みなさんは、かまぼこって好きですか?
わたしは好きでも嫌いでもない…というのが正直なところ。お正月のかまぼこだって「1本1,000円とかびっくり、お安いので十分でしょ」と思うのですが、練り物好きの家族は「いいかまぼこはおいしい(たまには高いのが食べたい)」と言うのです。
それって本当? かまぼこで有名な小田原の老舗「鈴廣かまぼこ」へ取材に行ってきました。
訪ねたのはこちら、鈴廣蒲鉾本店のすぐ隣にある「かまぼこ博物館」です。伝統的なかまぼこの作り方や職人の技術、栄養について学ぶことができるほか、かまぼこ&ちくわ作りの体験もできるんですって。
かまぼことちくわは同じものだった!?
ところで、かまぼこって日本でいつ頃から食べられていたと思いますか?
なんと、日本書記に登場する神功皇后が、魚のすり身を鉾につけて焼いて食べたのがはじまりとされています。
平安時代には文献にはじめて「かまぼこ」の名が登場。永久3年(西暦1115年)、ときの関白左大臣藤原忠実の祝宴で出されたとういう記録があり、そのごちそうを再現したのがこちらです。
当時のかまぼこは、鉾(柄の長い武器の一種)に魚のすり身を付けて焼いたもので、見た目が蒲の穂に似ていたので「蒲鉾(かまぼこ)」という名がついたそう。右下のかまぼこ、よく見てみてください。今のかまぼこよりもちくわに近いですよね。というか、ちくわそのもの!
江戸で評判、小田原かまぼこ
その歴史はゆうに1000年を超えるかまぼこですが、実は長い間、皇族や貴族、戦国大名や将軍など高貴な人しか口にできないごちそうでした。それが庶民の口にも入るようになったのは江戸時代になってから。また、板に乗せて蒸すスタイルになったのも江戸時代になってからなんですって。せっかちな江戸っ子はそばができるのを待つ間のおつまみとして「板わさ」を好んだといいます。
当時の小田原では魚がたくさんとれたので、残った魚を保存するために網元がかまぼこを作るようになったそう。日持ちがするので箱根を越える旅人に重宝され、小田原かまぼこの評判は東海道を渡っていきました。
できたてを食べて驚く、魚のうまみがじゅわっ!
江戸っ子に愛され、箱根の山も越えて評判になったという小田原かまぼこの味、気になりませんか?
今も伝統の味を大切にしている鈴廣で、ぜひ体験してほしいのがこちら。かまぼこ博物館で体験できる「かまぼこ・ちくわ手づくり体験教室」です。わたしも体験してみました。
魚のすり身はハンバーグやクッキーのタネのようなやわらかさをイメージしていたのですが、弾力のある硬さに驚きました。この弾力こそが、かまぼこのおいしさのひみつ。
そしてなんといっても、できあがりの魚のうまみが凝縮されたような香り!生臭さはなくて、噛むとじゅわっと魚のうまみが染み出す感じ。
かまぼこって魚料理だったんだ!と腑に落ちる味がするんです。
小田原かまぼこがおいしい理由
おいしさの理由は、どうやら原料となる魚・水・塩。そして伝統的な製法にもあるようです。
まず魚。かまぼこに使われる魚は様々ですが白身魚が原料になることが多く、小田原かまぼこでは特に「グチ」(別名イシモチ)という魚がしなやかで弾力のあるかまぼこになると重宝されているのだそう。
かまぼこの作り方はまず、三枚におろした魚の身を水にさらして、血や脂をよくとりのぞきます。
使われる水は、箱根の山で約100年かけてろ過されるという箱根百年水。魚の血や脂と結合して臭みの原因となる鉄分が含まれていないので、かまぼこ作りにはぴったりの水なんです。
魚の身をよく水にさらしてしぼり、すり身にしたら、塩を加えてよく練ります。こうすることでたんぱく質がからみ合い、なめらかで弾力のあるかまぼこになるのだそう。塩は海水から作られたミネラル豊富な天日塩を使用。精製塩ではかまぼこのうまみが引き出せないといいます。
そして余計なものは入れずに、かまぼこ1本に7~10匹のグチを使うというから驚きませんか。これだけでもう、1本1,000円以上のお値段も納得!(つまり、安価なものほど混ぜ物をしているということですよね)
