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自分よりできるやつに任せられるときには、迷わず任せることだ(ロバート・ウッドラフ)
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2020.10.25

今、儲かる日本のスパイス!七味唐辛子の名家、八幡屋礒五郎に俺の願いをぶつけてきた。

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ガラムマサラというスパイスをご存知?名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。ガラム!って、なんだか武骨で強そうだもんね。記憶に残る名前です。

でも、それがミックススパイスであることを知っている人は意外と少ない。ガラムマサラは1種のスパイスでなく、3種〜10種くらいのミックススパイスだ。より芳醇な香りをつける為に使う。インドだと地域や家庭によって配合が変わる。

さて、ミックススパイスと言えば、日本にも伝統的なミックススパイスがあることを忘れてはいけない。七味唐辛子である。

かねてから僕は、この七味唐辛子でやりたいことがあった。
その想いを七味唐辛子の大名家にぶつけてきたので、ご一読いただきたい。

日本三大七味とは?

まず、七味唐辛子の歴史をおさらい。日本には三大七味と呼ばれる七味唐辛子の大名店が3つある。1つ目は「やげん堀中島」。七味唐辛子を開発した店だ。その誕生は江戸時代初期にさかのぼる。今の東日本橋あたりに「薬研堀(やげんぼり)」と呼ばれる区域があった。医者や薬屋さんが多いところで、ここに住んでいた中島徳右衛門という人が、

あ、やべー、思いついたわ。唐辛子入れた漢方作ったら、最高じゃね?

と、漢方薬の調合をヒントに七味唐辛子を考案。

美味しくて、薬種効果もありますぜ!っと販売を開始する。すると、これが大ヒット。三代将軍徳川家光の目にも止まり「これイケてんね!」と献上品にも選ばれた。現在は浅草に移転し変わらぬ人気ぶりを博している。

ちなみに七味唐辛子の構成は、唐辛子を使っている以外はお店やメーカーによって異なる。やげん堀の特徴は辛味の強さ。生の唐辛子と焼き唐辛子をそれぞれ一味とカウントして調合し使っている。

2つ目は京都。清水寺まわりの茶屋「河内屋」が参拝客や修行僧に、温まるよ〜と、からし湯(唐辛子をふりかけたお湯)を無料で振る舞っていた。で、唐辛子を扱っているうちに、七味唐辛子も作ってみっか!と屋号を気持ちいいくらいストレートな「七味屋」に変更。現在は「七味家本舗」となって、これまた名物店となっている。特徴は山椒が多めに入っているのと青海苔が入っている点。辛さよりも香りに重点を置いている。

そして、最後が「八幡屋礒五郎(ヤワタヤイソゴロウ)」である。

場所は長野県長野市。善光寺で初代勘右衛門が江戸から持ち帰られた七味唐辛子を見て、これ、うちの土地でも作れんぞ!と信州の七味唐辛子を発案。勘右衛門は、商い名を礒五郎にし、八幡宮の「八幡」を屋号にいただいて「八幡屋礒五郎」を創業。クラフト感抜群の信州七味唐辛子は名声を得る。

現在の八幡屋礒五郎は、とってもチャレンジ精神旺盛で、七味唐辛子を使ったスイーツやコスメなど枠を超えた商品展開に挑戦。多角的な経営で売上を伸ばしている。カンブリア宮殿にも出ちゃうほどだ。優良企業。そして、なんつったって冒頭で説明したガラムマサラまで作っているのですよ!

株式会社八幡屋礒五郎 常務取締役 コーポレート・コミュニケーション室長 室賀ゆう貴さんに、七味唐辛子最前線をお聞きした。
(以下タケナカリー:タ、室賀さん:室)

信州七味唐辛子のヒ・ミ・ツ♡

タ:本日は宜しくお願い致します!早速ですが、御社の七味唐辛子の特徴を教えて下さい。他の日本三大七味のお店みたいに、辛さ推し!香り推し!とかあるんですか?

