Culture
2019.08.15

夏だ!おばけだ!ゆうれいだ!異界を覗く展覧会に行ってみよう!

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今年も怪しい特別展がいっぱい。

もはや夏の風物詩となった妖怪や幽霊に関する特別展。令和になってはじめての夏も、各地で開かれます。毎年各館がそれぞれ創意工夫をこらした展示を繰り出しますが、今年もユニークな切り口の展覧会が出揃いました。

ではさっそく、開催時期の早い順番から紹介していくことにしましょう。

1.川崎市市民ミュージアム「妖怪/ヒト ファンタジーからリアルへ」展(神奈川県)

2019年7月6日(土)から始まっているのが神奈川県川崎市市民ミュージアムの「妖怪/ヒト ファンタジーからリアルへ」展。

展示は全部で3つの章にわかれていて、第1章では江戸時代から盛んに描かれるようになったさまざまな妖怪の姿を、第2章では鬼や幽霊など一部に人間の姿を残す化物たちを、そして第3章では文明開化の時代に解明される妖怪現象を描いたもの、そして帝国主義に傾いていく中で自国の強さをアピールするために作られた戦争メディアの作品群を紹介します。

妖怪が描かれた作品や明治期の戦争メディアを追っていくことで、人間と妖怪の様相が変化していったことを教えてくれるのが本展示の特徴といえるでしょう。

【展示作品チラ見せ】

歌川芳藤 『髪切の奇談』 明治元年 大判錦絵二枚続 川崎市市民ミュージアム蔵

江戸末期から明治前期にかけて活動した浮世絵師・歌川芳藤による、江戸で起きた事件を描いた錦絵。

明治元年4月20日、夜更けに番町にある某屋敷の女中が「真っ黒なる者」に襲われ、気絶していた間に髪が切られてしまったといいます。犯人は化物のように描かれていますが……。

河鍋暁斎 『龍宮魚勝戦』 明治元年 大判錦絵三枚続 川崎市市民ミュージアム蔵

“奇想の絵師”として近年大変人気の高い河鍋暁斎も多くの妖怪画を残しています。一見、魚たちの世界で起こった戦を描いているこの絵は、実は戊辰戦争を風刺していると見られています。妖怪は、時として人間社会の風刺や寓意的表現として使われてきました。

実は、川崎市市民ミュージアムは豊富な妖怪資料を所蔵していることで有名なのです。今回は、それらを一堂に展示するとか。さらに、期間中には多種多様な楽しいイベントもたくさん予定されています。くわしくは公式サイトをチェックしてみてくださいね。

展覧会情報
展覧会名:妖怪/ヒト ファンタジーからリアルへ
会期:2019年7月6日(土)〜9月23日(月・祝)
場所:川崎市市民ミュージアム
公式サイト

2.国立歴史民俗博物館「もののけの夏 ―江戸文化の中の幽霊・妖怪―」展(千葉県)

お次は日本の歴史学/民俗学の殿堂、千葉県は佐倉市にある国立歴史民俗博物館で開催される「もののけの夏 ―江戸文化の中の幽霊・妖怪―」展(会期:2019年7月30日(土)〜2019年9月8日(日))です。

この展覧会では時代を江戸期にグッとフォーカスし、大いに栄えた妖怪文化について、研究/遊び/歌舞伎/盛り場/武者絵/世相風刺の六つの視点から紹介しています。

江戸時代の人々というと、みんな揃って迷信深く、おばけも真剣に怖がっていたのだろうと思ったら、とんでもない。彼らも、現代の私たちと同じように「おばけ」を娯楽のひとつとして楽しんでいたのです。怪談が盛んに語られ、記録されるようになったのも江戸時代。今の妖怪文化の基礎はこの時代に出来たものだといえるでしょう。

膨大な国立歴史民俗博物館のコレクションからお蔵出しされた妖怪画の数々は、美術的価値が高いものから、当時の世相を知るための貴重な資料まで、種類も内容も豊富。ユーモラスにデフォルメした子供向け玩具の妖怪や、お芝居や見世物における「おばけ」の形、さらには権力への痛烈な一撃を与える道具としての「おばけ」画など、ちょっと変わり種の資料も出揃います。

