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2026.06.21

「茶色」はグリーンではなくブラウンなのはなぜ?「文人茶」の佃梓央さんに聞いてみた。阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.31

毎朝起きると鉄瓶で湯を沸かし、お茶を飲むのがルーティーンだという俳優・阿部顕嵐(あべ あらん)さん。そんな阿部さんが、煎茶や玉露を飲みながら掛け軸や器を楽しむ文人茶(ぶんじんちゃ)を継承する「一茶庵(いっさあん)宗家」の後継者、佃梓央(つくだしおう)さんと対談しました。目をキラキラさせてお茶について質問する阿部さんと、深くて軽快な佃さんのトークをお楽しみください。

「茶色」はグリーンではなくブラウンなのはなぜ? 

阿部顕嵐(以下、阿部):最近は毎朝、八女茶を飲んでいます。仲良くさせてもらっている料理人さんからの紹介で、無農薬で野性的な茶葉を作っている方から譲っていただいて。だから、今日はお茶の話を聞けるのがうれしいです。

佃梓央(以下、佃):そうでしたか。よろしくお願いします。

阿部:さっそくなのですが、千利休が大成させた茶道と、文人茶はどこが違うのでしょうか?

佃:「茶道」は粉の抹茶をかき混ぜて飲みますね。文人茶は、急須に入れた茶葉を湯に浸して抽出する「煎茶」を楽しみます。利休の死後100年以上経ってから江戸時代に大変流行したものです。

阿部:利休が亡くなって100年以上も後! 新しい飲み方だったのですね。

佃:そうです。天下泰平の1700年代半ば以降に関西、大坂を中心に流行しました。今の感覚だと、お茶って緑色のイメージがあるじゃないですか。でもそれ以前、庶民が飲んでいたお茶は、今でいうほうじ茶みたいな、炒った茶色のお茶だったようです。

阿部:なるほど。

佃:昔はお茶の葉を乾燥させて、袋に入れて、大きな土瓶でずっと煮だして飲んでいたようです。香ばしくて、色はブラウン。

阿部:ブラウンの「茶色」という言葉は、昔のお茶の色からきているのですね!

佃:そうそう。1700年半ば頃、京都の宇治で、茶葉を蒸す技術が開発されたと考えられています。茶葉をほんの数秒だけ蒸して柔らかくして、それを揉みながら乾かす。すると、今の煎茶みたいな、青々しくてフレッシュなお茶になります。

▲文人茶で飲まれるお茶

阿部:知りませんでした。

佃:ただ、宇治で開発された新しい煎茶、最初は関西で全然売れなかったらしいのです。

阿部:なぜですか? 絶対おいしいのに。

佃:当時の京都の人からすると、“青臭い”と思ったのかもしれません。関西で売れない煎茶を江戸に持っていった商人がいた。その中のひとりが、今も続く山本山さんです。

阿部:えっ、あの海苔の山本山さんですか!?

佃:そうです。

文人茶にハマった大坂の商人は、天下の台所の覇者だった

阿部:では、文人茶は江戸で流行したのですか?

佃:いえ、大坂です。当時の大坂は、私たちが持つイメージとは全く違う場所でした。大坂の豪商たちが莫大な富を蓄え、新しいカルチャーとして文人茶を始めたようです。

阿部:文人茶を始めたのは武士ではなく、大坂の商人なのですね。

佃:ええ。当時の古地図を見ると大坂の商人がいかに権力を持っていたかわかります。普通の藩の古地図なら街の真ん中には城が描かれますが、大坂の古地図には商人の店舗が中心に描かれているのですよ。

阿部:そうなのですか。

佃:全国の武士たちは、自分たちの藩の特産物や米を大阪の商人に売りさばいてもらうために頭を下げ、交渉にやってくる。商人が上座に座るような接待の場すらあったようです。戦争がなくなった平和な江戸時代において、経済力を持つ商人が実質的な権力者だったと私は考えています。

大坂商人が中国の書物を輸入して見つけた、「文房具」としてのお茶!?

阿部:そんな商人が、なぜ文人茶を始めたのですか?

