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2019.09.12

人気No.1からNEXTスターまで。見て知ってハマる!アイドルみたいな仏像の世界

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奈良や鎌倉の大仏、千手観音、十一面観音、不動明王、阿修羅…。
仏像と一口に言っても、その姿形や大きさ、名称はそれぞれ大きく異なっています。

もしかしたら、それが仏像を難しいものと感じさせてしまっている一因かもしれません。

そこで、仏像とはそもそもどうしてできたのか、どんな種類があるのか、どこを見ればいいのか――。

国宝仏像とともに、根本的な部分からから鑑賞ポイントまで、わかりやすくご説明したいと思います。

仏像はどのようにして生まれたの?

仏教の祖である釈迦(しゃか)がこの世を去って500年もたったころ、人々にとって釈迦の記憶は遠いものとなっていたといいます。

そこで、仏教を多くの人に広めようと考えた僧たちによって、釈迦の姿を映した像がつくられました。
それが仏像の始まりでした。

仏教はその後、インドから中国、東南アジア、日本へと伝わっていくのですが、その途中で、古代インド神話の神々など各地の信仰がミックスされるようになります。
三大宗教の中で最も柔軟で包容力がある仏教は、それらを反映し、仏様の種類も増加。それが、さまざまな姿の仏像がつくられることにつながったのです。

ちなみに、日本に初めて仏像がもたらされたのは欽明天皇13(552)年、百済(くだら)の聖明王から金銅の釈迦像が贈られたことが「日本書紀」に記されていて、敏達天皇13(584)年には百済から弥勒菩薩(みろくぼさつ)の石像が贈られています。

仏像にはどんな種類があるの?

仏像は大きく4つの種類に分かれています。

釈迦と同様に悟りを開いた者を表した「如来(にょらい)」。悟りを求める人々を救い助ける「菩薩(ぼさつ)」。密教の荒ぶる仏様の「明王(みょうおう)」。古代インドの神々から転じて仏教の守護神となった「天(てん)」。
尊格という仏様の序列は、如来、菩薩、明王、天の順になっています。

如来や菩薩は正式名称にその名が用いられることが多く、明王は炎を背負った見た目の怖さが特徴です。
天の場合は名称でわかるものが少なく、姿形もさまざま。如来、菩薩、明王とは明らかに違っていると感じたものは、ほぼ天だと思っていいかもしれません。

といったところで、4種類の仏像それぞれの役割や見た目の特徴を、国宝仏像の写真とともにご紹介します。
これを知っておけば、仏像鑑賞がより深く楽しめることは請け合いです!

「如来」悟りを開いた最高ランクの仏様

釈迦が悟りを開いた後の様子を表した「如来」の仏像は、奈良や鎌倉の大仏のように、衲衣(のうえ)と呼ばれる衣を肩にかけただけの簡素な姿をしています。

如来を代表するのは釈迦の姿を表した「釈迦如来」で、すわった姿の坐像(ざそう)や立ち姿の立像(りゅうぞう)のほかに、生まれてすぐ「天上天下唯我独尊(てんじょうてんがゆいがどくそん)」と言ったときの姿を表した誕生像、入滅前の横になった姿の涅槃像(ねはんぞう)などがあります。

ほかに、極楽浄土を治める「阿弥陀如来(あみだにょらい)」、密教の中心仏「大日如来(だいにちにょらい)」、現世利益(げんぜりやく)を願う「薬師如来(やくしにょらい)」などがつくられました。

如来像の見た目の特賞は、装飾品は一切なく、髪型は一見パンチパーマのような螺髪(らほつ)が基本。
ただし、「大日如来」は仏を統括する特別の存在であるため、頭には宝冠(ほうかん)をかぶり菩薩と同じような装飾品を身につけています。

如来像が何を表しているのかは印相(両手の形)を見れば一目瞭然!
代表的なものをあげると、右手を控えめにあげた施無畏印(せむいいん)は「恐れなくていい」、左手を膝のところで上向きに置いた与願印(よがんいん)は「願いをかなえる」、坐禅のポーズの定印(じょういん)は瞑想を表し、阿弥陀如来は下の写真のように独特の印を結んでいます。

平安時代の美仏『阿弥陀如来坐像』

平安時代半ばまで、日本の仏像は中国風だったのですが、平安時代後期の名仏師・定朝(じょうちょう)の登場によって、穏やかで気品のある独自の仏像が完成。
「定朝様」と称されたその作風は以後の仏像の模範となり、鎌倉時代の運慶や快慶などの仏師たちに受け継がれていきました。
本像は日本仏像史に欠かせない仏師・定朝の代表作にして、現存する唯一確実な像です。