日本のおばけ文化がどれほど豊かで多岐にわたるものかを教えてくれます。

あの歌麿も美人画におばけを取り入れていました。 夢に現れては子供をいじめ、疳の虫を起こさせる化物たちは、 「また晩にうなしてやろう」 「おふくろが起こさねえともっとおどしてやるのに」 「よしよし晩にはおふくろにこわい夢を見せてやろう」 など口々に言いながら退散していきます。意地悪が大好きなおばけたちなのでした。

夢では人を脅かすおばけたちも、おもちゃになればその愛嬌で大人気。江戸時代には「新板化物尽」のように、開く箇所によって異なる妖怪が現れる仕掛けのおもちゃや化物の姿を描いたすごろく、今で言うところのトレーディング・カードのようなものがたくさん作られました。いつの時代も子供はおばけが大好きなのです。

佐倉といえば日本男性怨霊の代表選手のひとり佐倉惣五郎の出身地で、彼を祀った将門口ノ宮神社が自動車で10分ほど走った場所にあります。

展示を見た後に厄払いを兼ねてお参りをするもよし、はたまた8月17日(土)と8月24日(土)に開催予定の展示代表・大久保 純一さん(同館 情報資料研究系教授)による見どころガイダンスに参加してより理解を深めるもよし。いろんな楽しみ方ができそうです。

展覧会情報
展覧会名:特集展示「もののけの夏 ―江戸文化の中の幽霊・妖怪―」
会期:2019年7月30日(火)〜9月8日(日)
場所:国立歴史民俗博物館
公式サイト

3.太田記念美術館「異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国」展(東京都)

浮世絵の専門美術館である太田記念美術館では、「妖怪」「霊界」「異国」という3つのキーワードを通して、浮世絵に描かれてきた「異世界」を紹介する展覧会が2019年8月2日(金)~8月28日(水)に開催されます。

もともと人とは違う世界に属する妖怪や幽霊はもちろん、渡航の自由がなかった時代の人々にとっては異国もまた異世界でした。「異世界」とはすなわち「ここではない、どこか」。恐ろしげではあるけれども、好奇心を刺激してやまない場所でもあります。刺激が少ない日常の中で、人々は描かれた異形の向こうに何を見ようとしていたのでしょうか。

不確かな伝聞と決して数が多いとはいえない文献を頼りに、想像力を駆使してまだ見ぬ世界の姿を描き出そうとした江戸絵師たちの、自由奔放なイマジネーションの成果をじっくりと眺めてみませんか?

【展示作品チラ見せ】

歌川国芳 『於岩(おいわ)ぼうこん』 太田記念美術館蔵

華やかに着飾って踊る娘の背後に見えるのは不気味で凄惨な幽霊。これは、幽霊画であると同時に、嘉永元年(一八四八)に上演された四谷怪談系の歌舞伎『当三升四谷聞書(まねてみますよつやのききがき)』でお岩を演じた四代目市川小団次の姿を移した役者絵でもあります。幽霊が出てくる演目は常に人気でした。

歌川国虎 『羅得島湊紅毛船入津之図(ろこすとうのみなとおらんだのふねにゅうしんのず)』 太田記念美術館蔵

杖と香炉のようなものを手にそびえ立つエキゾチックな巨人と、その股間をくぐり抜けようとする大きな帆船。実はこれ、世界の七不思議の一つ「ロードス島の巨像」を浮世絵師・歌川国虎が西洋の絵画を下敷きにして描いたものなのです。国虎が没したのは天保13年ですから、江戸時代末期には日本に西洋の七不思議の情報が入ってきていたことになります。江戸の人々は、この珍風景になにを感じたのでしょうか。

期間中の8月6日(火)14時、8月12日(月・祝)11時、8月16日(金)14時からは担当学芸員の日野原健司氏によるスライドトークが予定されています。申込不要/参加無料(要入場券)ですので、気楽にふらりと立ち寄って、ばっちり見どころを抑えてみてはいかがでしょうか?

