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2023.02.24

まるで美術館!京都・鴨川沿いで極上のステイ【ザ・リッツ・カールトン京都】

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観光客に人気のまちと言えば、京都が思い浮かぶ人は多いでしょう。寺社仏閣を中心とした名所や、四季折々の自然が感じられる町並みが魅力的です。なかでも京都市内を中心に流れる鴨川は、京都をイメージさせる場所として知られています。

ザ・リッツ・カールトン京都は、平成26(2014)年に鴨川沿いの風光明媚な場所にオープンしました。ホテル内は、京都や日本の伝統とモダンを融合させたデザインで演出されていると聞き、訪れてみました。

古くは公家や貴族が愛した場所

ホテルがある二条通周辺は、鴨川と東山三十六峰を望む地として古くから愛されてきた場所です。公家や貴族の屋敷が建ち並び、月見の宴を催したこともあったとか。江戸時代には、室町時代から続く裕福な豪商・角倉了以(すみくらりょうい)の屋敷がありました。鴨川などの運河整備の事業の功績が認められて、それを称えるために土地一帯を徳川家康から賜ったとも言われています。

明治時代に入ると、日本の近代化の一端を担った藤田財閥の創始者、藤田伝三郎男爵の夷川邸(えびすがわてい)が建てられました。重要な文化的遺産の屋敷の一部はホテル内に移築して、館内レストラン「ラ・ロカンダ」の個室として使用しています。また夷川邸時代の珍しい灯籠なども、庭に置かれていて、見ることができます。

灯籠の下の部分にはマリア像が。弾圧が激しかった時代に、上から土をかぶせてひそかに礼拝していたキリシタン灯篭。

まるで美術館!人気のアートツアーを体験!

ザ・リッツ・カールトン京都では、宿泊客対象のアクティビティが充実しています。ホテル内での和菓子作り体験から、着物を着て人力車体験など多彩な内容。今回はすぐに予約で埋まってしまうという、無料のアートツアーを体験しました。ホテル内には、約400点以上ものアート作品があるそうです。

スタッフが最初に案内してくれたのは、玄関入ってすぐのエントランスロビー。縦長のスペースなので、縁側のような居心地の良い空間です。こちらの壁は、「七宝柄」をあしらった白い陶器で彩られています。「円を繋げた七宝柄は、人と人との縁を表す吉祥模様です」。ホテルが縁を繋ぐ意味も込められているようで、壁以外にも客室のドアや、宴会場のカーペットにも、この模様が使われています。

扉を通って館内に入ると、クリスタルビーズの球体で覆われた琵琶のアート作品が。柔らかな照明に照らされていて、まるで美術館のようです。「近づいてみてください。琵琶の弦が見えますよ」。本物の琵琶と、クリスタルビーズとのコラボレーションが独特の空気を生み出しています。

「ラ・ロカンダ」入り口には、幻想的な作品が飾られていました。光沢のあるサテン地に、淡い色彩で源氏物語をイメージした絵が描かれています。「人物がいるのが、わかりますか?」少し離れてみると、左側に烏帽子を被った男性が白く浮かび上がって見えます。光源氏でしょうか。右側には女性らしき姿も。間には几帳も描かれているような……。はっきりとわからないのが神秘的で、平安時代へ引き込まれていくような気分になりました。

ロビーの天井には京和傘をアレンジした照明、エレベーターホールの天井には富山の組子作品と、いたるところに日本の伝統美を感じます。一番驚いたのは、宴会場へ続く部屋の天井に版木が使われていたこと。「こちらは、奈良時代に中国から伝わったと言われる『京からかみ』の版木になります」。本来は、伝統模様を彫った版木を用いて、版画の手法で和紙をデザインする伝統工芸。美しさに惹かれたデザイナーが、版木そのものを天井にと希望したそうです。

新たに加わったパッションを感じる作品

今回のアートツアーでは、新たに加わったアート作品とも対面できました。日本だけでなく世界中のゲストを招くホテルのメインロビーに飾られた作品は、華麗かつダイナミックで、言葉を失って佇んでしまうほど。『無我』のタイトルの作品は、14枚のキャンバスに1000枚を超える金箔が使われています。目を近づけると、地色の赤い色が線のように無数に浮き出ていて、まるで古い屏風のような陰影を感じます。

総支配人とアーティストの思いが結実

ザ・リッツ・カールトン京都総支配人のカルロス・タレロさんと、作者のデビット・スタンリーさんから、作品についてお話を伺いました。「目にしたお客様が、あっ、と息をのむような作品を飾りたいと思ったのです」とカルロスさん。デビットさんは、赤と黒の絵の具と金沢本金箔で描く「武士道シリーズ」で、日本や海外から注目されているアーティストです。精神的な力強さを感じる作品を見たカルロスさんは、メインロビーにふさわしいと思ったそうです。

たたきつけた絵具が飛び散ったダイナミックな軌跡が印象的です。「この作業は失敗ができないので、座禅を組んで精神統一してから試みます」とデビットさん。刀を振るように弧を描いて絵具をたたきつける手法そのものが、武士道につながっている気がします。私が気になった赤い線についても、作業工程を教えていただきました。

