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武者小路千家のお盆と精進料理(前編)【料理家 千麻子の「千歳一食」】
お盆の食卓に並ぶ、精進料理の食材

千麻子(以下 麻子):後編では主にお盆の時期に欠かせない食材についてお尋ねしたいと思っています。
千和加子(以下 和加子):お盆は仏事ですから、当然食べ物も仏教色が強くなりますね。動物性のタンパク質を取らないとか、ニラ・ニンニクなど香りの強い五葷(ごくん:仏教で食べることを禁じられている5種類の野菜のこと)も料理に使えませんね。
麻子:とはいえ、日本のお盆期間は、元は仏教行事というよりお正月の対のような形で存在していて、ご先祖さまをお迎えするお祝い事のような意味合いがあったとか。
和加子:うち(千家)ではやらないけど、お盆の期間中にお赤飯をお供えするお家もあるみたいね。でも、基本的にお盆は仏教的な要素が強いですから、黒豆を入れて炊いた白蒸し(しらむし)の方も捨てがたいですね。
麻子:仏教があっての精進料理なので、当然お寺発祥のものが多いですよね。私は母が茨城県出身なので、郷土料理のけんちん汁はよく食卓に上がりました。動物性のタンパク質の代わりに大豆や納豆、それから油揚げや飛龍頭(ひりょうず:がんもどきのこと)など、油を含んだ食べ応えのあるものも多いですね。
質素ではなく、ご馳走。手間が育む精進の味

和加子:京都の精進料理と言ったら、我が家では、大徳寺一久さんの大徳寺納豆は欠かせないですよ。
麻子:一久さんは、15世紀から大徳寺の台所の番を担当されているお店ですよね。昨年の一翁忌(いちおうき)の際の点心も作ってくださいました。
和加子:千家は大徳寺の一院である聚光院(じゅこういん)が菩提寺ですから、当然一久さんとの関わりも深いです。名物の大徳寺納豆は、一休和尚の頃から伝わると言われていますよ。うちには大徳寺の各塔頭(たっちゅう)が、ご挨拶の際にそれぞれのお寺で作った大徳寺納豆を持ってきてくださいます。皆さん、土用になると、裏庭などで天日干ししておられます。
麻子:それぞれに少しずつ味が違ったりするんでしょうね。興味深いです。以前、一久さんに伺った際に、大徳寺納豆の作り方を教えていただきましたよね。大豆を煮て、はったい粉(麦焦がしともいう)をまぶし、麹菌を発酵させる。そして塩水を入れて混ぜ合わせてから、天日干しをして、かき混ぜて熟成させる。ちょうど発酵させているところを見せていただいたけれど、ぽかぽか温かかったですね。麹菌の働きに感動しました。
和加子:最近、うちでは大徳寺納豆を包丁で細かく刻んで使うようになりました。炒め物にちょっとパラパラ入れても良いし、お粥に入れても美味しいです。それから、一久さんといえば大徳寺熬麩(だいとくじいりふ)も有名ですね。
麻子:大徳寺熬麩は、味がしっかりしていてお肉みたい。これひとつでご飯を何膳もいただけそうです(笑)以前は、精進というと質素なイメージだったんです。あまりいただく機会もなかったですし。でも一久さんの精進料理に出会って、ご馳走なのだと知ることができました。とても満たされます。
一久さんのご主人に「名物の大徳寺熬麩や擬製(ぎせい)豆腐など、手間のかかるものが多いですね」とお話ししたら、「家で作る『ケ』の料理は1時間以内で準備するもの。それ以外は『ハレ』の料理。手間をかけて相手にないものを与えるのがご馳走」と言っておられたのが印象的でした。時間をかけたものは日持ちもするので、主婦としてはありがたいですよね。
京野菜、湯葉、生麩。京都の風土に根づく食文化
和加子:それから、京都はお野菜も豊富。伏見唐辛子はさっと焼くだけでも美味しい。甘味があるわよね。賀茂茄子の揚げ出しや田楽なんかもよく作ります。基本的にご先祖様へのお供えと家族が食べるものは同じものなので、一度に作ります。お供え用の器は小さいから、ちょっと盛るだけで器にいっぱいになります。
麻子:お供えの配膳は、たしか飯、汁、煮物、右向(みぎむこう:お膳の奥の右側)と、左向(ひだりむこう:お膳の奥の左側)でしたね。一久さんが教えてくださいました。右向はおひたし、和えもの、酢の物。左向は天ぷらや炊き合わせなど。
和加子:香の物も必要ですね。それから、精進の期間はお豆腐や湯葉なしには語れません。京都は海から離れていますから、動物性タンパク質の代わりになるものということでこれらが発達したのでしょう。それにやはり水が美味しいですから、その点も重要でしょうね。

