Culture
2019.09.30

145年以上に及ぶ美の伝承。女性の「美と健康」を生み出したライフスタイル展

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朝起きて、メイクをし、お気に入りのファッションに身を包み、香水をつけ、颯爽と仕事に出かけていく。休日には友達とショッピングに出かけ、スウイーツを食べ、ギャラリーでアートを楽しむ。今では当たり前のライフスタイルを145年以上の昔に思い描き、それらを具現化してきたのが「資生堂」です。

女性が社会に出て、自由に自分を表現し、やりたい仕事を手掛け、健やかに美しく、自分らしいスタイルで、自立し、歩き出す。そんな時代の先端を切り開いてきた「資生堂」の果たした役割には、図りしれないものがあります。

約200冊にも及ぶ花椿のバックナンバーが並ぶ様子は圧巻

世代を超えて受け継いでいく本物の美の変遷を一堂に展示

一企業の商品やブランドという枠組みを超え、時代の流れと共に美と健康をけん引し、流行を生み、女性の自立を促してきた資生堂の長年に渡る歴史。

女性のライフスタイルと美の変遷を一堂に集め、展示した「美と、美と、美。-資生堂のスタイル展-」が9月29日(日)まで日本橋高島屋で開催されています。ここを皮切りに、大阪、名古屋、京都、横浜の各高島屋店舗を巡回。令和という新しい時代を迎えた今、明治から現代まで、社会や女性がどんな風に変化したのか。その一端をこの展覧会は私たちに示唆してくれています。

祖母から母へ、母から娘へ、そして孫へと受け継いできたコト・モノ。子どもの頃、祖母や母の化粧台の前で、最初に触れた香りと美しさへの深い記憶を手繰り寄せるような展示の数々。かつて乙女だった女性も、現役の乙女世代も胸がキュンとなる、心躍る展覧会をレポートします。

歴代の「オイデルミン」<1897年(明治30年)-1997年(平成9年)>

全体を通して彩られた「赤」の色彩美は、優美で凛とした女性の象徴でもある

資生堂初の香水は「花椿」をイメージした香り。格子窓のようなディスプレイに、歴代の香水が約100点並ぶ様子はギャラリーのよう

展覧会場では、「赤」「花椿」「山名文夫(やまなあやお)」「セルジュ・ルタンス」「時代とメークの変遷」「香水瓶」など9つのテーマに沿って順路が作られています。まず最初に飛び込んでくるのは、赤い壁に囲まれた真っ赤なボトルたち。資生堂が化粧品事業をスタートし、西洋薬学の処方に基づき科学的に造られた初めての化粧水「オイデルミン」の歴代商品です。「赤い水」の愛称で親しまれたこの商品は、世界各国で現在も販売され続けているベストセラー。「本物を作り続けたい」という創業者の思いが、まさに脈々と受け継がれた資生堂の根幹と言えます。

写真撮影が可能な場所では、思い思いにインスタ映えを狙っての撮影が繰り広げられています。今見ても決して古くない、ボトルのデザイン。120年以上、愛され続けている化粧品だけあって、ロゴマークもレトロな可愛さが際立っています。各ブースの入り口には、歴代のオイデルミンのボトルを一輪挿しにして、椿が活けられていたり。そんな心憎い演出も今回の展示の魅力の一つとなっています。

衝撃的な企業文化誌や時代の最先端を映し出すポスター

1937年(昭和12年)に創刊され、女性誌の先駆けともなった企業文化誌「花椿」は、毎回、化粧品だけでなく、ファッションや映画、文学などといったカルチャーを取り上げ、流行のその先を常にリードしてきました。制作にあたり、当時では珍しかったアートディレクターを起用し、ビジュアルを前面に打ち出すなど、常に新しい切り口で時代に挑戦してきたといっても過言ではないはず。壁一面に展示された「花椿」の変遷はまさに日本の雑誌、紙媒体の表現の可能性やコミュニケーションツールとしての役割を私たちに改めて伝えてくれています。

仲條正義や澁谷克彦など時代をけん引したアートディレクターが手掛けた「花椿」は、鮮烈なインパクトを与え続けた

また、資生堂スタイルのデザインを確立させた山名文夫の繊細で優美な女性を描いたイラストレーションやアジアンビューティを世界に知らしめたモデルの山口小夜子さんを始め、斬新なスタイルで美を表現したアートや写真の美しさにも触れることができます。時を経てもなお美しいその時代、時代を飾った女優たちのビジュアルを見ていると、幼かった私たちの当時の記憶までもが鮮明に甦ってきます。ここから日本を代表するクリエーターが育ち、商業デザインや広告といったクリエーションが生み出されていったのです。

