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2020.09.02

可愛らしさを見せないために鼻を隠す!?獅子舞の舞い方は1つじゃなかった!

この記事を書いた人

獅子舞は日本で最も数が多い民俗芸能と言われています。自宅近くで獅子舞を見たことがあるという方もいるかもしれません。私は数年前まで実際の獅子舞を見たことがありませんでした。

しかし、石川県加賀市というところで獅子舞の取材を始めて、獅子舞の世界の魅力を知ることができました。地域ごとに全く異なる演目を行なっていることが注目すべきポイントです。この記事では、その多様さに迫っていきます。

日本の獅子舞

獅子舞は、厄を払う目的で日本全国に広まった民俗芸能です。正月や秋祭りなどの行事で太鼓や笛の音色とともに登場します。地域に活気や賑わいをもたらす芸能と言えるでしょう。

2000年代に全国各地で作成された民俗芸能調査報告書によれば、日本国内の約8000地域で伝承されていたようです。その中でも特に多いのが富山県や石川県。全国の約4分の1がこれらの地域で行われていました。現在は、人口減少などが原因で担い手不足となり、衰退してしまった地域もあります。しかし、今でも獅子舞の多様さは健在です。

現在も獅子舞が多く存在する石川県加賀市


わたしが訪れた石川県南部に位置する加賀市にも、獅子舞が多く存在します。石川県教育委員会の1986年の調査によると、市内の100地区以上で獅子舞が実施されていたようです。実際に、2019年から2020年7月まで33地区を取材し、多くの地域で獅子舞が現存していることが確認できました。

獅子舞の担い手の方々に伝来経路や由来について尋ねると、地域によって回答はさまざまです。石川県内の能登半島や金沢から伝わったものもあれば、富山県や三重県から伝わったものもあります。伝来経路が違う上に地域独自の発展を遂げたものもあり、獅子舞に対する捉え方が全く異なるのです。

獅子舞は個性溢れる文化!

頭を噛む獅子

一般的に獅子舞は「厄を払う存在」として広く認識されています。獅子は古代より飢饉や疫病、悪魔を追い払うと考えられてきました。獅子舞の演目の合間などに、観客の頭を噛む動作をしているのを見たことがある方も多いでしょう。これは頭を噛むことで邪気を食べるという意味があるからです。しかし、厄を払うといっても地域によって捉え方は異なります。

頭ではなくお尻を噛む地域があった

この獅子舞の厄を払う役割に関連して、石川県加賀市では独特の動作が存在します。例えば、観光客の多い片山津温泉周辺では以前、ホテルや旅館で獅子舞が披露されていたようです。獅子舞を演じる青年団の32年前の活動記録によれば、獅子がお客さんのお尻を噛むという動作があったのだとか。頭を噛むという話はよく聞きますが、お尻を噛むということもあったようです。

あえて鼻を隠して睨み付ける

また、山代温泉周辺では「獅子の鼻を観客に見せてはいけない」という言い伝えがあると聞きました。獅子は厄を払う役割があるので、睨みつける振る舞いを演出する必要があります。そのため、可愛らしい印象を与える鼻というパーツを観客に見せてはいけないのです。ただ、鼻を見せてはいけないと言っても、完全に隠すというわけではありません。徹底して獅子の鼻を地面の方向に向けて舞うことで、可愛らしさを観客に直接見せないように工夫しているのです。

獅子が退治される地域もある!?

獅子が厄を払う存在として、地域に広まっていることはお分りいただけたかと思います。しかし人間の捉え方は面白いもので、厄を払い人間を守るはずの獅子を退治してしまうという獅子舞もあるようです。

それが顕著に見られるのが、石川県の金沢で発祥した「加賀獅子」という種類の獅子舞です。加賀獅子は「殺し獅子」とも呼ばれ、棒振り(※)という役割の人が獅子を殺す演目があります。これは強さの象徴とも言える獅子を殺す様子を悪霊に見せることで、その悪霊を退散させるという考え方から来ているようです。

※獅子舞において、馬の毛で作られた「しゃんが」を頭に被り、素手、棒、太刀、小太刀、薙刀、鎖鎌などの武器を手に、獅子に立ち向かう演者を棒振りという。

獅子が後ろに引きずられる

引きずられる獅子

殺し獅子は金沢だけでなく、様々な伝来経路を経て石川県の各地に伝わりました。加賀市の獅子舞にも同じような演目が多数存在します。ここでは、特徴的な塩浜町の例をご紹介しましょう。まず、棒振りが獅子を退治する所までは同じなのですが、その後に獅子が約50m後ろに引きずられます。演者が一見怪我をしてしまいそうですが、靴の裏側で摩擦を集中的に受け止めているようです。このように獅子を退治すると言っても、地域によって演出が違います。

獅子舞には多様な楽しみがある!

獅子舞は民俗芸能なので、舞い方や動作に全国的な決まりがあるわけではありません。だからこそ人から人、地域から地域へと伝承される中で独自の解釈が生まれました。それが今日の奥深い獅子舞の世界に繋がったのです。

石川県以外にも独自の獅子舞は全国各地にあります。鳥取の麒麟獅子、富山の百足(むかで)獅子、関東の三匹獅子舞、三重県の伊勢太神楽、東北のしし踊りなど挙げるとキリがありません。

獅子舞の地域性を知ることで、獅子舞は「ありふれたもの」ではなく、「多様な楽しみ方ができるもの」に見えてくるでしょう。そして、獅子舞を今まで以上に楽しむことができるかもしれません。

書いた人

千葉県在住。国内外問わず旅に出て、その土地の伝統文化にまつわる記事などを書いている。得意分野は「獅子舞」と「古民家」。獅子舞の鼻を撮影しまくって記事を書いたり、写真集を作ったりしている。古民家鑑定士の資格を取得し全国の古民家を100軒取材、論文を書いた経験がある。長距離徒歩を好み、エネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もあった。