Culture
2024.07.12

藤原道長は犬派だった!『御堂関白の御犬』ってどんなエピソード?

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紫式部の生涯を描く、2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』。陰謀渦巻く辛い展開の癒しとなっているのが、藤原道長(ふじわらの みちなが)の妻・倫子(ともこ)が飼っている猫の小麻呂(こまろ)ちゃん。

大人しく美形な役者猫ちゃんで、私もスッカリ虜(とりこ)なんですが……私、犬派なんですよ。こんな記事書くくらいには。

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かわいいイッヌも大河に出てこないかなぁ……と思ったら、思い出しました。藤原道長は犬を飼っていました。

御堂関白殿の御犬


その話は藤原道長の時代から約200年後の鎌倉時代前期に成立した説話集、『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』に書かれています。道長が法成寺(ほうじょうじ)を建立(こんりゅう)した頃の話です。

道長は寛仁3(1019)年に出家しましたが、その翌年に自宅である土御門殿(つちみかどどの)の東側に阿弥陀如来(あみだにょらい)像を安置する阿弥陀堂(あみだどう)を建てました。それから次々に金堂(こんどう=ほんどう)・五大堂(ごだいどう)などを建立し、治安2(1022)年に法成寺が完成しました。

それからというもの、道長は毎日法成寺に通っていましたが、そこにはいつも道長が飼っていた白イッヌがおともしていました。

ある日、イッヌは門を入ろうとした道長の牛車の前に立ち、通せんぼをしました。道長は「どうしたんだろう?」と思いつつも下車して横を通り過ぎようとしますが、イッヌは道長の衣の裾(すそ)を引っ張って行かせません。

道長は「何かあるのだろうか」とその場にとどまり、陰陽師の安倍晴明(あべの はるあきら/せいめい)を呼び寄せました。そして急いでやってきた晴明が占うと、なんと犬が通せんぼした道に呪物が埋まっていて、道長がそこを跨(また)ぐと呪われていたというのです。

ちなみにこの呪物を仕掛けた犯人は、物語でよく晴明のライバルとなっている道摩法師(どうま ほうし)こと蘆屋道満(あしや どうまん)。すぐさま捕らえられた道満は、藤原顕光(ふじわらの あきみつ)の依頼であることを白状しました。

顕光は道長の従兄弟にあたる人物で、道長が出家した後に左大臣となりましたが、道長との政治のアレコレで一家が大変な事になって道長を恨んでいたと言われています。

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相関図①

道長は悪いのは顕光であって道満ではないとし、「もうこんなことしちゃダメだぞ」と言って道満を生まれ故郷の播磨国(はりまのくに=現在の兵庫県南西部)へ流罪としました。そしてますます愛犬を可愛がるようになりましたとさ。

どこまでが本当の話?


ちなみに、「道満」という僧がいたのは確かなようで、高階光子(たかしなの みつこ/こうし)という女性が専属の陰陽師として召し抱えていたそうです。

高階光子は一条(いちじょう)天皇の中宮である定子(さだこ/ていし)の叔母で、定子の子・敦康(あつやす)親王の乳母を務めました。

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そして定子のライバルとなる、彰子(あきこ/しょうし)とその子・敦成(あつひら)親王(のちの後一条天皇)。そして彰子の父・藤原道長を呪詛(じゅそ)するという事件を起こしています。この時、呪詛を行ったのは別の僧侶ですが、政務記録『政事要略(せいじようりゃく)』に呪詛を企(くわだ)てた者の一人として道満の名がありました。

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相関図②

正式な記録にあるのはこれだけしかなく、謎の多い人物ですが、出身地とされる兵庫県加古川市ではいろいろな逸話や顕彰碑などが残り、愛されているようです。

藤原顕光は道長との政争に敗れ、道長を恨むあまりに一夜で白髪となったと言われています。その死後に、道長の娘たちが相次いで亡くなったことで、顕光が怨霊となって祟ったとされ、「悪霊左府(あくりょうさふ)」と呼ばれるようになりました。ちなみに左府とは左大臣のことです。

それから、実は法成寺が建立した頃はすでに安倍晴明は亡くなっています。のちの説話あるあるですが、ちょっと残念ですね。

ワンコの登場に期待!


もちろん『御堂関白殿の御犬』のエピソードはまるっきり史実といえるわけではありませんが、大河ドラマには安倍晴明も藤原顕光も登場しているのですから、なにかしらあっても良いエピソードではないでしょうか。なによりも賢イッヌが登場しますし!
 
アイキャッチ画像:岳亭春信『御堂関白の犬』 出展:メトロポリタン美術館

参考文献:
『世界大百科事典』(平凡社)
『国史大辞典』(小学館)
日本古典文学大系『宇治拾遺物語』(岩波書店)
斎藤英喜『安倍晴明』(ミネルヴァ書房)