Culture
2020.06.02

「いつまでも帰る場所があると思うなよ」プロポーズから浮気疑惑まで。大人の恋に効く落語5選!

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芸能人の不倫だの火遊びだので連日賑やかな現代社会。できれば恋はハッピーでいきたいのに、なぜかうまくいかないのが世の習いです。
そんな悩める永遠の乙女におすすめなのが、男女のあれこれをテーマにした落語!リアルが身上の落語には、参考になる男女の仲を決めるセリフがたくさんあります。
言わせたい、伝えたい、ものにしたい。ファンタジーな恋を卒業した、大人のための落語的恋愛指南をどうぞ。

早よ結婚しろ!の両片思いに「崇徳院」

原因不明の病で伏せってしまった若旦那。出入りの職人・熊五郎が聞き出したところ、崇徳院の歌の上の句「瀬を早み岩にせかるる滝川の」と書いた短冊を手渡してくれたどこかのお嬢さんに一目惚れをして恋煩いだという。下の句は「われても末にあはむとぞ思ふ」。つまりは「私たちは離れてもまた再び出会うでしょう」という意味だ。旦那から息子の思い人を探すようにと言われてしまった熊さん。崇徳院の歌を手がかりに町中を探し歩くが…。

意訳「この恋は、きっと運命」

両片思いの若旦那とお嬢さんの会話が全くないのにも関わらず、ハッピーエンドをほのめかすサゲにほっこりする噺。
「今ここで別れても、水の流れはひとつになり川となるように、ふたりはまた出会うことになるでしょう」と言葉には出さず上の句だけ渡してほのめかすあたり、お嬢さんは奥ゆかしいようでなかなか積極的。
女の手練手管は、頭を使ってなんぼです。

浮気な恋の疑惑には「権助提灯」

ある大店の旦那。正妻の他に愛人を囲っている。しかし、妻も愛人の存在を認識しており、愛人も立場を自覚している。愛人が公認とされていた時代の話。

ある晩。妻「今日は風が強いから火事が心配です。あの娘(愛人)のところはばあやだけで女所帯。向こうに行ってあげたほうが良いのでは」。それを聞いた旦那、妻の心の広さと気遣いに感心しつつ「そうか。では向こうに行くとしよう」と、飯炊きの権助に提灯を持たせ、愛人の家に向かう。

愛人「こんな夜に奥様を差し置いてお泊めするなんて、愛人という分際で恐れ多いこと。どうぞ本宅へおかえりください」。仕方がないので権助と一緒に本宅へ戻ると

妻「あなたが向こうに止まっていただかないと私の顔が立ちません」

そこでまた愛人の家に権助を伴って行くと

愛人「分をわきまえていないと世間様から後ろ指を指されてしまいます」

何度か行ったり来たりを繰り返してへとへとの旦那、「おい権助、提灯を灯してくれ」

権助「その必要はねえだよ、もう夜が明けた」

意訳「いつまでも帰る場所があると思うなよ」

昨今、世間を騒がせているのが「不倫」ですが、その昔の日本では「愛人」は公認でした。その代わり、妻と愛人の生活の保障が絶対義務。甲斐性がなければただの「間男」扱いとなり、殺されても文句はいえません。「浮気は男の甲斐性」という昭和の言葉の裏には、そんな事情の名残があったわけです。

ところが、最近の不倫というものは「ゲス」という名がぴったり。「最近どうもあやしいな」という疑惑がわいたら、浮気と言えるうちに釘を刺しておくのも一考です。「匂わせ」なんぞ、愛人の風下にも置けませんなぁ(にっこり)。

やっぱり女房が一番「替わり目」

酔っ払って帰って来た旦那。寝酒を飲みたいとくだを巻く。つまみがないからと「おでんでも買いに行こうか」という女房の機転に「お前の好きなものも買ってきて良いよ」と気をよくする。おでんを買いに行くのに隣の部屋に入り化粧を始める女房に「お前の顔なんてなくたって良いんだよ」と毒づきながら「でもなあ…」としんみり。
「兄いに言われたんだよ、あれほどの女房はいねえぞ!ってな。本当はありがたいって思ってるんだ。腹の中じゃ、ありがとうっていつも手を合わせてるんだ…」
と元帳を見せたところで女房がまだ家にいることに気づき、

