絶世の美女、妲己(だっき)や玉藻前に化けた「九尾の狐」伝説の地。栃木には恐ろしい石があった!

絶世の美女、妲己(だっき)や玉藻前に化けた「九尾の狐」伝説の地。栃木には恐ろしい石があった!

中国・殷の紂王(ちゅうおう)を夢中にさせ暴政を敷き、王朝を滅亡に追い込んだ妲己(だっき)。インドで班足太子(はんぞくたいし)を虜にし極悪非道を尽くした華陽夫人。周の幽王を狂わせ死に追いやった褒姒(ほうじ)。当時の権力者に取り入り、悪行を働いた絶世の美女たち。これらは皆「九尾の狐」という妖獣が化けたものと語られ、その触手は海を渡って日本にも…。
日本ではどのような美女に化け、どのような結末を迎えたのでしょうか。九尾の狐の伝説が残る那須の地を訪ねてきました。

九つの金の尾を持つ妖獣・九尾の狐

九尾の狐の伝説は日本だけではなく、中国、インド、ベトナム、朝鮮半島など広範囲に残っていて、九尾の狐が絶世の美女に化けてその時の権力者に取り入り悪行を働くというのが基本の流れです。悪行の話なのに、“美女”というだけでミステリアスで魅力的な話に感じてしまうのは男女問わずではないでしょうか。
いったいどんな美女が登場するのか、女性の私も興味津々。各国に残る伝説と九尾の狐が化けた美女をご紹介しましょう。

中国・殷 ~妲己として~

紀元前11世紀頃の中国・殷の時代。紂王は妲己という美女に骨抜きにされていました。実はこの妲己の正体は齢千年を経た妖獣・九尾の狐で、王の妾を食い殺してその身体を乗っ取っていたのです。

妲己は無実の人々を残虐に処刑して楽しんでいました。炭火の上に油を塗った胴の柱を橋のように渡し、その上を罪人に歩かせます。見事渡りきったら無罪放免!でも当然ながら熱さと油で上手く渡りきることはできずに、熱い銅にしがみついて焼け焦げるか火に落ちるかのどちらか。伝説とはいえ、想像するだけでもゾッとするような残虐な行い。それを見かねて忠告をした賢臣も処刑され、いつしか人々の心は離れていきました。最後は周の武王に攻め滅ぼされ、紂王は自殺。妲己は囚われて首を斬られました。

葛飾北斎「北斎漫画」十編 殷の妲己 国立国会図書館蔵

インド・耶竭陀国 ~華陽婦人として~

殷の滅亡から約700年後、インド・耶竭陀(まがた)国の班足太子のそばにいた悪女・華陽婦人も九尾の狐が化けたものとされています。千人もの人の首を切らせるなどの虐殺を働きますが、ひょんなことからその正体がバレることに。ある時、班足太子が庭で見つけた狐を弓で射たことがきっかけで、華陽夫人は頭に傷ができて寝込んでしまいます。医者に見せたところ妖狐だということがバレてしまい、正体を現して北の空へと逃げていきました。

再び中国・周 ~褒姒として~

九尾の狐が化けた美女は、妲己のいた殷を滅ぼした周の国にも時を経て現れます。
武王より12代後の幽王の時代、褒姒(ほうじ)という絶世の美女がいました。美しいのにニコリともしない褒姒。ある時、間違って上がった烽火(のろし)で諸侯が慌てて集まったのを見て、笑わないはずの褒姒が笑いました。幽王は褒姒の笑顔が見たいがために、有事でもないのに度々烽火を上げ諸侯を集めました。いよいよ本当に有事が起きた時には諸侯たちから見限られていて誰も集まらなく、幽王は命を落としたといわれています。

九尾の狐が次に狙いを定めたのは日本

時は流れ、今度は九尾の狐は16歳ほどの少女に化け、吉備真備の乗る遣唐使船に同乗し来日を果たします。「あれ?九尾の狐って飛べたはずでは…」という疑問が残りますが、伝説上のお話なのでここでは気にしないでおきましょう。

日本~玉藻前として~

九尾の狐は宮中に入り込み、鳥羽上皇に仕える女官となって玉藻前(たまものまえ)と呼ばれるようになります。そしてその美貌と博識から、次第に鳥羽上皇に寵愛されるようになりました。
そりゃあ何千年も生きていれば博識にもなりますよね(笑)

