金刀比羅宮の通な見どころ!御本宮の「桜樹木地蒔絵」
古くから「こんぴらさん」の愛称で親しまれおり、年間300万人もの参拝者が訪れる香川の金刀比羅宮。実はアート的な視点からも魅力に溢れています。たとえば御本宮に、美しい桜の蒔絵があしらわれていることをご存知でしょうか。

南北の壁を大胆に使い桜の大樹を描く
御本宮が創建されたのは中世になりますが、これまでに何度かの改築を重ね、現在の建物は、明治11(1878)年に完成したもの。明治新政府が明治元(1868)年に発令した神仏分離令の影響が色濃く映し出された建物で、それまでふんだんにあしらわれていた彫刻を抑え、「桜樹木地蒔絵(おうじゅきまきえ)」が、建物の壁面や天井に施されました。これは江戸の蒔絵師・山形治郎兵衛(やまがたじろべえ)らによって制作されたもの。「木地蒔絵」とは、木目が美しい素木(御本宮にはひのきを使用)に、漆塗りをせず、直接蒔絵を施す技法です。本殿の南側の壁には、太い幹と咲き誇る桜の花が、反対の北側の壁には花と枝先が垂れ下がる様子が。つまり両壁で1本の大きな桜の樹を表現しており、それぞれが縦2m、幅5mにもおよぶ大作となっています。


建物内に広がる圧巻の格天井
さらに南と北の壁をつなぐかのように、建物内の格天井にも桜の花が描かれています。市松状に配された合計138枚にも及ぶ蒔絵は、すべて異なるデザインに。一般の人でもご祈祷を希望すると中に入ることができ、その様子が伺えます。


実は研究の結果、天井画においては傷みが進み、修復が不可能ということに。そこで人間国宝の室瀬和美氏・山下義人氏の監修のもと、平成11(1999)年から平成16(2004)年にかけて行われた復元プロジェクトによって、新たに制作されました。以前は銀の薄板が貼られていたものを、変化しにくいプラチナ箔で再現。金箔の枝と葉に、プラチナ箔の桜が白く映え、当時の楚々とした印象が、見事に蘇っています。花の部分は、日のあたり具合によっては淡いピンク色に見えることも。ちなみに金刀比羅宮は桜の名所としても知られており、親和性の高いモチーフでもあります。
建物全体で表現した壮大な空間芸術
御本宮の『桜樹木地蒔絵』をはじめとする装飾は、それまでの仏教的な建築表現を払拭。「寺院から神社へと組織を再編する中で変容した境内の様相を現在に伝えており、歴史的に価値が高い」と評され、2024年には国の重要文化財にも指定されました。建物全体を使って表現した、空間芸術ともいえる洒脱な意匠『桜樹木地蒔絵』。お参りの際にはぜひ、こちらにも注目してみてください。
撮影/伊藤 信
構成/湯口かおり、古里典子(本誌)
金刀比羅宮
香川県仲多度郡琴平町892-1
電話番号:0877-75-2121
https://www.konpira.or.jp