室:そこで言うと、弊社が一番大切にしているのは辛さと香りのバランスですね。唐辛子は香りと辛さが一番引き立つ焙煎を独自研究して品質管理は徹底しています。唐辛子自体も自社農場で信州大学と一緒に長野の高地でも栽培できる品種「八幡屋礒五郎M-1」を開発してるんですよ。


八幡屋礒五郎M-1の苗

タ:唐辛子の品種開発とはすげー!七味で使われている内容にも違いがあるんですか?

室:それは生姜ですね。他のメーカーさんで生姜が入っているところは少ないと思います。長野はもともと寒い土地です。善光寺再建の際には、大工に生姜入りの七味唐辛子を汁にかけて振る舞ったと記録があります。昔の人は生姜が温まるってことを知っていたんでしょうね。生姜は創業から変わらず入っています。

タ:そうかぁ。寒いから生姜なんだ。土地によって配合のバックグラウンドがあるんですね。


収穫作業「もぎとり」の風景。手作業でふりわける。

室:そうですね。七味屋さんは、京都の料理に合うように香り重視の配合だし、やげん堀さんは、関東の濃い味に負けない配合で辛さを強くしてます。やっぱり、その土地の食文化に根付いていくんでしょうね。

これから儲かるスパイスは、山椒!?

タ:自社農園があるってお話でしたけど、基本的に七味唐辛子の素材は地産地消なんですか?

室:いえ、必ずしもそういうわけではないです。その時々の品質で決めていますね。海外で調達してるものもあります。例えば、麻の実。ちょっと前は中国産でしたが、現在はカナダ産です。前より雑味が消えて美味しくなりました。同じ素材でも品質の良し悪しは常にリサーチしてます。

タ:麻の実!芸能人がお騒がせしている大麻の種ですよね!?

室:そうですね(笑)でも、種にはそういう成分はありません。だから七味には昔から使われています。ちなみに、国際的には大麻の規制が緩和されてきたと言われてますが、麻の実を使った食品の輸出入はめちゃくちゃ厳しいんです。自国のものは緩和しても、外からは入れさせないんですね。だから、弊社の輸出用七味唐辛子には、麻の実は入ってません。代わりに、ゆずが入っています。

タ:へー!そうなんだ!海外から買っているのに不思議な話!他に入手が難しい七味唐辛子の素材ってありますか?

室:年々、入手が困難になっているのが山椒ですね。

ヨーロッパでスイーツに使われることが増えてから需要がうなぎのぼりです。弊社にも海外のレストランから問い合わせが来ますからね。製薬会社さんも薬の原料に買い付けるし、山椒はこれからも値段が上がると思います。専業農家さんも減ってますからね。

タ:へぇ…… こりゃぁ、 山椒で一儲けできそうですなぁ。

室:よくそんな悪い顔できますね。

日本のスパイス使いはマイノリティ?

タ:海外でも七味唐辛子を販売してらっしゃるんですね。売れてるんですか?

室:5年前から始めたんですが最初は全然売れなくて苦労しました。でも、今は世界各国とお取り引きがあります。ようやく海外でも売上が伸びてきたという感じです。七味って英語にすると、セブンフレーバーとか色んな言い方ができると思うんですが、私達はあえて “ SHICHIMI ” としてます。このまま英語の辞書に!ってくらいの気持ちで頑張ってます。

タ:SHICHIMIいいですね!でも、最初に売れなかったのはなぜですか?誰も知らなかったから?

室:それもありますが、そもそも食文化の違いがあるんです。七味唐辛子って、出来上がった料理にかけるものですよね。この「あとがけ」って文化が海外には、あんまりないんですよ。

タ:あとがけ?

室:基本的にスパイスは料理の途中に使うものなんです。欧米の食文化だと、あとがけは塩、胡椒、オリーブオイルくらい。東南アジアにもあとがけ文化はありますけど、こんなに食事に合わせて、あとがけの調味料がそろってるのは、日本くらいかもしれません。たぶん、料理に使う目的でなく、漢方薬から始まったものが多いからこうなったんでしょうね。

タ:その視点は無かったぁ!なるほど!確かにカレーも卓上でスパイス足すことは殆ど無いもんな。でも、どうやってそこを攻略していったんですか?