でき上がったすり身は板につけて蒸します。関西ではさらに焼いて仕上げることも。板にも大事な役割があって、かまぼこの水分を調節しておいしさをキープ、さらには防腐にもつながるといわれています。
伝統の味を守るのは、職人の技
取材に伺った日はちょうどかまぼこ作りの実演も見学できました。(かまぼこ作りは魚の仕入れに合わせて朝早くはじまるので、午前中が見学のチャンスです)
手際よく魚のすり身を包丁で伸ばして、まとめ、板につけて…と目の前でどんどんかまぼこができ上がっていきます。すっすっと流れるようにできていくので一見簡単そうにも見えるのですが、実はかまぼこ作りはとても高度な職人技。その技術を残すために定められた「水産練り製品製造技能士1級」という国家資格を取得するまでには、およそ10~15年も修行をする人が多いといいます。
全国に200~300人しかいない1級技能士のうち、2020年1月現在、鈴廣には14人が在籍。また1級技能士を目指して修行中の人もいるということでした。
作っているのは超特選かまぼこ「古今」。伝統的な製法で職人が手作りしているそのお値段は、税込みでなんと1本4,000円を超えるものも。
量やスピード、手頃な価格も求められる現代、機械化は決して悪いことではありません。ただそれでも、本当のかまぼこの味を守るのは職人の技だということなのでしょうか。真剣な姿そしてこだわりがつまったかまぼこに、人から人へ、技術をしっかりと受け継いでいくぞという気概を感じました。
技を科学する、鈴廣の挑戦も熱い!
もうひとつ紹介したいのが2016年のリニューアルで博物館に登場した「かまぼこの科学」というコーナーです。
鈴廣には「魚肉たんぱく研究所」という部門があって、伝統的な製法の温度、時間、pHなどを数値化して解析しているんですって。
つまり魚の身を水にさらしてしぼる、塩を加えて練るという工程によってたんぱく質がからみ合い、弾力のあるかまぼこになることが科学的にも分かっているそうです。
「でももちろん、昔の職人たちはそんなことは知らずにおいしいかまぼこを作り続けていたんですよね。」と尊敬をにじませるのは、今回、博物館をナビゲートしてくださった広報の奥村さんです。(最後のご紹介となってしまいすみません!)
「あまり知られていませんが、かまぼこは高たんぱくで、低脂肪。栄養面でも優秀なんですよ」という奥村さん。取材の最後に、おすすめの食べ方を教えてもらいました。
かまぼこのおいしい食べ方いろいろ
まず、かまぼこは1.2㎝の厚さに切ると弾力がしっかり楽しめるんですって。ちょうどかまぼこ板の厚みと同じくらいが目安です。
食べ方はまずはそのままで、お好みでわさびか柚子胡椒をちょんとつけて。
お醤油は?と聞くと「かまぼこの味を消してしまうのでおすすめしません」ときっぱり。
逆に意外と合うのはオリーブオイル、カルパッチョ風のアレンジです。「冷蔵庫の野菜とピンチョスにするのもおすすめ」とのこと。
なるほど切るだけで和のおつまみから洋のおもてなしメニューにもなって、かまぼこが冷蔵庫に1本あると便利そうです。
「あとは…うちの社長は最近、バナナが合うって言ってました」と奥村さん。
えっバナナ!?と引いてしまったわたしですが、「でも意外と、甘いものとしょっぱいものって合いますよね」とのこと。こんな感じでしょうか?
個人的には「伝統の味を守りつつも、型破り」と心に刺さったバナナ。挑戦って大事ですよね。気になる方はお試しあれ!
今回訪ねた鈴廣のかまぼこ博物館は、小田原または箱根湯本から箱根登山電車で2駅、風祭駅を出てすぐのところにあります。
近くには鈴廣のかまぼこを使った料理が食べられるレストランやカフェ、超特選かまぼこ「古今」などの食べ比べがワンコイン500円でできるかまぼこバーもあります。
鈴廣のかまぼこ博物館
住所:神奈川県小田原市風祭245
営業時間:9:00‐17:00
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