昭和11(1936)年に創業し、『きよめ餅』の製造・販売一筋のきよめ餅総本家。なんと我らが中日ドラゴンズと同じ年、共に今年90周年を迎えるそうです。
そんな熱田神宮土産として長きにわたって愛されてきた伝統の味を、情熱を持って受け継いできた5代目社長の後藤尚子さんと、夫で統括部長の後藤徳生さんにお話を伺いました。地元名古屋の自慢『きよめ餅』のおいしさに迫ります!
愛され続けて90年!そのネーミングは故事にちなんだきよめ茶屋が由来
『きよめ餅』の生みの親は、尚子さんの祖父であり、初代の新谷栄之助さん。熱田神宮に名物を作りたいという熱い思いから考案したのだそうです。そしてこのネーミングの由来は、なんと江戸時代にまで遡ります。
かつて熱田神宮の西門近くに、参詣者たちがお茶を飲み、一息ついてから、身を清め、神前に向かったと言われる『きよめ茶屋』があったと伝わっています。この故事にちなんだ名を冠(かぶ)した『きよめ餅』を世に売り出し、その味を誕生当時のまま、現在まで大切に受け継いでいるのです。これが今も地元で愛され続けている理由の一つと言えるでしょう。
御多分に洩れず僕自身も、『きよめ餅』ファンの一人。5個入りの箱を買って「1日1個ずつ食べよう……」などと思っていても、ついつい手が止まらず、3日もあれば間違いなく空っぽになります。
手作業でのこだわり製法で変わらぬ味を今に伝える
変わらぬ味を作り続けるのはとても大変なこと。ロングセラーとして愛されているおいしさの秘訣を尚子さんに尋ねてみました。
「歯切れの良さと口溶け感を出すために、 朝6時から工場を稼働し、機械を使って餅と砂糖を毎朝1時間半かけてこねているんです。ただ機械任せにしてしまうと、砂糖のダマができて不完全な仕上がりになってしまうので、最終段階では手でこねています」と尚子さん。
繊細な口当たりも人気を支える大きな要素であるだけに、羽二重餅作りに妥協はありません。職人の研ぎ澄まされた感覚と技術であのおいしさが出来上がるのです。
こだわりの羽二重餅に包まれているのが、これまた絶品のこしあん。こちらも実に丁寧に作られています。餅と同じく、すべてを機械任せにできない水分量の加減は、やはり人間の長年の感覚が必須です。更に夏と冬では温度・湿度が違うので、それらに対応するため、あんこの固さを変えながら味の品質を保っているのだそう。細部に至るまで、変わらぬ美味しさを追求する姿勢は、90年の月日を歩んだ今も変わりません。
「こだわって作っていかないと、きよめ餅じゃなくなってしまうので」と語る徳生さんの目には情熱が宿ります。
やってみてわかる早業の凄み……怒涛のきよめ餅製造ラインに挑戦!
きよめ餅の歴史を知り、製造部分を少しだけ体験させていただくことに。僕が挑戦したのは、型にはめてお馴染みの丸形にすることと、『きよめ』の焼印を押すことです。味を決定づけるセクションではありませんが、商品の顔を作るという意味で、重要な工程です。
いざ、挑戦してみると、言うは易しとはまさにこのこと。柔らかくフワフワなきよめ餅をつまんで型に入れるだけでもひと苦労で、「優しくつかみながらも手早く」「ちょうど良い塩梅の力加減」が求められます。柔らかい餅の変幻自在な状態にもてあそばれながらも、何とか30個の型作りをやり遂げました。
次は最後の仕上げの焼印です。従業員の方が押しているところを事前に見せていただき、小気味いいリズム感で、テンポよく軽めに押していくのがコツだと見取り稽古で心得ました。
しかし、いざ実践してみると、難関で、初手から餅の表面に黒々とした刻印となってしまいました。想像したよりも更に軽いタッチが正解だと気づくものの、今度はそのコントロールを気にし過ぎてテンポが遅くなってしまい、焼印がみるみる冷めていくのです。そうなると焦りから、ますます乱れる手元。毎日大量のきよめ餅を作っている方々の冴えわたる技を体験し、どれほど大変かが痛いほど身に沁みました。
その生産数が人気の証!正月三が日も休まず稼働
毎日大量に作られているというきよめ餅ですが、実際にはどれくらい作られているのか尋ねてみると……。
「熱田神宮前という立地もあり、参拝客の数が購買数に比例します。初詣のある1月は、1年間でもピークです。平時でも1日に約7000個のきよめ餅を作っているのですが、年明けから三が日は、約45000個を生産します」と尚子さん。
それだけ熱田神宮参拝ときよめ餅は、切っても切れない関係にあるのだと言えます。毎月行われている熱田神宮の献茶会でも、きよめ餅が提供されているそうです。
「戦後の復興としてのお茶会の立ち上げから初代が手伝わせていただいたという歴史があります。それ以来、お茶会のお菓子にはきよめ餅を使っていただいているんですよ」。
伝統を守り、受け継ぎ、そして新たな挑戦もして、次世代に繋げていく
きよめ餅総本家では、伝統の味を守りながら、より幅広い年代の方に楽しんでもらうための様々なアプローチもしています。いわゆるプレーンなこしあんのきよめ餅だけでなく、季節限定のフレーバーも登場。今の時期は桜味が並んでいます。また、暑さの厳しい夏には、爽やかなレモン味を作ったり、秋には季節の味覚として栗を使ったりと、きよめ餅を通じて四季の移ろいを感じることもできます。
更に昨年は『きよめぱん』という商品がSNSで話題となり、きよめ餅総本家の名をグッと高めました。中日ドラゴンズの井上監督が、北海道日本ハムファイターズの新庄監督にプレゼントしたことが火付役となり、話題になったのです。
「戦後の混乱期にはきよめ餅総本家が、配給用のパンを作っていた時代がありました。その名残も含めつつ、復活させたいという思いがあり、小麦粉にもち粉を入れ、もちもちの食感に仕上げた生地に粒あんを入れる形で新たな『きよめパン』を作りました。もともと人気商品でしたが、井上監督と新庄監督のおかげで更に広がりました」と徳生さん。
伝統を守る努力と、新たな可能性を探る努力。この両輪で走るエネルギーがきよめ餅総本家の強さと言えるのかもしれません。
取材を通して学んだこと
こだわりを持って作られた美味しさが、時代を経ても変わらず味わえる幸せ。愛され続ける所以がよくわかりました。名古屋名物『きよめ餅』を大切に繋いできてくれた方々に、地元市民としては感謝の気持ちがあふれんばかりです。熱田神宮の隣で今日も『きよめ餅』が作られている、そんな名古屋の当たり前がいつまでも続いていきますように。
若い世代にとって和菓子は、どこか遠い存在になってしまっていることが危惧されがちな今日この頃ですが……。一度食べたら世代を超えて、おいしさの魅力が心に届くはず。近頃重視されがちな“見た目のかわいさ”と“食感の個性”も『きよめ餅』は持ち合わせていることですしね! とにかくみんな、いっぺん食べてみやあ!
きよめ餅総本家
名古屋市熱田区神宮三丁目7番21号
電話:052-681-6161
営業時間:8時30分~18時(年中無休)
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取材・構成/黒田直美 Photo/松井なおみ