佃:圧倒的な財力を持っていた彼らは、長崎を通じて世界中の書物を輸入していました。江戸時代は鎖国というイメージがありますが、江戸中期は意外と情報が溢れていたのです。大坂商人は中国の知識人たちのライフスタイルに憧れ、書物を読み漁る中で、「抹茶の茶道とは全く違う喫茶文化」が中国にあることに気づきました。

阿部:茶道とは違う喫茶文化とは?

佃:抹茶の茶道が客をおもてなしするフォーマルな「社交」なら、文人茶は「自分自身の楽しみ」のためのもの。中国では書斎のことを文房といいます。文人茶の道具は、本来、文房のなかで使う道具「文房具」の一部として認識されていました。書斎でひとり書物を読みながら、自分で煎茶をいれる。これがもともとの姿です。

阿部:「ながら飲み」だったのですか! それは驚きです。

佃:本を読んでいる時に、ふとひと息つく。さらさらと筆を走らせながら、自分でいれた煎茶を飲む。誰かのためではなく、自分の教養のためのツールなのです。難しい本を読むときも、煎茶のカフェインがあれば覚醒して内容が頭に入ってくる。書斎という豊かな日常の中に、煎茶があった。だからこそ、自分の好きなものを揃え、自分なりのスタイルで楽しむ。それが文人茶の醍醐味です。

「大塩平八郎の乱」は、文人茶のネットワークからうまれた?

阿部:ひとりで楽しむ文人茶は、江戸時代にどのように広がっていったのでしょうか?

佃:書斎というプライベートな空間に、本当に気が許せる友人を招くようになったのが始まりだと考えられます。抹茶を飲む茶室のような、ある種の様式美や緊張感とは違い、もっとフラットに、自由に意見を交わすための場としての文人茶。

阿部:江戸時代、文人茶はかなり自由な雰囲気だったのですね。

佃:現代的にたとえるならば、イギリスの正式なティータイムのような紅茶ではなく、ラフに友人と飲むコーヒーに文人茶は近いと思います。

阿部:コーヒーみたいなイメージですか。

佃:しかも文人茶で飲まれる煎茶は、頭を活性化させてくれる。さわやかな刺激があるからこそ、議論が弾んだのでしょう。

阿部:歴史上の人物で、そうした議論をしていた人はいるのですか?

佃:大塩平八郎が有名ですね。彼も文人茶を愛していました。煎茶を飲みながら、気の置けない仲間たちと社会や政治について議論を交わしていた。そこから世の中を変えようという熱いアイデアが生まれ、仲間とともに乱を起こす原動力になったのではないか、と私は想像しています。

阿部:文人茶の力、すごいですね。僕が毎朝、自分のためにお茶を煎れて楽しむのもちょっと文人茶に近いと思いました。深い歴史が知れて面白かったです。ありがとうございました。

次回、対談の後編ではいよいよ文人茶体験! 佃さんが淹れてくださるおいしい玉露をいただきます。お楽しみに。

撮影協力/新ばし 金田中
写真/岩田安史(touq)
文/給湯流茶道

一茶庵・佃梓央

一茶庵宗家の後継者。煎茶家。号は 如翺(じょこう)。慶應義塾大学文学部卒業。関西大学非常勤講師。茶の湯文化学会幹事。サントリー美術館、泉屋博古館、和泉市久保惣記念美術館など、様々な美術館で煎茶會を開催。2024年夏には、大英博物館で開催された煎茶會で亭主を務める。

一茶庵 公式サイト/https://issa-an.com/

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阿部顕嵐

阿部顕嵐 (あべ あらん) 俳優としての活動を中心に、映画、ドラマ、舞台と幅広い作品に参加。 近年はMBS 毎日放送 ドラマフィル枠『スメルズライクグリーンスピリット』にて柳田役、自身初のプロデュース舞台作品 東洋空想世界『blue egoist』を東京THEATER MILANO-Za、大阪オリックス劇場にて上演。 2025年は4月からTBSにてレギュラー番組『~企画プレゼンバラエティ~これ採用っスカ?』がスタート、また昨年話題となったドラマ『BLドラマの主演になりました』の続編もTELASAにて6月より配信予定。 阿部顕嵐による月額会員制デジタルマガジン『Storming』も2月よりスタートし、セルフプロデュースの動画作品を制作するなど、活動は多岐にわたる。 OFFICIAL SITE >>> https://alanabe.com
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