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2022.11.12

可愛いワンちゃんからモダンな図案まで!20世紀に琳派を継いだ画家・デザイナー神坂雪佳【パナソニック汐留美術館】

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あのかわいい子犬の絵を描いた神坂雪佳(かみさか・せっか)の展覧会がパナソニック汐留美術館(東京)で開かれる! というので、つあおとまいこの2人はいそいそと出かけていきました。会場に入ってまず驚いたのは、俵屋宗達や酒井抱一、渡辺始興など江戸時代の琳派の作品がけっこうな数並んでいたことです。ああ、眼福! 幕末生まれの神坂雪佳はその流れの中に身を委ねている一方で、近代らしいモダンさをたたえ、かわいかったりクールだったりひょうきんだったり。眼福の時間が続きました。

(左)渡辺始興『白象図』 江戸中期 細見美術館蔵 (右)中村芳中『白梅小禽図屏風』 江戸後期 細見美術館蔵 展示風景
会場を入るとまず、江戸時代の琳派の作品がたくさん並んでいた

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

神坂雪佳展(パナソニック汐留美術館)概要=神坂雪佳(1866-1942)は、明治から昭和にかけ、京都を中心に活躍した図案家・画家です。20世紀の幕開けと同時に、欧州で当時最先端の美術工芸を視察したことで、雪佳はあらためて日本古来の装飾芸術の素晴らしさを再認識し、「琳派」の研究に励みました。本展覧会は、「琳派」というテーマを通じて、多岐にわたる神坂雪佳の活動の真髄をひもときます。(出典=パナソニック汐留美術館ウェブサイト

最高の「被写体」としての子犬

つあお:神坂雪佳と言えば、やっぱり子犬の絵! 実際にご覧になってどうでしたか?

まいこ:カタツムリと見つめ合っている白い子犬が、とにかくいい味を出してますね!

神坂雪佳『百々世草』より「狗児」 1909〜10年刊 芸艸堂刊行 細見美術館蔵 展示風景

つあお:たわくし(=「私」を意味するつあお語)は最初、この絵を見たときに、実はカタツムリに気が付きませんでした。

まいこ:ただ何かをじっと見ているというイメージだったんですか?

つあお:多分、子犬のかわいさがほかのすべてにまさっていたんだと思います。だから、子犬だけを見ていたという感じです。

まいこ:なるほど! 後ろの茶色い子犬には気がつきましたか?

つあお:そっちもね、見始めてからしばらく経ってようやく、「あー、もう1匹いるじゃないか!」と思ったんですよ。

まいこ:影が薄くてかわいそう。

つあお:でも、実は後ろの子犬の目は、しっかり「カメラ目線」だったりしますね。

まいこ:そうですよね! 白い子犬のほうが主役には見えますけど。

つあお:それはそうだと思います。だってこんなに無心な様子を見せるなんて、最高の「被写体」じゃないですか。

まいこ:この後、この子犬はどんな挙動をするんでしょうね?

つあお:やっぱり、カタツムリに鼻を押し付けて匂いを嗅ぐのかな?

まいこ:私は舌を出してひとのみだと思うなぁ。

つあお:うわー。

まいこ:かわいい顔してても侮れないもんですよ!

こないだシャクトリムシを見つけた猫が似たような顔してたなあ

つあお:でもやっぱり、すごくかわいい(笑)。神坂雪佳は明治時代後半から大正ごろにこういう絵をたくさん描いてたんですけど、ルーツは江戸時代にあるようですよ。

まいこ:もしや琳派ですか?

つあお:ピンポン!

まいこ:でも、なぜか「ザ・琳派」って感じがしない気がします。

つあお:犬の絵は琳派に限らず円山応挙や伊藤若冲も描いてますもんね。江戸時代の琳派では、中村芳中という絵師が琳派の図案集である『光琳画譜』で描いた子犬の絵が、とにかくかわいいんですよ。

中村芳中『光琳画譜』 1802年刊 展示風景

まいこ:この展覧会でも出品されてましたね! あれはかわいい!

何度見ても可愛い!!!

つあお:そうなんです。江戸時代から犬はやはりペットとしてすごくかわいがられていたということでしょう。

まいこ:でも芳中の犬と雪佳の犬は、似てるようで似てないですね。

つあお:雪佳は、琳派を近代になって再興した作家と言われています。画題とか描き方とか、けっこう本格的に復活させているんだけど、よく見ると違う。

まいこ:どちらも薄くて太い線で縁取りしてますね。

つあお:そうそう、輪郭線の描き方はすごく通じてますね。

まいこ:でも、目が違う!

