つぶらな瞳に丸み帯びた体型、ゆらゆらと首を振る動きがとても愛くるしい「赤べこ」。「赤べこ」とは、牛をモチーフにした福島生まれの郷土玩具であり、別名「幸運を運ぶ牛」とも言われる張り子の人形です。
可愛らしい姿にファンも多く、海外からの人気も高まっている注目のアイテム。また、2021年は丑年なので縁起の良い干支グッズといてはもちろん、病気や災難から逃れる疫病除けのお守りとしても注目を集めていますよね。
今年は丑年だけに、お家に赤べこを飾りたいな〜なんて考えていましたが……。あれ何県の郷土玩具だったっけ? なんで牛なのに赤いんだろう? と知らないことだらけ。
そんな疑問を解消すべく、和樂webライターの矢野詩織が「赤べこ伝説発祥の地」と言われる福島県会津地方に位置する柳津町(やないづちょう)に取材に行ってきました。
奥会津の玄関口である柳津町は、1200年もの歴史を誇る福満虚空藏菩薩圓藏寺(ふくまんこくぞうぼさつえんぞうじ)を中心に門前町として栄えてきた由緒ある町です。
現在、宿坊は旅館となり、湯治客に人気の風情ある温泉街に姿を変えています。
赤べこ伝説発祥の地、柳津町へ
取材に伺ったのは、2月。柳津町では、ぱらぱらと雪が降り、懐かしくも美しい白銀の世界が広がっています。
今回、取材を快く受けていただいたのは、会津柳津温泉「花ホテル滝のや」の支配人であり、柳津観光協会副会長の塩田恵介(しおだけいすけ)さん。資料を基に柳津町の歴史、赤べこ伝説について教えていただきました。
病気や災難除けの役目を担った赤い牛
赤べこの「べこ」とは、東北地方で「牛」を指す言葉。牛の体が赤いのは、赤色が厄除けや魔除けの色と考えられていたためだそうです。また、体に描かれた黒い斑点は、江戸時代に流行した感染症である疱瘡(ほうそう)を表したもの。当時は死に至る病とされていた疱瘡は、幼い子供がかかることが恐れられていました。赤べこに描かれた黒い斑点は、牛が身代わりになってできた班と言われており、会津地方では現在でも子供いる家庭に病気や災難から逃れるお守りとして赤べこを贈る習慣が残っているそうです。可愛らしい姿の郷土玩具に感染症を鎮めたいと願う人々の切なる想いが隠されていたとは、驚きでした。
シンボルになった牛、赤べこ伝説のルーツとは
「赤べこの発祥と言われるのが、柳津町の中心にある福満虚空藏菩薩圓藏寺です。赤べこ伝説のルーツと言われる開運撫牛の石像があり、願いを込めて撫でると叶うと言われています。地元の人から『柳津の虚空藏さま』と言われ親しまれており、丑歳・寅歳生れの守り本尊として信仰を集めているんですよ」と塩田さん。赤べこの伝説は以下のように伝えられています。
(以下、柳津観光協会公式サイト引用:https://aizu-yanaizu.com/feature/akabeko-legend/)
柳津町が「赤べこ発祥の地」となったのには、「赤べこ伝説」があります。
日本の東北地方では、「牛」のことを「ベコ」と呼びます。今から四百年ほど前の1611年に会津地方を襲った大地震で虚空藏堂をはじめ僧舎・民家が倒壊し柳津町も大被害を受けました。
震災後の1617年に初めて虚空藏堂(本堂)は現在の厳上に建てられましたが、本堂再建のため大材を厳上に運ぶのに大変困り果てていたところ、仏のお導きか、どこからともなく力強そうな赤毛の牛の群れが現れ、大材運搬に苦労していた黒毛の牛を助け、見事虚空藏堂(本堂)を建てることができたのです。
一生懸命手伝った赤毛の牛を「赤べこ」と呼び、忍耐と力強さが伝わりさらには福を運ぶ「赤べこ」として多くの人々に親しまれるようになりました。この伝説が、当柳津町が「赤べこ伝説発祥の地」と言われる由縁です。
今年は12年に1度の「丑寅まつり」を開催
塩田さんいわく「今年は丑年であり、また12年に1度開催される『丑寅まつり』の年でもあって、柳津町にとって重要な年です。まつりと言っても1日だけで終わるお祭りという意味ではなく、丑寅年の2年間、柳津町で様々な行事やイベントを開催するという意味です」
「丑寅まつり」は、福満虚空藏菩薩圓藏寺が丑年・寅年の守り本尊であることから、12年に1度開催される会津柳津町の大イベント。期間中は、柳津町の自然、食、温泉など存分に楽しめる様々な行事や特典が盛りだくさんだそう。
また、温泉ソムリエの私が特におすすめしたいのが、町自慢の柳津温泉! 日帰り入浴できる旅館や施設も多い印象でした。湯は圓蔵寺境内から引かれており「霊泉」とも言われる名湯。保温効果に優れたナトリウム塩化物泉の温泉は、体の芯から温まる気持ちのいい湯です。柳津町を訪れた際にぜひ体験してほしいです。
柳津観光協会の概要
柳津観光協会:https://aizu-yanaizu.com/
住所:福島県河沼郡柳津町柳津寺家町甲176-3
お問い合わせ:0241-42-2346
自分だけのオリジナル赤べこが作れる! 注目の「赤べこ絵付けキット」
今回、親切な塩田さんの計らいで、赤べこの絵付けが気軽に楽しめる「赤べこ絵付けキット」を開発した一般社団法人やないづ振興公社、赤べこ作家を目指す地域おこし協力隊の活動をご紹介いただきました。
ここからは「赤べこ絵付けキット」を販売している観光物産館清柳苑、道の駅会津柳津販売部マネージャーの渡部祐樹(わたべゆうき)さん(以下、渡部さん)にお話を伺います。
