2025年、歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』『菅原伝授手習鏡(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』の全段通し上演が決定! 三大名作を一挙上演は30年ぶりとあって話題を集めています。江戸時代から愛され続ける三大名作が、一年を通して上演されるのは歴史的な出来事。武士の忠義、親子の情、幻想的な世界観——それぞれの作品が持つ魅力と、浮世絵にも描かれた名場面をひも解きながら、見どころを紹介します。
三大名作とは?
2025年3月、9月、10月歌舞伎座で上演される『仮名手本忠臣蔵』、『菅原伝授手習鏡』、『義経千本桜』は、元は人形浄瑠璃で人気を博した演目を歌舞伎に取り入れたもので、時代物の代表作とされています。「時代物」とは、江戸時代よりも古い時代の公家や武士の社会で起こった事件を題材にしたり、生々しい事件を時代背景を過去に置き直したりして、悲喜劇に仕立てられた作品を指します。
武士の忠義と庶民の葛藤を描いた『仮名手本忠臣蔵』
三大名作として現在も上演されているこれらの作品は、江戸時代の人々の人気も高いものでした。そのため、歌舞伎役者が演じる姿を題材にした「役者絵」にも多く描かれています。

赤穂藩主・浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)の家臣たち47人が、主君の仇として吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)を討った「赤穂事件」。この事件を題材にして、寛延元年(1748)に人形浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』が上演されました。『仮名手本忠臣蔵』は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目のなかでも、有名な作品の一つと言えるでしょう。忠義を通そうとする武士と、巻き込まれる周囲の人々の対比が、陰影に富んだ物語を生み出しています。
主人公の一人である大星由良之助(実際の事件では赤穂藩家老・大石内蔵助(おおいしくらのすけ))を沢村長十郎が、義士の一人・寺岡平右衛門を市川九蔵が、そして由良之助の息子・大星力弥を岩井粂三郎(いわいくめさぶろう)が演じている姿を描いた作品です。

七段目・通称茶屋場では、敵討ちの本心を隠して敵の目をくらますために、祇園の一力茶屋へ通いつめている由良之助の姿が描かれます。この場所には夫・勘平を敵討ちの仲間に加えるために遊女となったお軽がいて、ひょんなことから由良之助はお軽を身請けすると言うのですが、それにはある目的があったようで…。物語が動き出す様子が感じられる作品です。
我が子を身代わりにする悲劇『菅原伝授手習鏡』
『菅原伝授手習鏡』は、菅原道真(すがわらみちざね・菅丞相)の配流から、北野に天満自在天神としてまつられるまでを柱に、梅王丸、松王丸、桜丸の三つ子の活躍、様々な親子の別れを描いています。なかでも四段目「寺子屋」の悲劇は、役者の力量が試される名場面として知られています。

菅原道真の旧臣、武部源蔵(たけべげんぞう)夫婦は寺子屋をひらいて、主君の子ども秀才(しゅうさい)を匿っています。それがついに露見して首を打たなければならない事態に。仕方なくその日に入門した小太郎を身代わりにすると…。首実検に来た松王丸は、本物の秀才の首だと言って帰り、小太郎の母千代は、「お役に立ててくださったか」と言います。驚く夫婦に再び現れた松王丸は、小太郎は我が子であり、道真への報恩のために差し出したと本心を語り、深い悲しみをにじませるのでした。この作品では、松王丸の嘆きの前の登場人物が描かれています。
狐の化身が登場する『義経千本桜』
『義経千本桜』はタイトルに入っている源義経が平家討伐の後、兄の頼朝に疎まれて追われる様子を描いた物語です。ただ義経がずっと登場している訳ではなく、義経の家来に化けた源九郎狐(げんくろうきつね)が活躍するなど、ファンタジー要素が多いのも特徴です。

義経は同行を願う静御前に、再会までの形見として「初音の鼓」を与えて置き去りにします。そこへ静を連れ去ろうと男たちがやってきますが、守ったのは義経の家来・佐藤忠信(さとうただのぶ)でした。静の旅の供として付き従う忠信。四段目で静はようやく義経と再会しますが、2人の忠信が登場して、静の供をしていたのは、実は狐の化身だったことがわかります。朝廷の雨乞いのために鼓の皮とされた両親を慕う子狐が、忠信の姿を借りて鼓に付き添っていたのでした。この作品では、静が鼓を打ち、狐の正体が現れ始めている様子を描いています。
番外 初めての観劇はこちらを参考に
浮世絵を見て面白そう! と思われたら、上演中の歌舞伎観劇をお勧めします。脈々と受け継がれてきた作品の持つ奥深さが、感じられることと思います。
そして、元々は人形浄瑠璃のために書かれた作品なので、文楽も観劇して見比べると、面白さが倍増しますよ!
◎2025年4月5日(土)~4月30日(水)国立文楽劇場で『義経千本桜』を上演。
詳しくはコチラ▼
令和7年4月文楽公演
アイキャッチ:豊原国周「忠信 市川団十郎・しづか 中村福助」 国立国会図書館デジタルコレクション