浮世絵の巨人として名高い葛飾北斎。日本人にとって北斎と言えば、「冨嶽三十六景」に代表される浮世絵版画の絵師であり、欧米の人にとって最も有名な日本画と言えば、同シリーズの「神奈川沖浪裏」。当然、北斎=版画のイメージが浸透しています。ですが! 世界で最も著名な日本の画家であるにも拘わらず、北斎=版画家という私たち日本人が思い描く北斎像は、あまりにチープすぎるのではないでしょうか。
本当のところ、北斎の魅力は版画だけを見ていたのでは決してわかるものではありません。美人画を含め、花鳥画や風景画など数多くのジャンルを手がけた北斎の作品の中でも取り分け美しい作品として、もっと認識されるべきは彼の肉筆作品だと言えるのです。
葛飾北斎「竹林に虎図」絹本着色 73.0×31.5㎝ 天保10年(1839) 個人蔵
自称“画狂人”ぶりは肉筆画にあり
北斎期に描かれた多くの美人画に見られるように、この時期の肉筆画の線描には圧倒的な技術力に裏打ちされた力強い表現が楽しめます。たとえば「花和尚図」。水滸伝に出てくる英雄を描いたこの図版は60代とやや晩年に差し掛かりつつある「北斎為一」と名乗った時期の肉筆画ですが、勢いのある直線と大胆なまでに誇張された力強い曲線の織り成すコントラストが、北斎の筆力の確かさを物語っています。
葛飾北斎「花和尚図」絹本着色 105.5×42.4㎝ 文政10年(1827)頃 個人蔵
一方、「冨嶽三十六景」と同じ画題である「不二図」のほうは北斎が88歳の最晩年に描いた肉筆画。よく見ると、双龍に見立てられた松の幹の線描は、非常に細かい破線によって表現されています。これが何を表すか……。
葛飾北斎「不二図」絹本着色 28.7×37.6㎝ 弘化4年(1847) 個人蔵
さすがの北斎も老いには勝てず、すでに一本の長い線を一気に引く力を失っていたのです。しかし、その悲しい肉体的な制約をも笑い飛ばすかのように、巧みな筆さばきによって震える線を効果的に利用してしまうのが北斎の実力。
この類稀な天才絵師の真骨頂は、こうした感動的な表現を垣間見ることができる、肉筆にこそ記されているのだということがご理解いただけたでしょうか。
北斎の肉筆画を見に行こう!「新・北斎展」開催中
新・北斎展 HOKUSAI UPDATED
会期:開催中〜〜2019年3月24日
会場:森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木 6‐10‐1
開館時間:10:00~20:00、火曜日のみ17:00まで
TEL:03-5777-8600
公式サイト
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