鴨川と東山三十六峰をバックに左からデビットさんと、カルロスさん。カルロスさんは休日にアート作品巡りをするのが趣味。

「まずベースに赤のアクリル絵具を塗ります。そのアクリル絵具を糊代わりにして、乾く前に金箔を貼り付けます。その際、指で押し割るようにして金箔を貼ることで、下の赤色が割れ目から覗くようになります。指で押された部分は、他の金箔の部分よりも厚みが出る為、金箔に陰影が出来ます。金箔の多い今回の『無我』は、金箔自体はフラットですが、見る方向によって、光の当たり方によっては表情が変わるものになっています」

マサチューセッツ大学と北海道大学で日本史を専攻し、その後30年以上日本で生活しているデビットさん。にかわの使い方や伝統的な屏風の作り方など日本美術の基礎を学び、その後はデビットさんオリジナルの手法を生み出して、表現しています。日本の伝統とモダンが合わさった『無我』は、このホテルにふさわしい作品だと思いました。与えること、他者への配慮といった武士道の精神性が込められています。

部屋のしつらえもアート

アートを堪能して宿泊する部屋へと入ると、前方の窓一面がガラスで、鴨川の景色が絵画のように美しくて驚きました。部屋の空間もアートだったとは。昨年にホテル内のファブリックやカーペットを変えるソフトリノベーションを行ったそうで、その時に新調した桜をモチーフにしたクッションが、一際映えていました。

季節を感じる唯一無二のディナー

お楽しみの夕食は、令和3(2021)年の8月にオープンして以来、話題となっているエグゼクティブ イタリアン シェフ・井上勝人さんによる1日6席限定の「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」。移築した「夷川邸」脇にあるプライベートルームへ靴を脱いで上がると、落ち着いた空間が広がっていました。最初にディナーに使う食材が盛られた籠を見せてもらって、料理への期待感が高まります。全て井上シェフ自らが、生産者の元を訪ねて厳選した食材ばかり。「ホテルから車で30分も走れば生産者と直接会って話ができる環境ですので、作り手の温もりや、自然の躍動感をお伝えしたいと思っています」

こちらではメニューが存在しません。旬の食材を使って、「七十二侯※」をテーマに据えた一期一会の料理を、井上シェフが生み出します。ここでしか味わえない特別のディナーです。

一品、一品が食べたことのない食材の組み合わせで、驚くばかりでした。海老芋をタジン鍋で煮た料理は、風味と甘みがあって、トッピングされたトリュフとの相性も最高。その他にも、今回の料理では、京都で江戸時代から続く農家の10代目である石割照久(いしわりてるひさ)さんから仕入れた野菜が多く使われていました。付き合いは20年以上と話す井上シェフが信頼する生産者の1人。ディナーの料理を頂いた後も、食後感の軽やかさがあり、豊かな満足感に浸れたひとときでした。

※1年の変化を、72に分けた季節を表す方式

専属庭師から庭造りの手ほどき

寝心地の良いベットでいつになく熟睡し、テーブルサービスの朝食を頂いた後は、ミニチュア日本庭園のアクティビティに参加しました。ザ・リッツ・カールトン京都では、国内でも珍しい、専属の庭師を抱えています。その庭師の鈴木耕喜さんから直々に指導してもらえるなんて、中々ない体験です。丸い鉢の中に、水を使わずに自然美を枯山水で表現する……。実際の枯山水を見たことはあるけれど、それを自分でミニチュアで再現? できるのだろうか。

少し不安でしたが、鈴木さんから見本を見せてもらい、丁寧な説明を受けて、見よう見まねでトライしてみました。まずは鉢に土を盛って山の形を作ります。次に、石を効果的に配置します。その後は、盛った土の上に苔を貼り付けていきます。次第に、庭を設計しているような気分になって、この作業に没頭していきました。全体の形をチェックしていただくと、最後に土を掻き出して、水面に見立てる白い細かい石を敷き詰めます。この作業は難しいので、鈴木さんにやっていただきました。仕上げに砂紋を自ら引いて出来上がりです。実際の庭で見ている模様を描くことができて、楽しかったです。この作業用の熊手や砂かき棒は、鈴木さんの手作りなのだそう。

出来上がった作品は、こちらです。無言で作業する内に、心が癒されたような気がしました。土や石や苔といった自然のものに触れて枯山水を造る体験で、禅の世界に触れたような。これから庭を見る時も、興味が増しそうです。

スペシャルな旅を終えて

ザ・リッツ・カールトンでは、お客様のニーズを先読みし、こたえることを大事にしていると聞きました。勝手がわからなくてオロオロしていると、必ず近くのスタッフが気づいて話しかけてくれます。朝食のテーブルに着くと、名前を呼んで料理を運んでもらって感激しました。どの宿泊客にも、この対応をされているそうです。特別な記念日を、ここで過ごせたら幸せだろうなと思いました。ホテルの周囲は、古い趣のある店や、しゃれたカフェなどが並んでいます。そんな町歩きも楽しそうです。この地は水がきれいなことでも知られていて、周辺の川では蛍の姿も見かけられるとか。移動や観光をせずに、この場所でくつろぐのもいいかもしれませんね。

基本情報

ザ・リッツ・カールトン京都
場所:京都府京都市中京区鴨川二条大橋畔
アクセス:京都市営地下鉄東西線「京都市役所前駅」より徒歩約3分
公式ウェブサイト:https://www.ritzcarlton.com/jp/hotels/japan/kyoto

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。