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洋服は好きだけれど、ファッションには興味がない【竹本織太夫 着こなしの美学】1
ライオン橋で一際映えるジャケット
土佐堀川(とさぼりがわ)・中之島公園・堂島川をまたがる堺筋に架けられた難波橋(なにわばし)は、通称ライオン橋と呼ばれています。それはライオン像が阿(あ)吽(うん)の形で親柱に設置されているから。
「江戸時代には、難波橋は天神橋(てんじんばし)、天満橋(てんまばし)と共に浪華三大橋と呼ばれていたのですよ。『西ひがし みな見にきたれ なにわ橋 すみずみかけて 四四の十六』と狂歌にあるように、昔は難波橋の上から16の橋が見渡せたそうです」と、地元っ子の織太夫さんがレクチャーして下さいました。
明治から大正にかけて木橋(もくきょう)から現在の彫刻を施した近代建築の橋に架けかえられた時に、ライオン像が登場したそうです。「狂歌の四四と獅子をかけているんですよ」と言いつつボーズをキメる織太夫さん、決まっています! アレ、ここは大阪? なんだか外国にいるみたいですね。
晴天に恵まれたこの日、色鮮やかなイエローが目に眩しい。「私はマスタード色と呼んでいますけどね」と言う織太夫さんに、もしやと思ってジャケットの色の訳をお聞きすると……。阪神タイガース贔屓で知られる織太夫さんの熱烈な愛が、込められているのだそうです! ライオンとタイガースカラーを身につけた虎党のコラボレーションになりました!!
突然の茶会へも着ていったことが?
織太夫さんは写真家で現代美術家の杉本博司さんが開所した、神奈川県小田原市にある「小田原文化財団 江之浦測候所」がお気に入りで、よく訪ねておられるそうです。名前から気象庁の施設? と勘違いする人もいるかもしれませんが、ギャラリー棟や野外の舞台、茶室などを配した文化施設です。周囲の美しい自然と調和したこの施設発信の様々なアート活動も行われていて、織太夫さんはアートアドバイザーを務めておられます。
「大阪から東京に向かっている時に、急遽杉本さんの代役で茶会に出席することになり、『タイガース優勝したんで今日マスタードのレザージャケットですが大丈夫ですか?』って確認しましたが大丈夫とのことで、急いで名古屋で乗り換えて小田原から江之浦測候所に向かい参加したこともありました」。美しい海の景色に映えるマスタード色のジャケット姿は、敷地内の野点席でも目立っていたことでしょう。
お気に入りのサングラスの物語
ジャケットとコーディネートされたサングラスは、ある巨匠をオマージュした限定品なのだとか。「作曲家の早坂文雄が愛用していた眼鏡を元に、デザインされたものです」。黒澤明監督の映画『羅生門』で音楽を担当した伝説的な作曲家が、サングラスのモチーフになるなんて、ドラマチックですね。こんな風に身につけるものには、物語を感じるものが織太夫さんの好みだそうです。
Xで繰り広げられた往復書簡
織太夫さんは日々の出来事をX『文楽のすゝめ official』で発信しておられますが、洋服のスナップをアップされることもあります。ある時は、このようなホワイトコーデを披露。そして「和樂web編集長がボタンをしていない写真も欲しいと思ったので、こちらもパチリ」のコメントと共に、あえてコートのボタンを外した写真もアップしてくださいました!(編集長感涙)
すると、このXの写真を見た和樂web鈴木深編集長が、「スーパーダンディです!!ぜひ今度サスペンダーも見せてください!」と反応。
後日、編集長の熱烈オファーに応えて、サスペンダー姿もアップしてくださいました!
こうしてX上で、ファッション談義が繰り広げられたのでした……。
和樂web編集長が解説!
今回も、織太夫さんのファッションに大注目している和樂webの鈴木深編集長が、前回に引き続き解説を担当します! これまでファッション誌を歴任してきたプロの目から見ても、織太夫さんのスタイルは、特別なようです。編集長の解説が読者の皆様に好評とあって、熱くなりそう!