『阿弥陀如来坐像』 国宝 定朝作 木造、漆箔 天喜元(1053)年 像高277.2㎝ 平等院

「菩薩」悟りを求めて修行している仏様

如来になるための修行している最中にいるのが「菩薩」。その像のモデルは出家する前の釈迦です。

出家する前に古代インドの王子だった釈迦の当時の姿は、とても華やかでゴージャス! 髪を結って宝冠をかぶり、条帛(じょうはく)と裙(くん)や裳(も)を着て天衣(てんね)をまとい、瓔珞(ようらく)や臂釧(ひせん)、腕釧(わんせん)といったアクセサリーもたっぷり。
簡素な姿の如来とは大違いです。

菩薩は、如来が願う「人々の救済」を補佐する役割を担っていて、基本的に柔和な表情をしているのも特徴です。

「観音菩薩(かんのんぼさつ)」はさまざまな人を救うために33もの姿に変化し、聖(しょう)、十一面(じゅういちめん)、千手(せんじゅ)、准胝(じゅんてい)=不空羂索(ふくうけんさく)、馬頭(ばとう)、如意輪観(にょいりん)の「六観音」という独自グループを形成しています。

また、優しげな表情を浮かべた中宮寺(ちゅうぐうじ)の『菩薩半跏像』や、慈愛に満ちた聖林寺(しょうりんじ)の『十一面観音立像』といった国宝仏のほか、智恵の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、像に乗った普賢菩薩(ふげんぼさつ)、子どものような地蔵菩薩(じぞうぼさつ)など、仏様の中でも身近な感じがして親しみやすいことも特徴です。

慈愛に満ちた表情の『菩薩半跏像』

中宮寺の本尊は、優しく人々を見守る菩薩像の理想形にして最高傑作!
飛鳥時代の仏像は平面的な表現が特徴なのですが、本像は顔も体も丸みを帯びて美しく、表情は古典的・東洋的な微笑を意味するアルカイック・スマイルの典型。
菩薩にしては身なりが簡素ですが、右手の指先を頬にあてながら、どのようにすれば人々を救えるのかをじっくり考えている表情は、清らかな気品と慈愛に満ちて溢れています。
半跏像の半跏とは片足をもう一方の脚にかけたすわり方。両足を組んだ坐禅のすわり方は結跏趺坐(けっかふざ)といいます。

『菩薩半跏像(伝如意輪観世音菩薩)』ぼさつはんかぞう(でんにょいりんかんぜおんぼさつ) 国宝 木造、彩色 7世紀後半 像高167.6㎝ 中宮寺 写真/飛鳥園

「明王」悪人を力ずくで従わせる密教の仏様

「明王」は如来が姿を変えたもので、如来や菩薩が救えなかった人々の悪性(あくしょう)=煩悩(ぼんのう)を力で屈服させるのがその役割です。
そのため、明王像は敵を威圧するような姿をしていて、今まさに戦闘中といった様子に特徴があります。

明王は空海(くうかい)が密教とともに日本にもたらしたもので、最も重要な存在が大日如来の化身とされる「不動明王(ふどうみょうおう)」。
その身なりは菩薩に通じてはいるものの、顔は激しい忿怒(ふんぬ)の形相(ぎょうそう)をしていて、髪は逆立ち、光背は燃えあがる焔(ほのお)の形になっています。

また、岩や動物などの台座に乗っていて、顔や腕の数が多い多面多臂(ためんたひ)で、武器を手にしたものが多いのも明王ならでは。
勇猛なその姿形は、戦国時代の武将たちの信仰を集めていました。

関東に残る運慶作の傑作『不動明王』

平安時代後期から鎌倉時代にかけて、リアルな表現で一時代を築いた仏師・運慶(うんけい)。
鎌倉幕府が成立する前の東国(とうごく)へおもむいた際、運慶が手がけた本像は東国武士のエネルギーを内包したような、激しさと強さに満ちています。
清浄無垢で愛らしい矜羯羅童子(こんがらどうじ)と、気が荒く今にも動き出しそうな制吒迦童子(せいたかどうじ)を脇侍にした不動明王は、不動三尊像の頂点を極める名仏です。

『不動明王三尊像』ふどうみょうおうさんぞんぞう 国宝 運慶作 文治2(1186)年 像高:不動明王(中)137.2㎝、矜羯羅童子(右)74.4㎝、制吒迦童子(左)83.5㎝ 願成就院 写真/文化庁

「天」多種多様な人気仏が勢ぞろい!

