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専門店でないのに、茶味を感じる店に共通するものって何?
「酒陶 桺野」で考えました
酒瓶の見えないバックカウンター、土壁に花器だけのしつらい…どれもその一要素ですが、この店なら庭だと独断で決めました。細く縦に長い京都の独特の家の造りはよく知るところですが、この店は敷地の半分を庭として残してあるのです。
バーカウンターに座ると見えません。入店の瞬間、手洗いに立つとき、目をやると緑がある。酔い心地で眺めるこの景色の贅沢なこと。京都の旅から戻りこの店を思うとき、どこまでも続くように見えた庭が心に浮かぶことでしょう。
「もてなし、もてなされる場」をつくることが茶の湯の本懐であれば、京都で愛される店には茶の湯で言う亭主がそこにいるみたい。「あなたのために」という精神が、目に見えないところにまで感じられる店。モノと金の交換ではなく、奥行きのあるつきあいができる店。それがいい店、茶味なる店ではないでしょうか。
日本一の美空間は茶室という確信から生まれたバー
今から20年前、〝土壁・無垢材・花一輪の空間〟とバーの組み合わせから生まれた「酒陶 𫞉野(しゅとう やなぎの)」。スタートは4人も入れば満席となる小部屋から。雑居ビルの中に生まれた小宇宙はこの町に衝撃を与えたそうです。
「大学生のときに『古美術 佃(つくだ)』を営む佃 達雄さんの元で見習いを始めた経緯から、店づくりも手を貸してもらいました。佃さんの美意識では茶室が最高の空間なんです。僕はお酒が好きだから、〝茶室バー〟になりました」と𫞉野浩成(ひろなり)さん。
2回の移転を経て、カウンター10席にテーブル1卓という現空間に落ち着きました。
「この空間をどう使ってもらっても自由。ここで10年目を迎えて、ようやく茶室という空間に見合う店になった気がしています」と店主。
「カウンターをはさんでキャッチボールが楽しめる方に来ていただけたらうれしいです。要望に応えたいし、それ以上のものを提供したいと思います」
酒陶 桺野(しゅとう やなぎの)
住所:京都市中京区三条通新町西入ル
電話番号:075-253-4310
営業時間:17時~24時 木曜休
チャージ500円、カクテル1,000円~。
撮影/篠原宏明 構成/藤田 優 ※本記事は雑誌『和樂(2018年4・5月号)』の転載です。