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読み物
Culture
2019.08.08

文豪・泉鏡花 坂東玉三郎をも魅了したその「美意識」に迫る映画と展覧会   

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泉鏡花と坂東玉三郎 絶対美を表現する究極のコラボレーション

泉鏡花。なんとも涼やかで美しい筆名を持つこの作家は、明治後期から昭和初期に多くの小説や戯曲を発表しました。

泉鏡花(いずみ・きょうか)1873(明治6)~1939(昭和14)年

鏡花文学の特徴は、なんといっても独自の美意識に支えられた流麗な文体にあるといえるでしょう。その美意識は、生来の鋭い感性を故郷である金沢の風土で養い、江戸文学や能楽などの教養によって磨き上げた耽美的/唯美的なもので、日本近代文学史上でも特異な位置を占めています。

そんな「鏡花の美意識」に心酔し、敬慕してやまない歌舞伎俳優がいます。稀代の名女方・坂東玉三郎さんです。玉三郎さんは鏡花の世界を愛するあまり自らプロデューサーとなり、平成の初め頃にはめっきり上演機会が減っていた鏡花作品を映画や歌舞伎として蘇らせてきました。

鏡花ワールドの入り口 グランドシネマ『日本橋』

1939(昭和14)年にこの世を去った鏡花。つまり、今年は没後80年を迎えることになります。

それを記念して、鏡花原作/玉三郎主演の名舞台が、映画館で歌舞伎を楽しむ「シネマ歌舞伎」の枠内で、坂東玉三郎特別公演作品として上映されることになりました。

「日本橋」は1914(大正3)年にまず小説として発表、のちに自ら戯曲化した作品で、主に新派劇として演じられてきました。

物語の舞台は大正時代の花柳界。妍(けん)を競う--つまり美しさ、艶やかさを競う二人の名妓、清葉(きよは)とお孝(こう)が一人の男性を巡って火花を散らす恋の意地と人情を、繊細な文体で描き出します。

たとえば、小説版「日本橋」での清葉の登場シーンはこんな風です。

その両方の間(あわい)の、もの蔭に小隠れて、意気人品(ひとがら)な黒縮緬、三ツ紋の羽織を撫肩に、縞大島の二枚小袖、襲ねて着てもすらりとした、痩せぎす背の高い。
油気の無い洗髪。簪の突込み加減も、じれッたいを知った風。
一目に其者(それしゃ)とは見えながら、衣紋つきしゃんとして、薄い胸に品のある、二十七八の婀娜(あだ)なのが、玉のようなうなじを伸して、瞳を優しく横顔で、じっと飴屋の方をみつめたのがある。

ちょっと戸惑ってしまうような、古風な文章ですよね。でも、声に出して読んでみるとリズミカルな音運びがとても心地よく耳に響きます。とはいえ、慣れないとなかなか目に馴染んでこないのも事実。ですので、独特の台詞回しを耳から楽しめるお芝居は鏡花の世界の入り口としてうってつけなのです。

とりわけ、誰よりも鏡花を愛する玉三郎さんがこだわりを尽くして仕立て上げたお芝居が最高の入門編になるのは言うまでもありません。それを、気軽に見られるように映画にしたのがグランドシネマ『日本橋』です。

まずはヴィジュアルで、最高レベルに表現された「鏡花の美意識」を感じてみてください。

グランドシネマ『日本橋』写真 ©岡本隆史(トップおよびチラシ画像も同様)

映画情報
グランドシネマ『日本橋』
公演日:2019年8月23日(金)~8月29日(木)
上映館:北海道から福岡まで計33館 詳細は公式サイトの「上映劇場」をご確認ください。
作・演出:泉鏡花 作/齋藤雅文・坂東玉三郎 演出
出演:坂東玉三郎/松田悟志/高橋惠子/永島敏行 ほか
料金:一般 2,100円(税込)/学生・小人 1,500円(税込)
グランドシネマ『日本橋』作品紹介サイト:https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

泉鏡花記念館開館20周年記念特別展「鏡花をオクル -没後80年-」

 鏡花文学の美しさにもう一歩踏み込んでみたい向きにおすすめしたいのが、9月7日(土)から金沢の泉鏡花記念館で開催される特別展「鏡花をオクル -没後80年-」です。

石川県金沢市 泉鏡花記念館

 この特別展では、1939(昭和14)年9月7日に65歳で他界した鏡花の没後80年を記念して、記念館所蔵の資料のみならず、慶應義塾図書館や個人が蔵する貴重な物品や記録の数々が展示されます。

鏡花愛用の茶碗(泉名月遺族蔵) 女茶碗のように華やかで愛らしい。

 美しいもの、愛らしいものを好んだ鏡花は、身近に置く物は自らの美意識に則って厳選していました。生まれが酉年だったので、縁起担ぎに向い干支であるウサギの小物や絵を好んだという逸話も残っています。質実剛健のイメージが強い明治男には珍しい、優艷な世界を好む人だったのです。

鏡花愛蔵の歌川国貞「絵兄弟看立七福 弁財天」(泉名月遺族蔵) 鏡花は国貞が大好きで、常に書斎に飾っていた。

 鏡花の死にあたっては、遺族や友人たちが一丸となって鏡花の偉業を後世に伝えるべく、慶應義塾大学に遺品を寄贈したり、岩波書店から『鏡花全集』を刊行したりするなどして力を尽くしました。文字通り奔走したのです。それは、亡き人を送る弔いの一つの形でもありました。

 親しい人たちが鏡花ゆかりの品々を守ることで伝えようとしたメッセージを、80年の時を超えて受け取ってみませんか。

展覧会情報
展覧会名:泉鏡花記念館開館20周年記念特別展「鏡花をオクル -没後80年-」
会期:前期 2019年9月7日(土)~10月7日(月)
   後期 2019年10月11日(金)~11月10日(日)
場所:泉鏡花記念館(石川県)
公式サイト
 

書いた人

書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など。現在、よみもの.comにて「文豪の死に様」を連載中。最近の関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。