玉藻前を召してから鳥羽上皇は次第に顔色が悪くなり、臣下の言葉も聞き入れなくなっていきます。ですが時代は平安時代。困ったことがあれば陰陽師の登場です。陰陽師の安倍泰成が玉藻前の仕業と見抜き、真言を唱えた事で玉藻前は九尾の狐の姿に戻り、行方を眩ましました。

歌川国貞「安倍泰成調伏妖怪図 玉藻前 実は九尾の妖狐」 国立国会図書館蔵

九尾の狐は逃走しただけであって、安倍泰成によって滅ぼされたわけではありません。実は今も九尾の狐の力が残っている場所が栃木にあるというのです。いったいどのような場所なのか…。人に危害を加えていないのか…。恐る恐る伝説の場所を訪ねてみました。

九尾の狐は今、那須高原にいる!?

栃木県那須町には昔の人々が「生き物を殺す石」と信じた大きな石が祀られています。その名も「殺生石(せっしょうせき)」。おどろおどろしいネーミングです。国指定の名勝「おくのほそ道の風景地」のひとつで、松尾芭蕉も訪れたことがある場所です。

駐車場から殺生石までは木道が整備されていますが、荒涼とした景色が続き、なんとなく不安を感じる場所です。あまりにも硫黄の匂いが強いので、本当に殺される(ガスで中毒になる)のではないかと心配になるほど。実際、ガスの噴出量が多い時は立ち入りが規制されることがあるようで、小動物なら確かに死んでしまいそう。松尾芭蕉も「蜂蝶のたぐひ真砂の色の見えぬほど重なり死す」と残しています。

九尾の狐は、安倍泰成に正体を見破られたあと今度は下野の国(今の栃木県)の那須野ヶ原に現れ、弓の名手の上総介広常(かずさのすけひろつね)と三浦介義純(みうらのすけよしずみ)が追い詰め矢を射かけたところ、巨大な石に化身し、毒を放ち近づく生きものを殺したといわれています。
誰も近づかないまま時が流れ、後に村人からこの話を聞いた源翁(げんのう)和尚が経文を唱えたところ石は砕け三つに割れて飛び散りました。その一つでここに残ったものが那須の地の殺生石と伝えられています。

殺生石の手前には柵があり近づくことができません。少し離れた場所から眺めるのですが、例え近づくことができたとしても近づきたくない雰囲気を醸し出しています。

殺生石で行われる御神火祭

毎年5月、温泉(ゆぜん)神社では御神火祭(ごじんかさい)が行われます。白装束に身を包んだ参加者が松明を持ち温泉神社から殺生石まで行列し、御神火が燃える中、郷土芸能の白面金毛九尾狐太鼓が披露されます。

松明行列は一般の方も参加できますので(先着100名)、フェイスペイントでキツネメイクをしたり、狐のお面をかぶって行列に参加すると、より一層幻想的なお祭りを楽しめるでしょう


九尾の狐伝説はこのような形で那須の地に溶け込み、今では「きゅーびー」という名のゆるキャラに姿を変えて人々に親しまれるまでに。あの極悪非道の美女がこんなカワイイゆるキャラに化けてしまうとは…。日本人のゆるキャラ文化、恐るべし…。

瑞兆としての九尾の狐

古代中国では九尾狐は鳳凰や麒麟と並び瑞獣(瑞兆として姿を現すとされる動物)で、鳳凰は徳の高い王者による平安な治世に、麒麟(動物園にいるキリンとは別物)は仁の心を持つ君主が生まれると姿を現すといわれています。九尾の狐は漢王室の守り神とされた霊獣ですが、徳のない君主の場合には革命を促すので凶獣という側面も持ちあわせています。
今の時代に九尾の狐が現れたら一体どのような姿の美女に化けるのでしょうか。見てみたい気がしますが、平和が一番。ゆるキャラでじゅうぶんです(笑)

殺生石の基本情報
場所:栃木県那須郡那須町大字湯本182
webサイト:とちぎ旅ネット

絶世の美女、妲己(だっき)や玉藻前に化けた「九尾の狐」伝説の地。栃木には恐ろしい石があった!
この記事をSNSでシェアする
この記事をSNSでシェアする