さて、この機会を逃すまじと、大阪までいそいそと出かけたつあおとまいこのふたりは、そこにどんな絵が掛かっているのかをあらかじめイメージしていたにもかかわらず、絵の前に立った途端に、こちらをひたすら見つめる可憐な少女の視線に釘付けに!そして、日本人ゆえにこの少女に引き付けられる理由に、はたと思い当たります。そこには日本の浮世絵に通じる美が潜んでいたのです。
えっ?つあおとまいこって誰だって?美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
少女の目よりも大きい真珠なんてホントにあったのか!?
つあお:大阪に来ているフェルメールの『真珠の耳飾りの少女』が大人気ですね。たわくし(=「私」を意味するつあお語)も、昔から胸キュンの絵なんです。

まいこ:こんなに見つめられたら、私もキュンとしちゃいました!
つあお:そうそう、まず瞳の描き方が素晴らしすぎる。
まいこ:ゼリーのようにぷるぷるしてましたよね。
つあお:そして、光の反射がさりげなく描きこまれている。
まいこ:フェルメールは光の画家ですね!
つあお:以前、この作品は『青いターバンの少女』と呼ばれてたんですけど、今は『真珠の耳飾りの少女』の名で定着してます。
まいこ:へぇ。タイトルに採られるだけあって、「青いターバン」はホントに色鮮やかですね。黄色との対比も気持ちいい。作品名はなぜ変わったんですか?
つあお:今回の展覧会の日本側監修者の宮下規久朗さんによると、この作品を題材にした映画が『真珠の耳飾りの少女』(原題:Girl with a Pearl Earring)というタイトルで2003年に公開されてヒットした際に、所蔵するマウリッツハイス美術館が呼び名を映画に合わせたのだとか。
まいこ:へぇ、映画のパワー恐るべしですね!
つあお:ただ、その名前になったからこそ真珠への注目が高まったとも言えるんじゃないかな。たわくしも「真珠」という言葉を意識して見直すことで、その描き方の絶妙さに気づきました。
まいこ:目と同じくきらりと光っている!
つあお:フェルメールは真珠の全体の形をはっきり描いているわけではないのに、光を巧みに表現することで大粒に見せてる。たわくしの知人は、「これはバロックパール(不規則な形に歪んだ真珠)なんじゃないか」と指摘してましたね。確かに、大粒だと完全な球体のものは少なそうです。
まいこ:くちびるにもきらりとした光が!
つあお:目とくちびると真珠に表された光の三角形が鑑賞者の視線を循環させているという指摘もあります。
まいこ:この真珠、少女の目より大きいですね。
つあお:それも大きな魅力につながってる。そもそも、「こんなにでかい真珠が、ほんとにあったのか?」なんてことも考えさせられます。
まいこ:こんなに大きな真珠を買えたのは、フランスのマリー・アントワネットくらいでしょう(笑)!
つあお:時代と国が若干違いますが、いい指摘だ(笑)。フェルメールの時代のオランダは経済が栄え、世界各地から東インド会社がいろんなものを輸入していた。真珠もその中にあったようです。
まいこ:素敵な時代ですね!
つあお:とはいえ、この大きさの真珠は、少々のお金持ちでも買えなかったでしょう。うん、マリー・アントワネットがあの時代にオランダにいれば、買えたかも知れない(笑)。
まいこ:へへ。
つあお:思うに、「こんな真珠をつけられたらいいな」と思わせるような、人々のあこがれや欲望を表した絵をフェルメールは描いたんじゃないですかね。
まいこ:日本を代表するジュエラーのミキモトが、この展覧会にちなんだ真珠のピアスを何種類か売り出していましたが、最も廉価なものでも770万円でした!
つあお:そうか、それなら買えそうだ。ってなわけない。無理です。買えません(笑)。
まいこ:買ったら私の耳につけさせてくださいね!
つあお:ははは。買うのは無理です。ただ、フェルメールが描いた少女の耳飾りは、実はイミテーションと考えられているそうですよ。真珠が本物であることを疑っていなかったたわくしには、意外な発見でした。
まいこ:なんと!
つあお:当時、真珠はものすごく高価だったから、銀製やガラス製のイミテーションが流行っていたのだとか。
まいこ:こうやって絵に描いてしまえば、「本物」になってしまいますね(笑)!
つあお:いやぁ、まったくもって素晴らしい絵ですよ。
『見返り美人図』と比べてみた
つあお:それにしても、そもそもこの少女はなんでこんなに可憐なのでしょうね?
まいこ:「可憐」に理由なんてあるのかしら(笑)?モデルは当時11歳くらいのフェルメールの長女だったという説もあるのだとか。それにしても、めちゃめちゃ若い。「可憐」のひとつの理由にはなるかも。
つあお:モデルはいたのだろうけど、特定の人物の肖像画として描かれた絵ではないんですよね。「トローニー」と呼ばれるジャンルの絵でした。
まいこ:そうそう、「トローニー」は、不特定の対象を描く人物画のことでしたよね。