展覧会情報
展覧会名:異世界への誘い ―妖怪・霊界・異国
会期:2019年8月2日(金)〜8月28日(水)
場所:太田記念美術館
公式サイト

4.国立民族学博物館 特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」(大阪府)

さて、ここまでは日本のおばけ文化を紹介する展示を紹介してきましたが、異界への想像力は日本人の専売特許ではありません。

古今東西、あらゆる時代のあらゆる民族が、人間とは異なる不思議な存在を感じ取り、造形や絵画で表現してきました。大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館で開催される特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」では、そんな妖物/怪物たちが大集合。各地の伝統工芸から現代のアーティストや漫画家、ゲームデザイナーたちの手による制作物まで広く取り上げ、人類の「想像と創造の力」を探ります。

奇妙で、時にはグロテスクな彼らですが、すべては人間のセンス・オブ・ワンダーへの欲求が生み出した、いわば人類の心のかたち。眺めるうちに得体のしれぬ興奮が湧き上がってくることうけあいです。

総資料点数はなんと630点以上。国立民族学博物館が誇る収蔵品の数々や普段はなかなか見られない現代アートを、第一部「想像界の生物相」と第二部「想像界の変相」の2エリアに分けて展示する、大掛かりな特別展です。開催期間が長いのもうれしいところ。一度といわず二度三度と訪れる価値のある注目イベントです。

【展示作品チラ見せ】

(左)ろくろ首のミイラ 国立民族学博物館、ライデン Collection Nationaal Museum van Wereldculturen. Coll.no. RV-360-4740(右)トゥピラク(グリーンランド) 国立民族学博物館蔵 撮影:大道雪代

ろくろ首というと日本でもおなじみの妖怪ですが、今回はなんとそのミイラが展示されます(写真左)。実在しないはずの存在がミイラになるの?! と疑問に感じるかもしれませんが、実は河童や人魚など、妖怪のミイラとして伝わるものは意外にたくさんあります。でも、なぜそのようなものが? と思ったら、ぜひ会場へ。答えが見つかるかもしれません。

写真右の、這い寄る闇を形にしたようなこの不気味な彫像は、グリーンランドの先住民族イヌイットに伝わる悪霊トゥピラクを表したもの。トゥピラクは、人を呪殺するためにシャーマンが操るのだとか。人の悪意が凝り固まると、こんな姿になるのですね。

絵画「セイレーンと蛇」 (コンゴ民主共和国) 国立民族学博物館蔵

打って変わって明るい色彩のこちらは、アフリカ大陸の中央部にあるコンゴ民主共和国で描かれたセイレーン(人魚)と蛇の絵画。体に蛇が巻き付いているわりには平気な顔で電話をかけている人形が、ふてぶてしくもキュート。赤い腕時計とピンクのペンダント、真っ赤な口紅がなんともおしゃれ。アリエルも顔負けのとっても現代的な人魚です。

今回の展覧会は関連イベントが毎週のように開催されるのも見逃せません。山中由里子国立民族学博物館教授によるみんぱくウィークエンド・サロン『驚異と怪異―想像界の生きものたち』が9月1日(日)に行われるのを皮切りに、小学生向けのワークショップや「能と怪異(あやかし)」というちょっと風変わりな研究公演まで幅広いテーマが取り上げられます。公式サイトを覗いてみれば、お好みにあったイベントが発見できるかもしれませんよ。

展覧会情報
展覧会名:特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」
会期:2019年8月29日(木)~ 2019年11月26日(火)
場所:国立民族学博物館
公式サイト

いかがでしょうか?

今夏はこの他にもまだまだたくさんのおばけ系展覧会が開催されます。ここで紹介したような大型展でひろ~いおばけ世界を探検するもよし、小さな展覧会を見つけてディープな世界に浸るもよし。
おもしろくて、勉強になって、ちょっぴり怖い彼らに会いに行きませんか?

書いた人

文筆家、書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』『文豪の死に様』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など多数。関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。