兄弟で対比のある肖像画
池松壮亮さんが鑑賞された前期展示では、入り口を入ってすぐの場所に、「プロローグ」として豊臣秀吉と秀長兄弟の肖像画が飾られていました。東京都江戸東京博物館の杉山哲司(すぎやまさとし)さんは、「京都の禅林寺に伝わる肖像画です。特徴的なのは、秀吉が白い直衣(のうし)という、公家や天皇の日常服のスタイルで描かれていることですね」と、説明してくださいました。一方の秀長は、黒色の袍(ほう/上着)を着た正装の束帯(そくたい)姿です。秀吉が、独自のスタイルを打ち出そうとしたことが、肖像画の違いからうかがえます。

賤ヶ岳の戦いをリアルに感じる展示
池松壮亮さんも印象に残ったと話されていた、『賤ヶ岳合戦図屏風(しずがたけかっせんずびょうぶ)』は、兄弟にとって転換期になった賤ヶ岳の戦い※1を描いています。左隻(させき)には、柴田勝家が秀吉側を攻撃する様子、右隻(うせき)には、秀吉側が勝家を攻撃する様子が。見ていると、大河ドラマの緊迫した場面が浮かんでくるようです。

「左隻の上部に田上山(たなかみやま)砦と書かれた横に、美濃守(みののかみ)と記されています。ですから、ここに秀長の陣があったことがわかりますね」と、杉山さん。赤い幟(のぼり)が見えるので、確かにここで戦をしたのだと、実感することができます。「右隻には秀吉のひょうたん模様の馬標(うまじるし)※2があります。そして虎の皮の陣羽織を着て、日の丸の扇を持った秀吉が描かれていますね」。屏風を間近に見ながら、秀吉の姿を探すのも面白そうです。この屏風のことは、書籍で紹介されているので、歴史好きな人たちの間ではよく知られているのですが、展示は久しぶりなのだそうです。

杉山さんが個人的にお勧めしたいと話されていた『平三角大身槍(ひらさんかくおおみやり)銘 兼上(かねたか)』は、屏風のすぐそばで展示されていて、存在感を放っていました。片桐且元(かたぎりかつもと)※3が賤ヶ岳の戦いで使用した賤ヶ岳七本槍※4のひとくちと伝わるものです。「今回、ライティングにもこだわっていまして、このように槍の刃文(はもん)がはっきりと見えることは、なかなかないと思います」。刃文を見るには、展示されているケースの角から見るのが良いそうです。
(※4)豊臣秀吉に仕えた七人の武士の総称。賤ヶ岳の戦いの顕著な活躍に由来する。

秀長が茶会で使ったと伝わる茶壺
戦国時代の茶の湯は、天下人のたしなみであり、社会的地位と富裕さを示す一面がありました。茶道具を蒐集(しゅうしゅう)して大規模な茶会を催した信長のスタイルを、秀吉は継承しました。また弟の秀長も、秀吉に次いで名だたる茶器の所蔵者として知られていたようです。

展示されている『唐物茶壺(からものちゃつぼ)銘 松花(しょうか)』は、名高い茶壺として知られている、由緒あるもの。織田信長の嫡男・織田信忠に譲られたために本能寺の変を逃れ、その後秀吉の所持になりました。信長、秀吉、家康と、時の権力者のもとを渡り歩いた茶壺と思うと、感慨深い気持ちになりますね。
「この茶壺は、当時の茶会の記録に残っています。秀長は参議(さんぎ)※5に昇進した時に茶会を開いたのですが、恐らく、その時にこの茶壺も使われたのではないかと推測しています」と杉山さん。秀吉と秀長兄弟の華やかな時期に、彩りを添えてくれた大切な茶壺だったのでしょう。
秀長の人柄が伝わる古文書
この展覧会は、名古屋展、大阪展と巡回してきて、江戸東京博物館が最終になります。「東京会場の特徴として、古文書の展示には、口語訳がついています。釈文(しゃくもん)※6だけでは、一般の方たちにはわかりにくいので。意訳もしていますが、より内容が伝わりやすいのではないかと思います」と杉山さん。

『羽柴秀長書状 はせ本願宛』からは、大和(奈良県)に入った秀長が、長谷寺の修造を指示し、その後の進捗状況を細かく把握していたことが伝わってきます。観音堂の修造に、大工が過分な手間賃を要求する事態になっていること。それに対しては規定の支払いで応じ、それでも解決しない場合は、代わりの大工を差し向ける用意があると記しています。また、近日中に、自分も見物に出かけるつもりであると申し送っています。指示をして終わりではなく、現場にも足を運ぶ優れたリーダーだったことが伝わる内容です。
宣教師ルイス・フロイスの記録によると、秀吉は天下一統後、日本の支配を秀長に委ねたいと語っていたそうです。もし、そうなっていたら、歴史は大きく変わっていたのかもしれません。残念ながら秀長は病に倒れて、秀吉よりも先に亡くなってしまいます。
秀吉と秀長の関係の深さを感じる展示を見て、怒濤の展開を迎える大河ドラマ『豊臣兄弟!』を堪能するのはいかがでしょうか。
江戸東京博物館リニューアル記念・NHK大河ドラマ特別展「豊臣兄弟!」 概要

会期:2026年9月15日(火)~11月8日(日)
開催時間:9時30分~17時30分(入館は閉館の30分前まで)
※土曜日は19時30分まで開館。11月6日(金)は20時まで開館。
休館日:月曜日、11月4日(水)、ただし11月2日(月)は開館。
入館料:一般 2100円、65歳以上 1600円、大学生・専門学校生 1300円
会場:江戸東京博物館(JR総武線「両国駅」下車 西口から徒歩約3分。東口から徒歩約7分)(都営地下鉄大江戸線「両国駅(江戸東京博物館前)」下車 A3・A4出口から徒歩1分)
公式ウェブサイト:https://toyotomi2026.jp/
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