「トローニー」はレンブラントが得意とした分野でもあった。縦15センチの小さな作品だが、笑う表情を実に巧みに描き出している
つあお:そうか、描かれているのが特定の人物ではないなら理想的な美を限りなく追求できそうだ。だからあえて「トローニー」の少女を描いたのかな?やるなぁ、フェルメールも。
まいこ:うふ。
つあお:それでこんなにお肌がすべすべなんだ。というのはね、フェルメールってこの絵に関しては、特にお肌の描き方がものすごく念入りなんですよ。
まいこ:すっぴんでこんなにきれいとは、うらやましい限りです。顔の左側に大きくシャドウが入っていて小顔効果もバッチリ出てる!
つあお:そうそう、光が当たっているところと影になっているところ、それぞれの描き方がものすごく繊細。ただグラデーションをつけているだけではなくて、実際の光の当たり方を反映している。だから、本当にそこに少女がいるかのように見える!
まいこ:私は今回初めてこの絵の実物を見たんですけどね、まさにこの少女に初めて「会った」感じがしました!この子、今絶対ここ(大阪中之島美術館)にいますよ!
つあお:絵なのに実在感がある。だからときめきも強い!
まいこ:ちょっと振り返ってるところがまたいいんですよね。
つあお:向こうに歩いて行こうとしているのを呼び止めたらこっちを向いたって感じですかね?
まいこ:そうそう。日本の浮世絵の『見返り美人図』みたいな。
つあお:おお、あの菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)の肉筆画の名作ですね!
まいこ:そう、江戸時代の絵ですよね。

※この作品は本展では展示されていません。

つあお:『見返り美人図』は17世紀の絵。フェルメールと同じ時代なんですよね。
まいこ:わぉ!
つあお:同じ時代に洋の東西で「見返って」いる!せっかくだから、比べてみましょう。師宣の美人も洗練度が高い。着物も美しい。そして、「見返り」のポーズってけっこうそそるかも。
まいこ:フェルメールと見返り方が逆なところがちょっとおもしろいかも。
つあお:おお、ホントだ。
まいこ:画面には描かれてないけど、「見返り」をしている美人は右のほうにいる誰かに呼ばれたのかな?
つあお:なるほど。
まいこ:フェルメールが描いた少女も、やっぱり、人に話しかけられたんじゃないでしょうか?
つあお:師宣の『見返り美人図』は、気が利いた構図と美しい図柄の着物が印象的な絵として、これまで鑑賞してきました。でも、本当はそんな見た目だけの話ではなくて、ポーズに女性の気持ちが表れているから、すごく心惹かれるのかも。フェルメールの少女もそうですね!
まいこ:絶対そうですよ。「見返り」のポーズを実際にやってみて、意外と労力がいることがわかりました。ぐいっと後ろを向くと首にも額にもシワが寄るんです。だから、よほどの理由がないとやらないと思うんです。
つあお:そうか、「よほどの理由」があったんだ!やっぱり恋しい人に呼び止められたのかなあ。
まいこ:そうであれば、多少シワが寄ったとしても、一生懸命見返りますもんね。
つあお:うんうん。
まいこ:そして、見返るとなぜかとても色っぽくなる。
つあお:見返られた方もドキドキする。
まいこ:フェルメールの少女は目線をバチっとこちらに合わせてきてますが、浮世絵のほうは目が画面の外のほうを向いていますね。つあおさんは、どっちが好みですか?
つあお:難しすぎる。しかし、目線を合わせるかどうかというところには、西洋と日本の習慣の差がありそうな気もします。
まいこ:確かに!
つあお:実はね、たわくしは『真珠の耳飾りの少女』は、喜多川歌麿の美人画に通じるところがあると思ってたんです。バストアップを描いたいわゆる「大首絵」で迫ってくるのが、江戸時代の人にはとてつもなく胸キュンだったと思うんですよ。 浮世絵に描かれた美人は「トローニー」とは違って実在の人物だったんだけど、花魁(おいらん)にしろ茶屋の娘にしろ概ね当時のスターでしたからキュンとしちゃいますよね。