麻子:夏には必ず、千丸屋(せんまるや)さんの湯葉をいただいていますよね。私はくみあげ湯葉が大好きで、平気でひと袋は食べてしまいます。
和加子:乾燥湯葉もおうどんにかけたりするだけでいいのでよく使うけど、お盆はやはり生の湯葉を使います。あと、「東寺ゆば(銀杏、きくらげ、百合根などを幾重にも重ねた湯葉で、丁寧に包み込んで素揚げしたもの)」はお野菜と一緒に炊きますね。
麻子:なるほど。東寺ゆばはいつも鍋に入れていたのですが、今度やってみます。あと、京都はお豆腐も本当に美味しいですよね。
和加子:そうね。今の季節は作っておられないけれど、入山とうふ店さんの焼き豆腐は炭で焼いていて本格的です。あれは特別。
麻子:それはいただいてみたいです。先日、入山とうふ店さんのおぼろ豆腐を食べたのですが、風味が澄んでいて甘くて爽やかで、本当に美味しいと思いました。それから、おからを煮たものは濃いめの味付けで、ご飯のお供に抜群です。豆腐のワッフル、トッフルも子供に大人気でした!

和加子:あと、お豆腐を使ったしらす和え(白酢和え:しらずあえ)も、うちではよく作ります。
麻子:しらす?
和加子:豆腐の白和えに、お酢を加えたものです。他に胡麻も加えますが、さっぱりして夏にはいいですよ。
麻子:試してみます。そうそう、あと京都の食材というと、麩嘉(ふうか)さんの生麩が思い浮かびます。確か結納の時でしたか……はっきりとは覚えていないのですが、ご挨拶でお義母さんが持ってきてくださったのが生麩の詰め合わせでした。

麻子:後から調べてみると、京都旅行のたびに錦の店舗でよく麩饅頭をいただいていた、あのお店だ!と。それからインスタグラムをフォローし、チョコレートのお麩や梅干し麩だとか、それまで想像もしたことのなかった生麩を見てワクワクしています。
和加子:鯛やきの形をした可愛いのも作っておられるわよね。お店に行くと分かると思うけど、店頭に品物を置いていないお店って京都には結構あるのよ。生麩も、本店ではいつも置いているわけではないから、あらかじめこういうのが欲しいとお願いしてから行きます。生麩は冷凍もできるから、いざという時にも使えますよね。
麻子:はい、水分量も計算されていて、解凍しても品質が変わらないと伺って。これから私も生麩を冷凍保存してみようと思いました。
お盆のお供えに欠かせない「おけそくさん」

麻子:そういえば、お盆のお供えに必ず「おけそくさん」と呼ばれるお餅がありますよね。はじめて「おけそくさん」と聞いた時、何のことだろう?と思いました。
和加子:こちらでは、白餅をお供えの花束に見立てて「お華束(けそく)さん」と呼びます。餅屋さんに行けばいつでも売っているようなものですね。お盆の期間中はもちろん毎日取り替えています。
麻子:あと、おはぎもお供えしている記憶があります。
和加子:そう。おけそくさんを買いに行った際に、せっかくだからおはぎも買ってきていますよ。もちろんお迎え団子とか作ってもいいのだけれけど。
麻子:お餅は、最近は鳴海餅本店で求められていますよね。
和加子:昔は、家の近所に梅鉢さんというお餅屋さんがあって、つっかけで買いに行っていたんだけれどね。仕出屋さんやお料理屋さんも利用しておられた、銭幸餅(ぜにこうもち)さんの本店も最近たたまれてしまいました。
麻子:特にお盆の期間は、こうしたお店を毎日のように利用しますし、お店が減っていくのは寂しいですね。とはいえ、それでも私の実家のある東京に比べると、京都の方が精進料理の材料が身近だと感じます。
和加子:京都の精進向け食材は、料理屋さんの料理とは違う日々のお惣菜なのだけど、洗練されていると思いますよ。お盆だからどうしても和風になりがちだけど、麻子ちゃんだったら洋風で作ってみてもいいんじゃない?
麻子:はい、やってみたいと思います。そういえば、仏教伝来以降8世紀頃には、蘇(そ)という乳製品が作られていたと聞いたことがあります。乳製品を使うことで、精進料理の献立がさらに豊かになりそうな気がします。
和加子:それは楽しみね。
撮影/内藤貞保 取材協力/千宗屋 構成/千麻子、石川ともみ

