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2022.06.27

関東随一の名湯を楽しめる三峯神社の宿坊「興雲閣」へ行ってみたらとんでもない山奥だった

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西武秩父駅からバスに乗って、すでに1時間近く。

山の奥へ奥へと進み、渓谷を見下ろし、ダムの上を渡り、さらにバスは山道を登り続けます。新緑の山並みを眺めながらの小旅行を楽しみつつ目指したのは、標高約1100mの地にある三峯神社。

最後に急な坂道を上がり、神社の駐車場へ到着。西武秩父駅から1時間15分ほどのバスの旅でした。平日にもかかわらず、駐車場は車でいっぱいです。

日本武尊(やまとたけるのみこと)が山犬(おおかみ)に導かれ、国生みの神様を祀ったのが始まりとされる三峯神社。その境内には神木やえんむすびの木などがあることでも知られていますが、200人収容できる関東随一の規模の宿坊、興雲閣があることでも有名で、さらに興雲閣には関東で1、2を争う名湯があるのです。

写真は三峯神社から眺めた日の出(画像提供:三峯神社)。

やっほー!!! (ってはしゃぐ場所じゃないですね、すいません)

全国的にも珍しい三ツ鳥居

駐車場から歩道を上がると、不思議な形をした鳥居が見えてきます。鳥居の両脇に小さな鳥居が組み合わされたような形で、三ツ鳥居と呼ばれる全国的にも珍しい鳥居です。鳥居の手前では二匹のおおかみの像が参詣者を迎えています。

境内に入り、ゆるやかな登り道を進み、左へと続く下り道へ。目の前には、荘厳な随身門が現れます。

その先の道をしばらく歩くと、右手に階段が見えてきます。その上に青銅の鳥居があり、その向こうに三峯神社の拝殿が見えました。拝殿の手前には、すっと天に伸びた立派な杉の木が左右に立っていて、神々しささえ感じさせます。


拝殿の鮮やかな装飾にも目を引かれます。建物そのものは寛政12(1800)年に建立されたもの。極彩色の彫刻は平成16(2004)年に塗り替えられたとのことです。

拝殿の左の敷石には、平成24(2012)年、その年の干支である「龍」が現れ、今でも残っています。おめでたい印としてニュースにもなりましたから、覚えている方もいるでしょう。

龍・・・ですよね!うん、龍だと思う!

宿坊「興雲閣」の名湯へ

お参りを済ませて向かったのは、興雲閣です。この前を通り過ぎ、しばらく歩くと、えんむすびの木があるので、たいていの人はそちらを目指しますが、この6階建ての白い建物は関東随一の宿坊。しかも、ここには温泉もあるのです。

ちなみに宿坊(宿房)とは、「主に仏教寺院や神社などで参拝者のために作られた宿泊施設のこと。本来は僧侶や参拝者のみの宿泊施設だったが、現在では一般観光客も積極的に受け入れる施設も増加し、それに伴い設備やサービスの拡充の傾向が見られる」(wiki)とのことです。


興雲閣の外観。左の建物は喫茶スペースの小教院

この温泉の源泉名は「三峯神の湯」。平成4(1992)年に秩父市大滝で掘削に成功し、興雲閣の大浴場にも引かれました。弱アルカリ性の透き通ったやわらかなお湯は、含有成分の種類も量も多く、関東でも1、2位を争う温泉といわれています。5分間つかっているだけで、肌がすべすべになるとされるこの温泉に入らないのは、もったいないことです(日帰り温泉はしばらくの間休止。再開などについてはホームページで確認を)。

大浴場(男湯)

3~5人用と15~18人用の2タイプの部屋が用意されていて、遠方から団体で来られるお客も少なくないとのこと。ゆっくりと滞在して、山並みの風景をのんびり眺め、夜や朝の雰囲気を満喫するというのは、宿坊に宿泊しなければできない体験です。

部屋のタイプのひとつ

料理も地元の食材やジビエなどが用意された豪華なもの。季節ごとにメニューは変わりますが、どのメニューも重くはなく、意外にあっさりと食べられます。

春の夕食メニュー

オリジナルの土産物なども充実

興雲閣は、食堂や売店なども充実しています。ぜひ休憩したいのは、小教院。興雲閣の前にある喫茶スペースです。もともとは、天平の時代に疫病が流行したとき、観音像を安置する別殿として建てられたのが小教院の建物の始まり。この別殿は、名称や利用のされ方をいろいろと変え、明治なって小教院と呼ばれるようになりました。

天平時代って、平安時代よりさらに前じゃないですか。さらっとすごいな!