高島ひさは、茶屋の看板娘だった
※この作品は本展では展示されていません。

まいこ:じゃあ、『見返り美人図』の彼女も全然こちらとは目線を合わせてくれないけど、江戸時代の人にとっては十分胸キュンだったんですね。日本の美意識も侮れない!
つあお:歌麿は、江戸時代の理想美を限りなく上手に表現したから、ものすごくたくさんの人が胸キュンになっていたと想像しております。
まいこ:ちょっとツンデレな感じ(笑)。
つあお:はは、そうかな。オランダの少女は真珠の耳飾りをしてますが、日本の美人は髪飾りをたくさんつけている。どちらも女性の美を引き立てているところがまた素晴らしい。
まいこ:歌麿のほうは、きっちり結った髪に、かんざしなどの飾りを豪華に付けている。こちらもかなり高価なものだったんでしょうね。
つあお:位が高いと思しき花魁はたくさん髪飾りをつけてますもんね。
まいこ:その豪華さにも目がくらみそうです。
つあお:江戸の昔から、人々は描かれた美人に胸キュンしていたんですね。だからこそ、今の日本人もフェルメールの少女に魅入られるわけです。
まいこ:つあおさん、日本の女性も見捨てないでくださいね。
つあお:今度まいこさんをモデルにして「トローニー」を描いていいですか?
まいこ:私でよろしければぜひ!「トローニー」のタイトルは「令和の浮世離れした女」とかになるのかな(笑)?。 楽しみです!
まいこセレクト

今回の展覧会では、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』が注目を一身に浴びていますが、フェルメールの作品はもう1点展示されていますのでお見逃しなく!
その作品は、『ディアナとニンフたち』。フェルメールが21歳の時に描いたという超初期のもので、現存する30数点のフェルメール作品のうち、唯一神話を題材としている貴重な絵です。ディアナというのは「狩り」と「月」の女神で、頭に三日月をつけて登場するので一目でわかります。月光のような色に輝くドレスがステキ。狩りを終えて世話係のニンフ(森の精)に足を洗ってもらっている姿が優雅です。ニンフが軽石で念入りに足をこすっているようですが、これはもしかしたら17世紀のオランダ人の習慣だったのかなと当時の風俗を想像してみました。そして私が注目したのはこの絵の中にあるふたつの背中(笑)。まずは左下の犬の背中。ディアナの足が隅々まできれいになっていく様子をじっと見ている背中からは、忠実な性格がにじみ出ていてかわいい。そしてもうひとつの背中は、ディアナの左上に見える女性のもの。よくよく見るとなかなか筋肉質で色っぽい。『真珠の耳飾りの少女』のように振り返って顔を見せてほしいという願望が湧いてきました。
つあおセレクト

可憐な少女や美人画の後に、建物の中の風景をお見せしましょう。本展覧会に出品されたうちの一作です。作者のウィッテは、フェルメールと同時代のオランダの画家。キリスト教会の内観をたくさん描いたそうです。
当時のオランダでこの絵は、実はすごい役割を果たしていたんです。フェルメールの時代のオランダの国教はプロテスタントで、カトリックは禁止されていたそうです。ただし隠れカトリックはいた。では、どうやって信仰を続けたのか?監修者の宮下規久朗さんによると、家の中にカトリック教会の絵を掛けるというのが、その対策のひとつだったというのです。
それにしても、ウィッテのこの絵は、本当に精緻だなと思います。写真のような臨場感がある。信者は自宅でも敬虔な気持ちになれたのではないでしょうか。フェルメールやレンブラント以外にも、素晴らしい画家がいたんですね。そんな中で画家たちが切磋琢磨したからこそ、『真珠の耳飾りの少女』のような名作が生まれたのでしょう。
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

はい、トローニーですので、実在の人物ではありません(笑)。大粒の真珠と小粒の真珠で作った人形のような髪飾りをつけるぜいたく! 『令和の浮世離れした女』という別名も持っております(笑)。
展覧会基本情報
展覧会名:フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日
会場名:大阪中之島美術館(大阪市北区)5階展示室
会期:2026年8月21日(金)〜9月27日(日) ※全日程日時指定制
公式サイト:https://vermeer2026.exhibit.jp/
アイキャッチ:「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」プレス内覧会風景