戦前から資生堂のイラストレーター、デザイナーとして活躍した山名文夫の世界は、モダンで洗練された資生堂のイメージを確立させた

日本女性の憧れの地、銀座。この地から資生堂がスタートした

日本初の民間洋風調剤薬局として「資生堂薬局」を創業

世界でもパリやニューヨークと並ぶハイセンスでおしゃれな街、銀座。まだここ銀座が運河に囲まれていた時代、1872年(明治5年)に「資生堂薬局」として創業しました。創業者である福原有信は、漢方医の家に生まれ、幕府医学所で西洋薬学を学び、東洋と西洋を融合した医薬品を生み出します。それが日本で初めて作られた練り歯磨き「福原衛生歯磨石鹸」です。

当時主流だった粉歯磨きの10倍以上の値段で、品質を第一に造られたのが「福原衛生歯磨石鹸」

「創業者である福原有信は、資生堂の社名の由来も易経から来ているように『万物はすべて大地から生まれる』という思想を持ち、薬学を勉強しながら、西洋の科学的な薬品を広めたい、西洋の技術と東洋の思想をハイブリットに融合したいという思いをずっと持ち続けていました。それは初代社長、福原信三にも受け継がれ、『世の中に美しくリッチなものを広めたい』と化粧品事業への思いにつながっていきました」と学芸員の丸毛敏行さん。

それは単に表面的な美しさではなく、内面的な美しさでもあり、人間本来のエネルギーを引き出すことだったといいます。

「資生堂のパッケージに使われる唐草模様は、自然に生まれ、強く育ち、美しくなっていく。その生命力を表現したものでもあります。命を受け継ぐエネルギーと同様、人間本来が持つ健やかさや美しさを引き出すために商品開発に情熱を注ぎこんだからこそ、145年以上にも及ぶ歴史が築かれたのだと思います」

宝石のようなカラフルな美しさでロングセラーの石鹸「ホネケーキ」は成分であるHONNEY(はちみつ)が名称の由来

1932年(昭和7年)から発売されているドルックスシリーズ

女性の活躍推進のまさに原動力。昭和初期に誕生したミス・シセイドウ

女性の活躍推進が叫ばれる昨今、すでに80年以上前から女性の社会進出を応援していたのが資生堂です。今では美容コンサルタントやカウンセリングは当たり前になっていますが、1934年(昭和9年)、「ミス・シセイドウ」として募集し、採用された女性たちが社会に出て活躍するとういのは、非常に珍しかったのです。さらに、元をたどれば、「ミス・シセイドウ」とは、和裁から洋裁へと移り変わろうとする時代に、「近代美容劇」という芝居形式で、最新の美容方法を伝える広報部の役目も果たしていたとか。終演後には、来場者の一人ひとりに肌タイプや好みを聞いて、化粧品の選び方のアドバイスをしていたそうです。それが時代の変化と共に販売スタッフとして美容相談の部分が需要を増し、美容部員へと進化していったのです。
「常に女性に対して社会に開かれている企業であり、戦前の女性にも華やかな文化や思想や教養が必要だと提案し続けたのが資生堂です。女性の職業がまだ限られていた時代に、一人の女性として、職業をもった婦人がきちんと自立していくことを打ち出していったのが『ミス・シセイドウ』の始まりだったのです」と丸毛さん。

化粧はあくまで女性の生き方を支えるものの一つ。美しくあるためには、生き方が豊かでなくてはならないという思想を象徴するこんなエピソードがあります。
「戦時中も危険の最先端にいる軍事工場で働いている女性たちに口紅を無料で配布していました。鉄が使えなかったので、木製で口紅を作ったそうです。どんな時代でも心豊かに生きるというメッセージがあったと思います」

女性が活躍できる時代だからこそ、先人たちが築き上げた歴史を振り返ることは、本当の豊かさ、美しさを知ることでもあるのだと思いました。

「美と、美と、美。-資生堂のスタイル展-」は、時代に合った豊かな品揃えを通して「暮らしの美」を提案する高島屋と145年以上に渡り美と健康を提案してきた資生堂の文化的活動を伝える展覧会。歴史ある二つの企業のコラボレーションにより、女性を中心としたライフスタイルの変遷をこの展示を通して、発信していきます。

「美と、美と、美。-資生堂のスタイル展-」

会期:2019年9月18日(水)~29日(日)
会場:日本橋高島屋S.C.本館8階ホール
時間:10時30分~20時(最終日は18時閉場・入場は閉場の30分前まで)
入場料(税込):一般800円(600円)、大学・高校生600円(400円)、中学生以下無料
( )内は前売り、及び団体10名様以上の割引料金
主催/「美と、美と、美。-資生堂のスタイル-」展実行委員会
特別協力/資生堂・資生堂企業資料館 企画制作グループ

■巡回会場(予定)
会期:2020年3月25日(水)~4月6日(月)
会場:大阪高島屋7階グランドホール

会期:2020年4月15日(水)~27日(月)
会場:ジェイアール名古屋タカシマヤ10階特設会場

会期:2020年7月22日(水)~8月10日(月)
会場:京都高島屋7階グランドホール

会期:2020年9月2日(水)~21日(月)
会場:横浜高島屋ギャラリー8階