現在の建物は、元文4(1739)年に再建されたものですが、平成3(1991)年に改修工事が行われ、喫茶スペースとなりました。梁の装飾など、細かな部分に歴史が色濃く残されています。

興雲閣の売店には、さまざまな土産物が並びます。目を引いたのは、おおかみの鋭い目が描かれたパッケージ。「秩父眼茶(めちゃ)」(1080円)という名前のメグスリノキのお茶(ティーバッグ)です。

メグスリノキは、世界で唯一日本にだけ自生している木。この木を煎じた汁で目を洗うと眼病によいとされたことからメグスリノキと呼ばれるようになったといいます。メグスリノキは三峯の山々に多く見られ、秋には真っ赤に紅葉するとのこと。「秩父眼茶」は三峯神社で限定販売されています。

2階から注いでみたいですね。


また、興雲閣前に建つ斎館(旧社務所)には、三峯神社オリジナルラベルの日本酒やワインなどが数多く並ぶ店とおおかみがデザインされたTシャツやグッズが並ぶ店があります。どちらの店の商品も、かなり人気が高い三峯神社の土産物です。

大山倍達之顕彰碑も

えんむすびの木があるなど、特に女性からパワースポットとして知られる三峯神社ですが、最後に触れたいのは大山倍達(ますたつ)の顕彰碑も境内にあること。随身門の手前に大きな日本武尊銅像が立っていて、その近くに碑はあります。

「大山倍達? 誰?」と思われる方が多いかもしれませんが、格闘技ファンならご存知かもしれません。国際空手道連盟極真会館、いわゆる極真空手の創始者で総裁だった人物で、2023年には生誕100年を迎えます。

「牛殺し」など数々の伝説が語り継がれ、マンガ『空手バカ一代』では大山の半生が描かれました。そのほかにも、数多くの伝記や関連本があり、その人物像もさまざまな伝えられ方をしていて実像がつかみにくかったりもします。しかし、現在につながるプロレスや格闘技の始まりに深く関わった人物であることは確かです。

その大山倍達と三峯神社の関わりは、吉川英治の長編小説『宮本武蔵』にあるとされます。『宮本武蔵』では、三峯神社で奉納される神楽太鼓のばちさばきから、武蔵が二刀流に開眼したことが描かれています。宮本武蔵を尊敬し、小説『宮本武蔵』も愛読していた大山倍達は、三峯神社を訪ね、山籠もりをしたといいます。その後、極真会館も毎年、三峯神社で合宿などを行うようになっています。

平安時代、修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)が修業し、山伏の修行道場となったとされる三峯神社。武蔵が二刀流に目覚め(あくまで小説で、ですが)、伝説の格闘家・大山倍達が修業を重ね、極真空手ともゆかりがあるのも三峯神社の一面です。

昔の「強い人」ってなぜかみんな山にこもっていたイメージがあるけど、こういう時代に始まったんでしょうか。


えんむすびの木

パワースポットであり、関東随一の温泉もある三峯神社は、実にいろいろな魅力に彩られています。この神社のことを知るためには、やはり宿坊・興雲閣に泊まって、じっくりとその多彩さと向かい合ってみるべきではないでしょうか。

大山倍達顕彰碑の近くにある遥拝殿。正面の岩山の上に奥宮がある

三峯神社

書いた人

1968年、北海道オホーツクの方で生まれる。大学卒業後、アフリカのザイール(現コンゴ)で仕事をするものの、半年後に暴動でカラシニコフ銃をつきつけられ帰国。その後、南フランスのマルセイユで3年半、日本の旅行会社で3年働き、旅行関連を中心に執筆を開始する。日本各地や都内の路地裏をさまよい歩く、または右往左往する日々を送っている。