「お前、まだ居たのかよ!」

意訳「君は僕の宝物」

この話には後半があり、そこでタイトルの「替わり目」の謎が描かれています。しかし、サゲとしては間延びしてしまうきらいもあり、前半でサゲる型が多いようです。

女房をこき下ろす描写に異議を申し立てる女性も少なくない現代ですが、実は女房に頭が上がらない旦那を素直に笑いにしているところに落語のリアルが垣間見えます。

普段は亭主関白を夢見てイキってる殿方も、特別な日くらいはパートナーに感謝の言葉を伝えても罰は当たりますまい。

そろそろ次のステップに進みたい「宮戸川」

日本橋小網町の半七は、集金途中に将棋に夢中になってしまい家から締め出しをくってしまう。隣に住む船宿のお花も、友達とカルタに夢中になってしまい家に入れてもらえないという。半七が霊岸島の伯父さんのところに泊めてもらおうとすると、ダメだというのにお花もついて来た。伯父さんは案の定大誤解大会。すっかり半七の良い女としてお花を迎え、布団が一組しかないという2階の部屋に二人を閉じ込めてしまう。間違いが起きてはならないと構える半七と、まんざらではないお花。

やがて雨が降り、聞こえる遠雷の音。近くに落ちた雷に驚いたお花は、「半さん、怖い!」と半七の胸に飛び込んだ。思わずお花の背に腕を回すと、お花の真っ赤な地縮緬の襦袢の裾がパッと割れ、露わになるのは万年雪のような脚。半七の手がお花の太ももへ…。

と、ここから先は本が破れてわからない。筆も及ばぬ恋の情。お花半七、馴れ初めの一席。

意訳「言い訳を繰り返すのはもうおしまい」

後半は暗いシーンが続き、お花半七夫婦が見舞われた不幸は夢オチということで、前半のみがかけられる古典落語。
伯父さんの行動は、お花にしてみると「グッジョブ!」ですが、半七にしてみると、「日本橋のそこそこ大きな船宿の娘に、質屋稼業の息子なぞが手を出してはならない」という分別だったのかもしれません。

そんな分別も、お花にとってみれば煮え切らないのひとこと。落雷は「渡りに船」だったというわけです。船宿の娘だけに。

逆プロポーズ!「紺屋高尾」

神田紺屋町、染物屋吉兵衛のところの職人・久蔵が、吉原は三浦屋の太夫・高尾という大名道具に恋煩い。様子を見に来た医者の蘭石先生は「3年一生懸命に仕事をして、10両貯めたら会わせてやろう」と約束する。それを聞いた久蔵、すっかりやる気になり一生懸命に働いた。

そして3年。貯めたお金を欲しがる久蔵に理由を聞いた親方、すっかり感心して結城の着物に草履まで貸して吉原へと送り出す。蘭石先生の提案で「流山の醤油問屋のお大尽」という体にして吉原にやってきた。
部屋に上がると、恋い焦がれた高尾太夫。初回とは思えぬもてなしに、久蔵は夢の様な一夜を過ごした。

後朝の別れ。高尾の「ぬし、今度はいつ来てくんなます」の問いに、久蔵は恋い焦がれて3年お金を貯めて会いに来たことを打ち明ける。久蔵の真の言葉を聞いた高尾は、涙をほろり。

「あちきは来年2月15日に年季が明けんすによってぬしの元に参りんすが、ぬし、あちきを女房にしてくんなますか?」

傾城に誠の恋なしとは誰がいうなり、傾城に誠の恋あり、紺屋高尾の物語。

意訳「やっとあなたに逢えました」

職人と花魁の、身分違いの純愛噺。紺屋高尾は実在の人物です。「高尾」は三浦屋の最高位の太夫の名跡で、紺屋高尾は六代目。江戸時代に書かれた「高尾孝」には「心ばえ素直にて」とあり、歴代の高尾の中でも一段と優しく聡明な女性であったようです。ストーリーも実際のエピソードに基づいています。

四姓と枕を交わす自分の身分、課せられた太夫というブランド。それら一切関係なく、真に好いてくれる久蔵との出会い。「やっと逢えた」のは久蔵ではなく、高尾の方だったのかもしれません。

自由恋愛万歳!の落語の世界

その昔、恋愛は決して自由ではありませんでした。
男女 七歳にして席を同じうせず。親が決めた許嫁と所帯を持つのが当たり前、町人だって仲人が紹介する相手と結婚するのが当たり前の時代です。

しかし、落語はそんな男尊女卑で封建的な社会を風刺し、真っ向から反発します。旦那を尻に敷く賢い女房、手練手管で男をその気にさせる花魁。機転で立場を逆転させ、チャンスは自分から掴みにいく女たち。落語が包み隠さず描き出すのは、現在にも通じるリアルな女性の姿なのです。

両思いも片思いも、奪いたい恋も諦めたい恋も、そして守りたい想いも。
いつでも恋はドラマティックな奇跡。落語で粋なロマンスを!

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噺家の女房が語る落語案内帖