風土を食べる、そんな湯宿へ
土地の風土や風習など郷土色が色濃くあらわれた、生活のなかから生まれた実用的な品、民芸。手仕事によってつくりだされる実用に徹した日用品に美を見出し、日々の暮らしを心豊かに。そんな民芸がもつ精神性は工芸品だけでなく、文化や芸能、そして食にまで及ぶと考えます。気候や環境などの必然から生まれ、おいしくおいしくと手をかけ工夫を凝らし、人のぬくもりとともに伝えられてきた食。贅沢な旅よりほっこり心が満たされる、そんな『食の民芸』に出会える湯宿へ行ってみませんか。
1 福岡県柳川
『阿久根』
ムツゴロウしかり、一見グロテスクに映るかもしれませんが、食べてみると実に美味なのです。粕漬けにしたり煮しめたり、焼いたり揚げたり酢でしめたり、もちろんお造りでもと、阿久根夫妻のもてなしには限りがありません。修繕を重ねながら、ていねいに使われてきた痕跡が気持ちいい築200年の古民家の料理宿。重曹泉のお湯にゆっくり浸かれば、熟眠の夜が待っています。
2 長野県野沢温泉
『村のホテル住吉屋』
郷土料理を昔ながらのスタイルで提供しているのが「住吉屋」。江戸時代からこの地に伝わる〝取り回し鉢〟と呼ばれる料理がいただけます。ここではぜひ早起きを。朝の光のなかでお風呂に入り、ゆっくり朝食を味わったら、携帯電話をオフにして。野鳥のさえずりや雪解け水の流れを聴いているうちに、またうとうとと…。そんなふうに、ゆるやかな時間を楽しみたい湯宿です。
取り回し鉢料理はおばあちゃんの味、山里のご馳走はこちらから!
3 山形県湯田川温泉
『甚内旅館』
甚内旅館では300年もの間、女将を中心に家族の手による料理でもてなしてきました。料理人が交替するといくばくかは変わるプロの料理ではなく、代々受け継がれる土地の味、宿の味。おへぎは素朴な郷土食ですが、夕食の会席膳も、小鉢がずらりと並ぶ朝食膳も、決して素人料理ではありません。
4 石川県白山千丈温泉
『うつお荘』
「採ったものをその日のうちに」とは女将さん。下処理に時間がかかるものや、季節外には塩蔵や乾燥させて貯蓄していた山菜も使うのですべてがその限りではありませんが、採れたてを味わってしまったら、もうほかでは満足できないのでしょう。予約人数に合わせて毎日使いきれる量だけ摘んできますが、20数年続けているのに、いまだに「これは?」という山菜やきのこに出合うことも。
5 長崎県壱岐島湯の本温泉
『平山旅館』
合わせだれに漬けた新鮮な魚介でいただく島茶漬け、とれたてのうにを炊き込んだうに飯、うに寿司、家庭のもてなし料理である地鶏と野菜のひきとおし鍋など、島の味はどれも魅力的。新鮮な刺身はもちろん、天日干しや燻製にした魚も美味。そして朝食名物、平山旅館の畑からの採れたて野菜のおいしいこと。2、3食ではとても味わいつくせない壱岐の味を、ぜひ連泊して楽しんで!