Craftsmanship

2024.09.06

「民藝のプロデューサー」吉田璋也の息吹は今もなお。鳥取・民藝館通り【民藝の息づく街を訪ねて・鳥取編その2】

今回は生活の中に民藝が根づいているふたつの街、鳥取と盛岡を訪れてみました。そこで感じたのは、豊かな自然と実直な職人、そしてそれを使う人々。すべてがそろってはじめて、民藝という文化は完成するのだということでした。

「民藝の息づく街を訪ねて」シリーズ一覧はこちら

吉田璋也デザインの民藝が息づく鳥取の街

左/牛ノ戸焼の登窯にて新作民藝の第1回窯出しが、柳や吉田らが立ち会う中で行われた。右/昭和6(1931)年8月、第2回窯出しで村岡景夫 、柳宗悦、吉田璋也らと良品を選ぶ。写真提供/ともに鳥取民藝美術館

牛ノ戸焼の窯元の工房で、素朴な緑と黒の染分(そめわけ)のコーヒーカップを手にした途端、えもいわれぬ愛着が湧いてくることでしょう。

ふと工房の壁を見上げると、色褪せたセピア色の写真が一枚貼られています。牛ノ戸焼の連房式の登窯(のぼりがま)で窯出しする若き4代目窯主小林秀晴(当時30歳)の傍(かたわら)には、柳宗悦と吉田璋也が寄り添っています。新作民藝への道を歩み始めたばかりの吉田は、小林に父祖の仕事の素晴しさと尊さを伝え、新作民藝の新たな試みとして緑と黒の新作の染分皿を考案し、昭和6(1931)年5月11日、第1回の窯出しが行われたのです。

「形極めて美しい。将来牛ノ戸のものとして名を長く残すであろう」と、柳は高く評価。この鳥取民藝の幕開けから約90年、今なお牛ノ戸焼は健在です。6代目小林孝男さんが、手間を惜しまず曳田川(ひけたがわ)から堆積(たいせき)した荒土を昔ながらに水簸(すいひ)〈精製〉する場所などを案内してくれ、飽きのこないシンプルなものをつくりたいと語ってくれました。

鳥取・民藝館通りは今も活気にあふれている

左/民藝通りにある「たくみ割烹店」の2階にある民藝風の個室。右/「たくみ工芸店(https://takumikogei.theshop.jp/)」にディスプレイされた牛ノ戸焼の緑釉醬油差し(高9.5㎝)参考商品。

吉田璋也は、陶芸だけでなく木工・金工・竹工・染織・和紙など多岐にわたる地元の工人たちと新しい民藝品の生産に取り組み、鳥取の新作民藝運動を牽引しました。

また、それらを流通・販売できるよう、昭和7(1932)年には鳥取市内に「たくみ工芸店」をつくります。翌年には販路を求めて東京銀座にも出店。鳥取の新作民藝のみならず、日本全国の民藝品の流通機能も担いました。この先駆的な活動で吉田は自他共に認める「民藝のプロデューサー」となったのです。

さらに昭和37(1962)年には「たくみ割烹(かっぽう)店」を開店。民藝のうつわに郷土料理を盛って生活の中で美しく用いる〝用の美〟を市民に示しました。現在、民藝館通りには「鳥取民藝美術館」「たくみ工芸店」「たくみ割烹店」が並んでいます。観賞するだけではなく、民藝のうつわで美味しい郷土料理をいただき、工芸店では気さくな店員さんに地元の窯元の特徴を教えてもらいながらうつわも購入できる。まさに鳥取民藝のワンダーランドなのです。

厳選された地元の新作民藝を購入できる日本初の専門店「鳥取たくみ工芸店」

左/昭和7(1932)年に日本初の工芸店として鳥取市本町に開店した「たくみ工芸店」。写真提供/鳥取民藝美術館 右/現在の「鳥取たくみ工芸店」。

1932年に新作民藝品の販売拠点として開店して以来、陶器、木工、染色、竹工、漆工、紙など、地元の素材を用いて職人がつくる民藝品を扱っています。

【店舗情報】鳥取たくみ工芸店

とっとりたくみこうげいてん
住所:鳥取県鳥取市栄町651
電話:0857-26-2367
営業時間:10時~18時
休み:水曜
https://takumikogei.theshop.jp

山根窯のスリップウェア楕円鉢 参考商品/たくみ工芸店

民藝のうつわで牛すすぎ鍋をいただく「たくみ割烹店」

新作民藝のうつわで食事を楽しめる店。名物は、しゃぶしゃぶの原形といわれる「鳥取和牛すすぎ鍋特選和牛リブロース」5,300円。第二次世界大戦で軍医として中国に渡り、除隊後も北京に残り民藝運動を続けた吉田璋也が、帰国後、北京の名物料理「シュワン羊肉(ヤンロウ)」を、羊肉の代わりに牛肉を用いてアレンジしたといいます。

【店舗情報】たくみ割烹店

たくみかっぽうてん
住所:鳥取県鳥取市栄町652
電話:0857-26-6355
営業時間:11時30分~14時30分(L.O. 14時)、17時~22時(L.O. 21時)
休み:第3月曜

吉田璋也が鳥取で最初に出合った牛ノ戸焼の窯でつくられた皿。自然素材から成る釉薬の組み合わせは鳥取の田園風景と重なる。牛ノ戸焼三方掛皿(径30.1×高5.3㎝) 昭和32(1957)年 鳥取民藝美術館蔵

撮影/伊藤 信 構成/新居典子
※本記事は雑誌『和樂(2021~2022年12・1月号)』の転載です。
※表示価格はすべて税込価格です。掲載商品には1点ものや数量が限られているものがあり、取材時期から時間がたっていることから、在庫がない場合もあります。そのため、掲載商品の在庫がないもの、価格変更の可能性があるものは、「参考商品」と表記しています。
※営業時間や休みなどが変更になっている場合があります。お出かけの前に最新情報をご確認ください。

Share

和樂web編集部

おすすめの記事

「不完全なもの」に心惹かれて。【一生愛せる「うつわ」と出合う・その11】村田森(7)

和樂web編集部

柳宗悦もバーナード・リーチも。「民藝」のある暮らしを解説

和樂web編集部

島根・出雲民藝館が器好きにはたまらない理由とは?

和樂web編集部

あの陶片の正体は?朝ドラ『スカーレット』喜美子が情熱を注いだ穴窯と信楽焼の歴史

和樂web編集部

人気記事ランキング

最新号紹介

12,1月号2024.11.01発売

愛しの「美仏」大解剖!

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア