ、そうです。……そうですね。ええ。急なんですけど、立食人数を倍に変更したいんです。ええ……」
そして、話し終わった途端、B部長はいきなりくるりと振り向いて、一言。
「さあ、もう1回、ウルトラソウルから行くぞお!」

えっ?
これって「シゴデキ」か?
もう、ツッコミどころ満載で、キーを打つ速度が追い付かないほど。

ってか、食事会開くの早くね?
まだ、キックオフミーティング終わってないじゃん。気が早いっていうか。部下は大変っていうか。
で、カラオケまで付き合って。「ウルトラソウル」の「ウルトラ!」っていうとこ。
めっちゃ、盛り上がるところ、そこ。んなとこで、止めるって。蛇の生殺し的な感じ。

いやいや、待て、ダイソン。
そこじゃない。

そもそも、人数、間違い過ぎじゃね?(そこだよ!)
「人数を倍」に変更って。どこをどう計算すれば、そんな数を弾き出せるんだか。
逆に仕事できなさすぎだろ。

というコトで。
秀吉のエピソードを現代版に置き換えると。
なんだかな。
とてもとても残念な気持ちになったのである。

最後に。
織田信長、豊臣秀吉。
カオスな戦国時代に頭角を現した彼らは、やはり「特別」なのだろう。
それは十分に分かっている。
だからといって、彼らの行動すべてが「シゴデキの結果だ」と鵜呑みにする必要はないのかもしれない。

──能ある鷹は爪を隠す
果たして、ご立派な爪が隠れているのか。
はたまた、爪そのものがないのか。

それは、鷹自身にしか分からないのである。

参考文献
『名将言行録』 岡谷繁実著  講談社 2019年8月

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