つあお:目に関しては、神坂雪佳の方がリアリティーがあるかも!

まいこ:たれ目でにたっとしてますよ!

つあお:なんとなく人間っぽい!

まいこ:そうですね! 人間が笑った時の目です。

つあお:すごくシンプルに描いているように見えながら、目の細かいところとか輪郭の繊細さとか、結構「表現」してますね。

まいこ:つあおさんが見て、一番かわいさを引き出しているポイントはどこだと思いますか?

つあお:カタツムリを見ているつぶらな瞳かな。

まいこ:確かに。あと、心なしか口がちょっと笑っているように見える。

つあお:ほんとだ。表現が繊細ですね! それでね、神坂雪佳のこの絵は、版画で摺られているんですよ。

まいこ:え! 筆による墨のあとがそのまま出てるみたいに見えます。

つあお:江戸時代の浮世絵と同じで、彫師と摺師は別にいて分業して制作してるんです。ということは、摺師がすごいということになる。

まいこ:生の筆あとを出せるなんて! 西欧の版画には、あまりなさそうですね。

つあお:実はね、明治から大正ごろにこの版画を摺った出版社の芸艸堂(うんそうどう)は今でも京都にあって、神坂雪佳の作品を時々増し摺りしているんだそうです。

絶対読めない!芸艸堂についてはこちらの記事もどうぞ。京都の出版社「芸艸堂(うんそうどう)」の凄すぎる版木蔵を訪ねてみた!

まいこ:へぇ。素晴らしい! その現場では、今もこの技が継承されているのですね!

つあお:そうなんです。この子犬の絵は『百々世草』という図案集として木版で出版されたものの一部なんです。 ほかにも尾形光琳を意識したであろう燕子花とか、彩り鮮やかな田んぼの絵とか。どれもホント、美しいんです。

(左)神坂雪佳『滑稽図案』 1903年 芸艸堂刊行 (右)神坂雪佳『ちく佐』 1900〜05年 芸艸堂刊行 展示風景
神坂雪佳は芸艸堂からいくつもの図案集を出版した

神坂雪佳は図案家だった?!

つあお:もう一つ重要なことを言うと、神坂雪佳は画家というよりも、図案家だったんです。肉筆の襖絵なんかもあるんだけど、工芸品の下絵を描くこともよくあった。鹿の絵をあしらったこの箱はその一つです。

(左)神坂雪佳 図案/神坂祐吉 作『鹿図蒔絵手元簞笥』 大正末〜昭和初期 京都国立近代美術館蔵 (右)神坂雪佳『鹿図蒔絵手元簞笥下図』 大正末〜昭和初期 展示風景

まいこ:下絵と一緒に展示してあるから、どんなふうに工芸に写されたかがよくわかりますね!

つあお:鹿が、まるでシルエットのように表されていますよね。それが神々しさを生み出しているのかも。すごく素敵に見えます。

まいこ:漆に映えてますね!

つあお:そうそう。「映え(ばえ)」って感じだな(笑)。

まいこ:後ろの木も、何げにちゃんと図柄として入ってますね。

つあお:鹿は昔から神様の使いのような存在だったから、こうした工芸品でも大切にされたんでしょう。でも鹿だけじゃ寂しいから、木を描いちゃったんだろうな。

まいこ:鹿が振り返ったところにも、草が生えてますものね。

つあお:そういったところにも、やはり大自然を信仰する日本のあり方をも反映してるのかもしれませんよ。 そういう感覚は、平安時代以来ずっとあって、琳派にも継承されてきましたし。

まいこ:それにしても、この鹿がシルエットだけでもエレガントに見えるように描かれているところがすごい!

主線を使えないのに、あえて「後ろ向きの鹿」をチョイスするところも匠っぽい。


つあお:これは制作に実際に携わった職人さんの力量もすごい! って言うか、雪佳の弟の神坂祐吉がその職人だったんですけどね。

まいこ:弟さんは工芸職人だったんですか! それでこんな作品ができるなんて、すごい兄弟!

つあお:年は20歳ほど離れていたのですが、共作はけっこうしてるみたいです。仲がいい兄弟だったんだろうな。

まいこ:同じ下絵が違う工芸品にデザインされたり、着物になったりもするのですかね?

