我が家の菊のつぼみが大きくふくらみはじめました。菊には様々な品種があるため、1年中花を見ることができますが、多くの品種は秋に見頃を迎えます。11月には各地で菊まつりが開催され、菊人形や菊のコンテスト、鉢植え販売など、毎年大勢の見物客で賑わっています。
菊はデザインとしても日常的に見かける、とても身近な花ですよね。それでいて、愛好家以外はあまり関心を抱いていないことが多いような。
今回は、そろそろ見頃を迎える秋菊など、菊にスポットライトを当ててみました。
菊の節句
現在はあまり一般的ではなくなってしまいましたが、9月9日は重陽(ちょうよう)の節句です。重陽、つまり陰陽の「陽」である奇数が最大限に重なった日が9月9日ですが、陰陽思想では陰と陽のどちらに強く片寄ることはよくないと考えられたため、気を付けるべき日とされ、邪気祓いの祭りが行われたのです。
重陽の節句は菊の節句とも呼ばれ、お酒に菊の花びらを漬け込んだ菊酒を飲んだり、菊を浮かべた菊湯に浸かったり、菊の花を入れた菊枕を作ったりします。菊の花に赤、白、黄色の真綿を一晩かぶせ、翌朝に菊の露を含んだその綿で体を拭う「着せ綿(きせわた)」で、健康長寿を祈る風習もありました。今でも長崎に残るお祭り、「おくんち」の名前もこの重陽の節句の「9日(くにち)」がもとになっているものです。
現在の9月9日は昔の暦よりかなり早くてまだ猛暑日が続いていることも多く、秋菊はまだつぼみもつけていないことがほとんどです。旧暦の9月9日にあたるのは現在のカレンダーで約1ヶ月後、今年2019年は10月7日でしたが、この日もまだ菊のつぼみは硬い状態でした。昔の暦と今の気候とのずれを、こんなところでも感じることができます。
菊作りの歴史
菊は奈良時代末期から平安時代はじめごろに中国からもたらされ、観賞用だけではなく、薬草としても用いられていました。菊をこよなく愛した後鳥羽上皇によって菊紋が皇族の家紋とされてから、日本の花の中で特別な地位を占めるようになり、現在でも菊紋は皇族のものとなっています。
小倉百人一首にも菊を詠んだ歌が見られ、「心あてに折らばやおらむ初霜の 置きまどはせる白菊の花」など、菊が貴族の生活に深く浸透していたことが伺えます。
江戸時代の元禄期、5代将軍・徳川綱吉の時代になると、菊作りは爆発的な人気を博し、この頃に「嵯峨菊(さがぎく)」や「肥後菊(ひごぎく)」をはじめとする様々な品種や、1つの株から3つの花を咲かせる「三本仕立て(さんぼんじたて)」など現在にも繋がる技法が生まれました。
菊が仏花になる理由
菊、というとお葬式やお墓参りの花? と思うかたも多いのではないでしょうか。それが、何とはなしにこの花が敬遠される理由の1つでもあるように思うのですが、菊が仏花になるのには理由があります。
それは、菊の花には清浄な力が宿っていると信じられていたから。強い香りが邪気を祓うとされ、だからこそ仏花となったのです。また、菊は不老長寿の効能も持つ花とされました。
菊と酒
菊水、菊正宗、菊の司など、日本酒には菊という名前が付くものが見られます。個々の銘柄にそれぞれ別の名付けの理由があるのでしょうが、中国の菊酒伝説が日本にももたらされていたのが一因と思われます。
菊酒伝説は3世紀ごろの中国にすでに見られ、「菊酒は神仙の飲み物である」と謳われたり、虚弱体質で長生きできないと思われていた人が、菊酒によって健康を手に入れ、皇帝にまでなった、と伝えられたりしています。
芸能に見る菊
菊は、日本の古典芸能にもたびたび見られる花です。そのごく一部ですが、能の演目から3つ、ご紹介します。
菊慈童(きくじどう・流派によっては「枕慈童(まくらじどう)」)