一般社団法人やないづ振興公社が手がけた「赤べこ絵付けキット」は、デザインに優れた県産品をたたえる「ふくしまベストデザインコンペティション」で2021年2月4日に最高賞を受賞。今、大注目のアイテムです。キットには赤べこ本体と3色のアクリル絵具、筆がセットになっており、簡単かつ気軽に絵付けができるようになっています。
「もともとは、清柳苑の2階で小学校や旅行で来られた団体のお客様をメインに赤べこの絵付けを体験していただいていました。コロナの影響で、校外学習ができなくなった学校も多く、どうにか絵付け体験ができる仕組みはないかと要望もあり、キットの開発が進みました。場所を問わず、手軽に絵付け体験ができるとあって、おかげさまで県内の学校を含め、様々な方から注文が増えています。お土産としても人気ですね」と渡部さん。
キットを使えば、枠にとどまらず自由に自分だけのオリジナル赤べこを作ることができるので、愛着もさらに深まりそうです。また、絵付けを楽しみながら、会津文化に触れる時間も素敵ですね。
さらに清柳苑では絵付けキットに続き、赤べこのガチャガチャも人気だそう。
「赤ベコと神獣を組み合わせた『神獣ベコたち』は、すぐに売り切れてしまう人気商品です。同じデザインが出ると別のデザインのものに交換するサービスも行っているので、全種類をまとめて購入する方も多いですよ」と渡部さん。子供よりも大人が夢中になっているそうです。神獣たちが並んだ姿が可愛くて、ついつい集めたくなりました。
その他、清柳苑には、柳津名物のソースカツ丼やあわソフトクリームなどのご当地グルメが豊富! 柳津町に訪れた際に必ず立ち立ち寄って欲しいスポットです。
道の駅 観光物産館清柳苑の概要
観光物産館清柳苑:http://yanaizu-kousya.info/seiryu.shtml
住所:福島県河沼郡柳津町大字柳津字下平乙179
お問い合わせ:0241-42-2324
柳津町の希望! 赤べこ職人を目指す若者
そして柳津町役場には、赤べこ職人を目指す注目の女性がいらっしゃると教えていただき、福島県柳津町役場地域振興課を訪れました。出迎えてくれたのは、地域振興課観光商工班副主査の芳賀貴(はがたかし)さん(以下、芳賀さん)。
現在、赤べこ職人を目指している地域おこし協力隊の伊藤千晴(いとうちはる)さん(以下、伊藤隊員)をご紹介いただきました。取材日には、お会いすることが叶わなったのですが、芳賀さんのサポートのおかげで、後日、お話を伺えました。
2019年の6月に柳津町の協力隊として着任した伊藤隊員。今年の6月で柳津町の地域おこし協力隊に参加して3年目になるそうです。具体的な活動は、柳津町の隣町である西会津町の野沢民芸企業組合で赤べこをはじめとした張り子製品の技術を学んでいます。地域おこし協力隊に参加しようと思ったきっかけを尋ねました。
「柳津町の協力隊に参加しようと思った理由は、“やりたいことが全て叶いそう”だと思ったから。その中の決め手になった一つに柳津町の景色があります。町民の皆さんは『そうかな? 』とおっしゃいますが私には只見川に沿うように拓いてきた暮らしの様子と、その景観がとても魅力的に見えました。もともと、10代のころから伝統的な技術を継承すること、職人の仕事に興味がありました。また、学生時代に協力隊の制度そのものについてや、伝統技術の継承に関する募集もあると知り、仕事を選ぶ選択肢としたことを覚えています。その後、一般企業での勤務を経て、転職をするタイミングで柳津町の地域おこし協力隊の募集に出会いました」と伊藤隊員。
赤べこ職人として独立するため、約2年かけて絵付けと伝統的な張り子を作る工程を学んだと教えてくれました。
現在は、絵付けに限らず、張り子制作に関わること全般について学び、柳津町で工房立ち上げるため、必要な機材や材料に関する勉強や準備を少しずつ始めているそうです。今まで愛されてきた会津の赤べこをこれからもずっと愛される存在として残していくためにも創業や事業運営に関する基本的な事をしっかりと学びたいと意欲を語っていただきました。
「私が柳津町で赤べこを作ることで『赤べこ伝説発祥の地柳津町』を福島県内にとどまらず、全国、世界に知ってもらえるよう働きかけていきたいです。虚空蔵様やあわまんじゅうなどに並ぶ、町を想起する主要な存在になりたいと考えています。愛され続ける赤べこは何か、を考えながら日々技術向上を目指し、新しいアイディアを積極的に取り入れる姿勢を忘れず、長く文化の継承を続ける事を心掛けていくつもりです。私が大好きになった柳津町を、歴史や文化、そして赤べこと共にたくさんの人に知ってもらい、訪れてもらうきっかけになり、そして赤べこ作りを続けることができればそれ以上のことはないと思います」と伊藤隊員。まっすぐな姿勢とピュアな言葉に胸が熱くなりました。
柳津町では、地元に根付く伝統文化を守るため、職人を目指す若者を支援する温かい取り組みが行われていました。取材を通じて、柳津町で活躍する様々な人に出会うことができ、人材こそ町の宝だなと実感しました。まずは、赤べこの歴史を知り、そして美しい自然や温泉、美味しいグルメを満喫しに柳津町を訪れてみてください。
柳津町役場の概要
柳津町役場:http://www.town.yanaizu.fukushima.jp
住所:福島県河沼郡柳津町大字柳津字下平乙234
お問い合わせ:0241-42-2112