室:海外に営業に行く時は、その国の食文化に七味が合うか現地で試してみるんです。ピザに七味をかけて食べてみたりとか。それで合うね!ってなったものを実際に商談で食べてもらいます。すると大体、反応がいい。そこまでこぎ着けたら、最後に「ジャパンの“ SHICHIMI ”はクールでしょ?」って決めゼリフですね。コツコツやってきました。

タ:ホットなはずが、クール!

七の壁を越えて、辿り着く境地

タ:実は僕、八幡屋礒五郎さんにお願いしたいことがあるんです?

室:え?あ… はい、どうぞ…

タ:僕と一緒に七の壁を越えてくれませんか?

室:七の壁?

タ:そうです。七の壁越え。つまり、七味の先、です。十一味くらいまでは商品化されているのを確認しました。しかし、僕が求めているのは、そんなもんじゃありません。その先。室賀さんは、日本で一番クラシック&ベーシックなカレー粉S&Bの赤缶はご存知ですか?

室:はい…… もちろん知ってますが……

タ:こちらは30数種類のスパイスとハーブで作られていると言われています。当然、唐辛子も入っている。ということは、これは見方を変えれば三十数味唐辛子なわけです。

室:そ、そうですか?

タ:僕はこれも超えたい。そのためには何味くらいが妥当か考えてみました。そこで思いついたんです。掛け算してはどうかと…七味×七味!なんかご利益ありそう!名付けて四十九味唐辛子!一緒に作ってくれませんか!?

室:四十九味唐辛子!?

タ:そう!たぶん、すっげーカレー粉が出来上がると思うんですよ!今、熱意だけで喋ってます、僕!

室:なるほど… 49種類のスパイスを揃えられるかだな……

タ:あれー!?ダメ元で言ったんですけど!意外と前向きぃ!?

室:弊社ではお店から御依頼があれば配合を考えて、お店オリジナルの七味唐辛子や、ミックススパイスを作るサービスはしているんですよ。※詳細はコチラ。なので、全くできないというわけではないです。ただ、前代未聞なので、お約束はできないですが。。

タ:おー!そんなサービスが!そしたら八幡屋礒五郎さんと和樂webとのコラボで四十九味唐辛子を商品化しましょう!高木編集長にはまだ何も言ってないけどー!

室:まだ、検討段階だということを口を酸っぱくして言わせていただきます!でも、面白いとは思います!

タ:ゆくゆくは四十九日法要で、四十九味唐辛子をかけたカレーを食べて故人を偲ぶってことをやりたいんですよ!日本の習慣にまで定着させていきましょう!

室:それはマジで勝手にやって下さい。

ということで、四十九味唐辛子は、まさかの商品開発検討段階になりました!ありがとうございます!


善光寺の本店奥にある「横町カフェ」ではオリジナルのカレーも食べられるよ!

和樂web編集長セバスチャン高木さんは懐が深いからGO!出してくれるはずー!たぶん、売れますよー!たぶんー!この商品化ストーリーは、また別の回でー!乞うご期待ー!

■取材協力:株式会社八幡屋礒五郎

横町カフェ 店舗情報

所在地 長野市横町86-1【八幡屋礒五郎 本店に併設】
営業時間 10:00〜17:00(ラストオーダー16:30)
※テイクアウトメニューのご用意もございます。
定休日 なし(無休)
電話番号 026-232-8770
予約可。(GW、お盆、年末年始を除く)

■photo:柳下恭平

書いた人

カレー研究家、CHANCE THE CURRY代表です。ほぼ毎日カレーを食べています。最近は専ら日本的なカレーの模索にどっぷりで和食とスパイスの組み合わせを探求中です。執筆、レシピ開発やカレーイベントの主催、製品開発なども手がけてます。カレーから愛されたい。手がいつもカレー臭い。