誤って帝の枕をまたぐという重罪を犯した少年は、都から遠く離れた山奥へ追放されてしまいます。少年を憐れんだ帝は自分の枕を与え、少年はそれを抱えながら独り山奥で悲しみます。しかし、枕に添えられていた経文を少年が菊の葉に書き付けたところ、そこから滴った露は霊酒となり、少年は700年もの歳月、何も変わらない姿で生きていたのでした。勅使に会って初めてそれを知った少年は喜び、帝の永き治世と天下泰平を祈ります。
菊酒伝説が色濃く反映されている曲です。
恋重荷(こいのおもに)
御所で菊の世話をしていた男が、非常に高貴な女性、女御に身分違いの恋をしてしまいます。女御は男に、この包みを持ち上げて庭を何度も回れたら、その想いに応えよう、と伝えますが、錦の中身は重い岩。男は持ち上げられず、憤死します。女御は自分の仕打ちを悔い、男をねんごろに弔います。
菊の下葉を取る(菊の手入れの1つ)係、という役職があったことを窺わせる、興味深い演目です。
猩々(しょうじょう)
親孝行な男が、不思議な夢のお告げに従って市で酒を売ったところ、裕福になりました。市ごとに訪れてきていた、酒を好む海の妖精、猩々(しょうじょう)と酌み交わそうと、男は月の美しい秋の晩に川のほとりで待ちます。果たして猩々は姿を現し、友と会えたことを喜んで酒を飲んで舞い踊ります。猩々のくれた、汲んでも汲んでも尽きない酒壺は、翌朝男が目を覚ました後にもそのまま残っていました。
『薬の名をも菊の水』という台詞が出てきますが、これが酒です。また、『白菊の着せ綿』など、重陽の節句を思わせる台詞もあります。
2019年・全国のおもな菊まつり
2019年の主な菊まつり開催予定日は以下の通りです。
東京都
新宿御苑の菊花壇展
11/1(金)~11/15(金)
場所:新宿御苑
住所:東京都新宿区内藤町11
湯島天神文京菊まつり
11/1(金)~23(土・祝)
場所:湯島天満宮
住所:東京都文京区湯島3-30-1
高幡不動尊菊まつり
10/26(土)~11/17(日)
場所:高幡不動尊
住所:東京都日野市高幡733
茨城県
笠間の菊まつり
10/19(土)~11/24(日)
場所:笠間稲荷神社ほか市内
住所:茨城県笠間市笠間1番地笠間稲荷神社
福島県
二本松の菊まつり
10/1(火)~11/17(日)
場所:県立霞ヶ城公園
住所:福島県二本松市郭内3丁目
山形県
南陽の菊まつり(後期)
10/19(土)~11/10(日)
場所:南陽市中央花公園
住所:山形県南陽市三間通1096
新潟県
弥彦神社・菊まつり
11/1(土)~11/24(日)
場所:彌彦神社
住所:新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦2887-2
魚沼菊花展・浦佐菊まつり
10/31(木)~11/10(日)
場所:普光寺毘沙門堂
住所:新潟県南魚沼市浦佐2495
富山県
南砺菊まつり
11/3(日)~11/10(日)
場所:南砺市園芸植物園
住所:富山県南砺市柴田屋128番地
北海道
さっぽろ菊まつり
11/1(金)~11/3(日)
場所:札幌駅前通地下広場
住所:札幌市中央区
きたみ菊まつり
10/18(金)~10/27(日)
場所:北見芸術文化ホール前 北見駅南多目的広場 みんとロード(中央プロムナード)
住所:北海道北見市泉町1丁目3-22
愛知県
名古屋城菊花大会
10/27(日)~11/23(土・祝)
場所:名古屋城西之丸
住所:愛知県名古屋市中区本丸1番1号
兵庫県
相楽園菊花展
10/20(日)~11/23(土・祝)
場所:相楽園
住所:兵庫県神戸市中央区中山手通5丁目3−1
熊本県
菊人形・菊まつり
11月1日(金)~11月15日(金)
場所:菊池市民広場
住所:熊本県菊池市隈府1273-1