「天」(もしくは「天部(てんぶ)」)とは、如来・菩薩・明王というグループとは立場が異なる仏様。
そのほとんどは、古代インドで信仰されたバラモン教やヒンドゥー教の神々が教化(きょうけ)されて仏となったものです。多様なルーツを反映して、天の仏像の見た目や性格などはバラバラ。
バラエティーに富んでいます。

一般に天は、如来や菩薩に付き従い働きを助ける「眷属(けんぞく)」で、仏そのものや信仰する人々を護り、信仰の邪魔になるものを退ける役目を果たしています。
そのぶん、如来や菩薩、明王よりも近しいことから、人々に親しまれ、人気を集めてきたものが少なくありません。

天を代表する知的な武将『広目天』

仏法を侵そうとする外敵から守護する四天王は、武神の姿と忿怒の表情が特徴です。
広目天(こうもくてん)は武将でありながら、右手に筆、左手に経巻を持っていて、武のみならず知でも仏法を護っています。
その表情は厳しさと憂いを秘め、まさに知将というべき存在を見事に表現しているところに目を奪われます。
ちなみに四天王はそれぞれ、邪鬼(じゃき)と呼ばれる邪悪な存在を足で踏みつけています。そのユニークな造形も面白く、鑑賞する際にはしっかりチェックしたいところです。

『四天王立像 広目天』してんのうりゅうぞう こうもくてん 国宝 塑像、彩色 8世紀 像高162.7㎝ 東大寺・戒壇堂 写真/奈良国立博物館(撮影/森村欣司) 

天の見た目の特徴は多種多様

位の高い「梵天(ぼんてん)」や「帝釈天(たいしゃくてん)」は中国の貴人の服装をしていて、「吉祥天(きっしょうてん)」や「弁財天(べんざいてん)」はインドや中国の貴婦人の服装。
はっきり女性とわかる仏の存在も天ならではのことです。

甲冑(かっちゅう)で武装した「四天王」や「十二神将(じゅうにしんしょう)」、「八部衆(はちぶしゅう)」、「二十八部衆(にじゅうはちぶしゅう)」などは、お寺の本尊を安置する須弥壇(しゅみだん)を守るために周囲を固めている、いわばボディーガード集団。仁王(におう)=金剛力士(こんごうりきし)は寺域に外敵が侵入するのを防ぐために門に立っています。

人気ナンバーワンの「阿修羅(あしゅら)」は八部衆の一員で、俊足で知られる「韋駄天(いだてん)」や商売繁盛のご利益がある「大黒天(だいこくてん)」、地獄の「閻魔(えんま)」、自然現象を神格化した「風神・雷神(ふうじん・らいじん)」など、天の仏像は多士済々で人気者ぞろいです。

個別に紹介している写真ではわかりにくいのですが、寺院の堂内では眷属である天が本尊と脇侍を護っている役割が明確にわかり、仏教の世界観がひと目でわかります。

人気ナンバーワン!『阿修羅』

古代インドの異教の8神を集めた「八部衆」は、仏教を保護し、仏に捧げ物をする役目が与えられています。
そのうち唯一武装をしていないのが阿修羅。
脱活乾漆(だっかつかんしつ)という技法でつくられた、3つの顔と6本の腕がある三面六臂(さんめんろっぴ)の姿は異形ながら、8頭身ですらりとしたプロポーションが目を引きます。
少年の成長を表したとされる3面のうち、眉根(みけん)をひそめた正面は、真摯(しんし)な瞳も清新で、まさに美少年! 仏像界における永遠不滅の人気者です。

『八部衆立像 阿修羅』はちぶしゅうりゅうぞう あしゅら 国宝 脱活乾漆像、漆箔、彩色 天平6(734)年 像高153.4㎝ 興福寺 写真/飛鳥園

仏像鑑賞のための早わかりキーワード12

光背 こうはい 如来、菩薩、明王は背後にはオーラのような「光背」がある。明王は燃える炎を表した「火焔光(かえんこう)」が特徴で、天の場合の焔は「火焔輪宝光(かえんりんぽうこう)」。頭部だけの「円光(えんこう)」や「輪光(りんこう)、光を放っているような「放射光(ほうしゃこう)」のほか、スペードの形をした豪華な「飛天光(ひてんこう)」や雪ダルマ型の「二重円光(にじゅうえんこう)」は如来に多い。