つあお:可能性はありますね。さっきの子犬の絵も、図案集に掲載されていたものだから、着物の絵柄になった可能性もある。

まいこ:へぇ、キャラクター着物ですね!

つあお:子犬柄の着物もあってもよさそうですもんね。

まいこ:でも、図柄があんまりかわいいと、着てる本人よりそちらに目がいっちゃって問題かも。

つあお:まいこさんなら、そんな心配はしなくても大丈夫ですよ。かわいい子犬の絵の着物とか似合いますよ、絶対。

まいこ:わー、ありがとう、つあおさん!

(手前)神坂雪佳 図案『秋の野図卓』 1911年 展示風景

【一口メモ】本阿弥光悦に憧れた神坂雪佳

神坂雪佳『光悦村図』 昭和初期  展示風景

神坂雪佳は、江戸時代前期に琳派の祖、俵屋宗達としばしば一緒に仕事をした本阿弥光悦が京都近郊の鷹峯という場所に開いた「光悦村」を理想郷と考えており、『光悦村図』というオマージュ作品を描いている。自ら主宰した「佳都美会」という団体の呼称を1文字変えて「佳都美村」と改称したのは、光悦への憧れの表れだった。もちろん、実際に「佳都美村」という「村」が存在したわけではなかった。

幕末生まれの方が思う江戸時代への憧れ、現代とは全く違う距離感なんだろうな。

まいこセレクト

(手前)神坂雪佳 図案/四代、五代 清水六兵衞 作『水の図向付皿』 1920年 (右上)神坂雪佳『水の図向付皿図案』 1920年頃 展示風景

今回、雪佳の図案が、陶磁器や漆芸品などの工芸品でも魅力を大いに発揮していることがわかって新鮮でした。中でも面白かったのが、もにょもにょっとした青い線がくるっと渦巻いてできた形がそのまま豆皿になっていた作品です。豆皿だけを眺めていると、なんとも不思議な形で、カールしたしっぽがついたお尻のようでもあり、寝そべった子犬の後ろ姿のようでもあります。そして基になった図案に目を向けるとやっと、「おやっ、これは水文なのでは?」と見えてきました。でも適当に書いたものではなかったのです。なんと、かの有名な尾形光琳作『紅白梅図屏風』の川の部分にも描かれている「光琳水」という文様を使ったものとのこと!

確かに似たような形が渦巻いています。「光琳水」は小袖のデザインにはあったようですが、これを器にするという発想は斬新だったみたいです。やっぱり、雪佳には、『紅白梅図屏風』の水文一つ一つの渦巻をじっと見ているうちに、かわいい子犬の後ろ姿に見えてきたのではないかな〜(笑)

食いしん坊の私はそらまめに見えてしまいました!

つあおセレクト

(左)神坂雪佳 図案/河村蜻山作『雪庵菓子皿』 明治末〜大正初期 京都国立近代美術館 (右)神坂雪佳 図案/河村蜻山作『蔦図四方皿』 明治末〜大正初期 展示風景

『雪庵菓子皿』に載せてお菓子を食べてみたい! そんな衝動にかられませんか。雪佳は琳派の風流のみならず、なかなか諧謔味にあふれる図柄も描いていたのですね。それが器になるなら、生活を楽しくすること間違いなし。カラフルな蔦(つた)が描かれた四角形の皿は、とてもおしゃれ。載せた食べ物が美味しく感じられるようになること間違いなし。雪佳は襖絵や屏風絵も描いています。生活を彩る作家・デザイナーだったとも言えましょう。

和菓子屋さんの掛け紙の絵もデザインされたそう!京都の老舗、美しい“掛け紙”6選。こんなにスペシャルだった!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。​​

Gyoemon『ねこつむり』

かたつむりをじっと見つめていた子猫は、ついにかたつむりになってしまったというお話です。

展覧会基本情報

展覧会名:つながる琳派スピリット 神坂雪佳
会場名:パナソニック汐留美術館
会期:2022年10月29日〜12月18日(展示替えあり)
前期:10月29日〜11月29日
後期:12月1日〜12月18日
公式ウェブサイト:https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/22/221029/

参考文献

小川敦生「琳派モダン 神坂雪佳の風流(上)(下)」(日本経済新聞2021年7月11日付、同18日付朝刊「美の粋」面)
和樂web編集部「世界が注目する琳派デザイン「神坂雪佳」って誰だ?」

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

この記事に合いの手する人

平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。