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2019.09.17

葛飾北斎の足跡を訪ねて小布施・北斎館へ!名作勢揃い【長野】

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葛飾北斎が89歳(!)にしてなお盛んな制作意欲をもっていたことを表す、信州・小布施(おぶせ)「岩松院(がんしょういん)」の天井画『八方睨(はっぽうにら)み鳳凰(ほうおう)図』を拝すると、小布施における北斎の足跡はますます興味深く感じられるようになってきます。

北斎が小布施で描いた名画が見られる「北斎館」

次に向かうべきは、北斎が小布施で描いた肉筆画を中心に展示している美術館「北斎館」。ここには、北斎が2度目と3度目に訪れた時に描いた、祭屋台の天井画が展示されています。先ごろ大英博物館から展示の依頼があったというニュースが報じられたばかりの大作です。

85歳で小布施を再訪した北斎は、翌年も訪れ、祭屋台の天井絵を制作した

小布施ではかつて夏祭りの際に、各町が一基ずつ祭屋台を巡行させていたそうです。85歳のころ、小布施に半年ほど逗留(とうりゅう)した北斎は、まず東町祭屋台の天井絵『龍図』と『鳳凰図』を描いています。しぶきを上げる波濤(はとう)が取り囲む中、燃えるような紅地に飛翔(ひしょう)する龍と、暗い藍を基調にした背景に鮮やかな朱色で彩られた鳳凰。その筆致には『八方睨み鳳凰図』へとつながるイメージがすでに見られます。

151014-0341「北斎館」に展示されている上町祭屋台の天井絵・怒濤図『男浪』。上町祭屋台は高井鴻山によって新調されたもので、北斎はその天井絵を喜んで引き受けたことがうかがわれる。

翌年、再び小布施を訪れた北斎は上町祭屋台に取り組み、怒濤(どとう)図『男浪(おなみ)』と『女浪(めなみ)』で、砕け散る波しぶきや逆巻(さかま)く大波を見事に表現。その力強さは世界的名作『神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』を彷彿(ほうふつ)とさせながら、肉筆で描かれた怒濤図は、繊細で奥深い力感をたたえていて、つい見入ってしまうような迫力があります。さらに、上町祭屋台には、北斎が生涯にプロデュースした唯一の立体造形である『水滸伝(すいこでん)』に登場する軍師「皇孫勝(こうそんしょう)」と「応龍(おうりゅう)」の飾人形があり、天井絵の完成に1年、飾人形の完成までには3年を費やしたとされています。
151014 0351東町祭屋台の天井絵『鳳凰図』

「北斎館」に展示されているふたつの祭屋台の天井絵はいずれも複製なのですが、上町祭屋台の怒濤図『男浪』『女浪』の実物は見やすい位置に展示されていて、北斎の下絵をもとにして高井鴻山(たかいこうざん)が彩色したと伝わる縁絵までじっくり鑑賞することができます。この高井鴻山こそ、北斎と小布施を結ぶことになった人物なのです。

151014 0346同じく『龍図』。いずれも確かな筆致で勇猛かつ華麗な姿が表現され、『鳳凰図』は後に北斎が手がける「岩松院」の天井画との類似点が多い。

北斎を小布施へ招いた豪農商の高井鴻山

小布施の豪農商の家に生まれ、京都で学問や芸術を学んでから江戸へ出て、幅広い人脈を築いていた高井鴻山と北斎が知り合った所以については様々な説があります。中には、小布施に本店を持つ豪商「十八屋(じゅうはちや)」で北斎が借金をしていたことが縁だという説まであって、真相は謎のまま。それよりも気になるのは、北斎はなぜ80歳を過ぎてから、交通の便の悪い小布施を4回も訪れたのかということです。

たとえ馬や駕籠(かご)を使っていたとしても、信州への長旅は老体に堪(こた)えたはず。その理由を解き明かすカギは当時の時代背景にありました。
151014 0305これが「北斎館」に展示されている、絢爛豪華な東町祭屋台。天井絵は上に写真を掲載している『龍図』と『鳳凰図』。

北斎が80歳を過ぎたころ、世の中は天保4(1833)年から続いた「天保の飢饉(ききん)」で混乱を極めていて、幕府は「天保の改革」を断行。綱紀粛正(こうきしゅくせい)のために贅沢(ぜいたく)を禁じ、歌舞伎や音楽などの娯楽とともに浮世絵にも厳しい制限が下されていました。

そのため、思うように絵を描くことができなくなった北斎は江戸を離れることを決意。かつて知遇を得ていた小布施の豪農商・高井鴻山が父の死により帰郷し、家を継いでいたこともあり、招きに応じて小布施を目ざしたのです。

北斎館

昭和51(1976)年に開館した北斎館は、北斎が80歳を過ぎてから熱中した肉筆画をはじめ、北斎が手がけた2基の祭屋台や天井絵など、小布施で育まれた北斎の画業を鑑賞することができる美術館です。北斎の画業をたどる特別展にも定評があり、北斎を訪ねる小布施の旅には絶対欠かせません。

住所/長野県上高井郡小布施町小布施485
開館時間/9時~17時(5月1日~8月31日は18時まで、9月1日~11月3日は17時30分まで、1月1日は10時~15時。受け付けは閉館30分前まで)
休館日/12月31日 臨時休館あり
入館料/特別展1,000円
アクセス/長野電鉄「小布施」駅より徒歩約10分
151014 0282モダンなたたずまいの「北斎館」の入り口では、北斎自画像のレリーフが迎えてくれる。

写真/篠原宏明