台座 だいざ 仏像が乗っているものが「台座」。如来や菩薩に多いのが蓮の花をかたどった「蓮華座(れんげざ)」。明王は「岩座(いわざ)」が多く、「瑟瑟座(しつしつざ)」は不動明王専用。象や鳥をかたどったものもある。

宝冠 ほうかん 装飾の多いゴージャスな冠が「宝冠」。如来は本来無冠だが、密教の大日如来は別格なので宝石をちりばめた豪華な宝冠をかぶっている。

瓔珞 ようらく ネックレスのような装飾品のこと。古代インドの貴族の装いに基づいた装飾品は通常、菩薩にみられる特徴で、二の腕の「臂釧(ひせん)」、手首の「腕釧(わんせん)」、胸飾りなどもある。大日如来は菩薩同様の装飾品を身につけて、格の違いを表している。

天衣 てんね 菩薩の着衣で特徴的なのが「天衣」という長い布をショールのように巻いてたらしていること。上半身は如来や明王らと同じように、裸身に条帛という布を斜めにかけている

裙 くん 菩薩の下半身を巻きスカートのようにおおった大判の布で「裳(も)」とも呼ばれる。ドレープを取った細かい波状の衣文(えもん)の美しさは、菩薩の仏像の見どころのひとつ。

螺髪 らほつ パンチパーマのように小さくカールしたブツブツの粒状の髪が「螺髪」で、如来特有のもの。

化仏 けぶつ 仏が姿を変えて現れた像や面。十一面観音の頭上には全方向を見守る11の「化仏」があり、頭上正面には阿弥陀如来の化身であることを表す小さな像。そのほか、正面に菩薩面が3面、左頭部には怒りを表した瞋怒面(しんぬめん)が3面、右頭部に人々を励ます狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)が3面。後頭部に暴悪大笑面(ぼうあくだいしょうめん)が1面あり、それぞれが人々をなだめ、怒り、励ましている。

怒髪 どはつ 明王や天の髪は「怒髪天(どはつてん)を衝く」という言葉の通り、炎のように逆立っているのが一般的。本像は大日如来にならった宝冠をつけている。

印相 いんそう 如来、菩薩、明王の仏様が伝えたい言葉を両手の形で表した、いわばボディランゲージ。印相を見ると、各如来の意味もわかる。

持物 じもつ 手に持っているものは、仏様の役割を表しています。薬師如来の薬壺(やっこ)、明王の武器が代表例で、十一面観音は仏の象徴である蓮の花をさした水瓶(すいびょう)を持ち、千手観音の持物は数限りない。

武器 ぶき 怒りを表す明王は戦闘に備えて武器や法具を持っている。代表的なものに、金剛杵(こんごうしょ)=独鈷杵(とっこしょ)・三鈷杵(さんこしょ)・五鈷杵(ごこしょ)、捕縛用の縄の羂索(けんさく)、剣や戟(げき)などがある。

仏像界のネクスト・スター!『善財童子』

純粋無垢なあどけない童子姿で最近人気急上昇中の善財童子(ぜんざいどうじ)は、本尊の文殊菩薩の4人の脇侍のひとり。文殊菩薩に導かれながら、悟りを得るために各所を訪れたとされます。写実的表現で鎌倉時代の仏像をリードした名仏師・快慶(かいけい)がつくった本像は檜の寄木造(よせぎづくり)で、風にひるがえった衣の襞などの表現が非常にリアル。玉眼(ぎょくがん)を用いた目のウルウル・キラキラとした輝きも、童子のあどけなさを引き立てています。

『善財童子立像』ぜんざいどうじりゅうぞう 国宝 快慶作 木造、彩色、截金、玉眼 承久2(1220)年 像高134.7㎝ 安倍文殊院

※和樂2019年4・5月号「美仏鑑賞が100倍面白くなる! 仏像用語の基礎知識」を再編集しました。

書いた人

通称TAKE-G(たけ爺)。福岡県飯塚市出身。東京で生活を始めて40年を過ぎても、いまだに心は飯塚市民。もともとファッション誌から始まったライター歴も30年を数え、「和樂」では15年超。日々の自炊が唯一の楽しみ(?)で、近所にできた小さな八百屋を溺愛中。だったが、すぐに無くなってしまい、現在やさぐれ中。