以下、編集長の魂のコメント!!
今回の目玉は、なんといってもマスタードイエローのライダースジャケットです。
ブランドは「ルイスレザーズ」の定番中の定番、Wブレストのサイクロンジャケットでありますが、問題(笑)なのはこの素材と色です!
マスタードイエローのレザージャケットは特注もので、しかも見るからにやわらかなこの風合いはディアスキン(鹿革)かと思われます。
しなやかなディアスキンは、レザーの中ではカシミアのような存在です(そういえば前回のファッション編でも、織太夫さんはカシミア好きでしたね~)。
ハードなアイテムやストイックなコーディネートを、柔らかな素材で着こなすのが織太夫さんの流儀だとお見受けしました。
そしてこの色! 普通の人は絶対に手を出しません!!
いや、手を出してはいけません!!
マスタードイエローのレザーをこれだけ上品に着こなすのは至難の業です。
まずサイジングを間違うと悪目立ちしまくります。着丈と袖丈がコレより長いと下品なチンドン屋に転ぶし、逆に身幅がパツパツになりすぎるとメチャ太って見えます。
織太夫さんがこれだけジャストフィットにこのジャケットを仕立てたと言うことは、かなりの覚悟を持って決断されたはずです。
まずこの下に厚手のニットは着られません。着る時期が限定されます。
そして万がいち太ってしまったら…これだけ素敵に着こなせなくなります。
美食家である織太夫さんが、この色でこのサイジングでこのジャケットを仕立てたこと、その並々ならぬド〇態ぶりに感服いたします。
そしてさらに、このパンツです(長々とすみません!)。
これは本物の軍パン、P-44(通称モンキーパンツ)だと推察します。
実はミリタリーアイテムにありがちなカーキという色は大変便利な代物でして、あらゆる派手な色と組み合わせてもほぼOK、という優れものなのです。イエローでもオレンジでも赤でも紫でも、カーキはあらゆる派手色を受け入れてくれる懐の深い色なのです(みなさんもぜひお試しください)。
このカーキの軍パンを子供っぽくワイルドに着るのではなく、ほんの少しブーツに触れるか触れないかくらいの絶妙~に上品な丈できれいめに着こなしているのがポイントです。
おそらく靴に合わせて(ぺったんこのビルケンのサンダルに合わせるときはパンツの丈をあえて長めにズルッと履き、ブーツに合わせるときはむしろやや短かめにスッキリと履く)、1本1本のパンツ丈を調整しているはずです。
つまり、あわせる靴のパターンに合わせて同じパンツでも丈の違うものを何本もそろえているはずです(でなければ、こんな絶妙に靴とマッチしたシルエットは生まれません!)
ここまでくれば、もはや超ド〇態の領域です(これ褒めてます、褒めてます、最大級の賛辞です)!
そしてさらに(まだ続くのか!)、流石なのはこのブーツです。
くるぶしを包む丈といい、色合いといい、ミリタリーな風情を感じさせながらも、上品なスエード素材。
スエードブーツはオリジナルの麻紐を練り込んだものからビブラムソール※に変更していて
フィールドシューズではありえないドレスシューズのようにシューレース(靴ひも)をつけ直しておられます。
ビブラムソールでありながら、ソールの縫い方は大変きれいなグッドイヤーウェルト製法です。
どんなにジャケットとパンツが素敵でも、足元で一歩間違えると台無しになりますが、そこはさすが織太夫さん!
ぬかりなく大人っぽく上品に、仕立てのよいブーツをセレクトして、子供っぽいミリタリーとは一線を画しています。
また、座ったとき、足を組んだときにチラリと見えるマスタードイエローのソックスからは、
織太夫さんの完璧主義とユーモアがビシビシ伝わってきます。
織太夫さん、人生を楽しんでいますね!!
以上、今月の織太夫さんの(勝手に言いたい放題の)ファッション解説でした。
今回も熱量高めでしたね~ では、次回の「着こなしの美学」をお楽しみに♡
取材・文/ 瓦谷登貴子