そんな言葉で手仕事の力を綴った、民藝運動の父、柳宗悦。柳は、名もなき職人がつくった日常の道具のなかに、このうえない美しさを見出しました。 それぞれの土地で生まれた素材や風土に向き合い、温かみのある手仕事を大切にする民藝のこころは、「エルメス」の物づくりとも響き合うように思われます。 今回紹介する品々も、そうした「用のための美しさ」に通じるものたち。 背景にある物語とともに、暮らしに取り入れてみませんか?
ベトナム漆から生まれる鮮やかな麗しき色彩
ジョッキーが纏う勝負服(カザック)をモチーフにした色とりどりの小さな旗が連なる蓋、箱の内側の朱色…。その輝きと深みのある美しい艶を生み出しているのは、ベトナムの伝統工芸であるラッカー。和漆とはまた違い、のびがよく、よりゆっくりと乾燥する特性をもつベトナムのラッカーは、鮮やかで豊かな色彩表現を叶えるという。現地で天然の樹液を採取し、15年以上の経験を有する熟練の職人たちの手で、彩色と研磨を何度も繰り返しながら塗布作業が施される。箱の外側には金箔が貼られて。大切なものを入れたくなる。

美しい景色を授ける優しくモダンなムラーノガラス
長く深い歴史を有するムラーノ島の工房で生まれたガラスたちは、ムラーノガラス特有の温かみのある優しい透明感と、新しい美しさを併せもつ。チェッカーボードやストライプの模様は、緻密な職人技の賜物。まずは透明な層と色付きの層からなる2重の吹きガラスをつくり、冷却した後、外側の色付きガラスを丹念にカットしながら描き出していく。光を受けるとガラスのゆらぎや色の濃淡が際立ち、植物や水の表情にも魅せられる。

遊びを心地いい時間にする木の温もりを宿したボードゲーム
それぞれの木の性質と向き合い、彫りや彩色まですべてインドネシアで手作業で行う「エルメス」の木工製品。この折り畳み式のバックギャモンも、マホガニー材の本体をはじめ、細部まで圧倒的に上質。手触りのよいマホガニー材のサイコロを振り、「ヴォー・スウィフト」(カーフ)のなめらかな革張りの駒を動かすたび、心満たされる。

軽やかな竹のスツールには日本の木工芸の技が生きて
「しかし生活の中に深く美を交えることこそ大切ではないでしょうか。
更にまた生活に交ることによって、かえって美が深まる場合がないでしょうか」柳 宗悦

世界的な建築家アルヴァロ・シザのデザインに、日本の伝統技法が加わった三角形のスツール。すっとした佇まいの一脚は、座面の竹も一本ずつ熱を加えて曲げ、両端だけが接するように組まれており、驚くほど軽量。それでいて「用の美」を印象づける所以は、その素材使い。ごく薄手の板を12層重ねて圧縮した竹の積層材を用いており、耐久性も高い。ちなみに「カルミ」(軽み)のネーミングは、松尾芭蕉が晩年に到達した、日常の題材の中に新しい美を発見し、平明で率直な言葉で詠む俳風から。
手織りのブランケットは繊細なぼかしの彩りにも趣が
ふんわりしたカシミアのブランケットは、手紡ぎで、手織り、手染めで温もりに満ちている。そのおおらかな美しさを高めているのが、ネパールの熟練職人の手で、ブランケットの両端から異なる2種類の染料に浸して徐々に色を入れていくことで生まれた、優しいぼかし。「H」形の木片をブランケットに取り付けた状態で染色を行い、くっきりとした白の抜き模様をつくるなど細部まで細やかだ。端を馬の鞍のようにまたぐハンドステッチも、かけがえのない手仕事の確かさを伝えてくれる。

日常を愛おしくする遊び心に満ちたフルーツ柄
「種々なる美しさの中で健康な美しさ以上に、この世に幸福を齎らすものは決してないのであります」柳 宗悦
澄んだ白磁に、グラフィカルでいてユーモアのあるフルーツ柄という、日本人イラストレーター武政諒が描いた世界が素敵。さらにはフランスの自社工房で手がけられる技も圧巻。絵付けは「エルメス」のスカーフ同様、1色ごとに版をつくって重ねる技法で施され、乾燥に4時間を要するため、1日に重ねられるのは2色だけという。ハンドペイントの金の縁飾りが光を添えて。

※価格表記は、すべて税込価格です。
※商品についてのお問い合わせ先:エルメスジャポン(03-3569-3300)
※本記事は雑誌『和樂(2026年6・7月号)』の転載です。

