Art

2025.06.15

老いてますます盛ん!「画狂老人卍」って誰のこと?│浮世絵師・葛飾北斎を知るAtoZ【G】

約70年にわたって活躍した浮世絵師・葛飾北斎。ただひたすら絵を描くことに執着し続けた北斎の人生は、波乱万丈にして奇想天外! 破天荒な絵師・北斎の人生をAからZの26の単語でご紹介します。今回はG=【画狂老人卍】!

北斎AtoZ
G=【画狂老人卍】北斎自ら称した印象的でズバリな画号


【画狂老人卍(がきょうろうじん まんじ)】は、北斎が自ら称した画号のひとつ。絵師として名乗る画号は、ペン・ネームや芸名と同様に作者としての責任を表すものですから、たびたび変えるべきものではないはずです。それが、北斎は生涯に30回も画号を改めたというのですから、驚きです。

画狂老人卍として最初の作が『富嶽百景』

富士山を描き続けた北斎が75歳になり、集大成として描いた版本。巻末には「長寿を得て百数十歳に至れば、一点一格が生きるがごとき絵を描けることだろう」と記されていた。『富嶽百景』(部分) 葛飾北斎 天保5(1834)・天保6(1835)年 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

主だったものを若いころから順に記すと「春朗(しゅんろう)」「宗理(そうり)」「北斎」「戴斗(たいと)」「為一(いいつ)」「卍(まんじ)」。
これらに副次的な画号を組み合わせているため、北斎の画号は多種多様にありました。

老人が描いたとは思えない、迫力満点の画狂老人卍期の絵

「鍾馗」は古来魔除けの神で、江戸時代には男児の無病息災を願って、端午の節句には鍾馗の絵が飾られた。赤い鍾馗の図は疱瘡(天然痘)除けの力があると信じられていた。『赤鍾馗(あかしょうき)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 メトロポリタン美術館 The Metropolitan Museum of Art, New York, Charles Stewart Smith Collection, Gift of Mrs. Charles Stewart Smith, Charles Stewart Smith Jr., and Howard Caswell Smith, in memory of Charles Stewart Smith, 1914

副次的画号の中でも強烈なのが「画狂人」で、その意は読んで字のごとく。みずから画における狂人と称したもので、天保5(1834)年から90歳で亡くなる嘉永2(1849)年までの間には「画狂老人卍」と書くようになっています。

現在は北斎と当たり前のように呼ばれていますが、もともとは「北斎辰政(ときまさ)」の号から「北斎改め為一」や「北斎改め戴斗」と変遷していた期間に、数多く描いた作品の署名に北斎の字がみられることから、北斎という名称が一般的になったとされます。

錦絵シリーズも手がけ、老いてますます盛んだった

百人一首の歌の意味を乳母が子供にやさしく絵解きするという意図で刊行されたシリーズ作。しかし、北斎の絵は難解で売り上げは低迷し、100図の予定が27図で中断。残りの63図の版下絵も残っている。『百人一首うはか縁説・清原深養父(ひゃくにんいっしゅうばがえとき・きよはらのふかやぶ)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ではなぜ、改号を頻繁に変えることを繰り返したのでしょうか?

その理由として、画号を譲ることによって収入を得ていたという説があります。たくさんの仕事をこなしながら、お金に無頓着(むとんちゃく)だったことから、北斎の懐(ふところ)は潤うことがなかったとか。なんと「北斎」の画号さえ弟子に譲っていたことが伝わっていますが、真相は未だ闇の中です。

Share

和樂web編集部


構成/山本 毅 ※本記事は雑誌『和樂(2017年10・11月号)』の転載・再編集です。 アルファベットに用いた葛飾北斎の絵は、『戯作者考補遺』(部分) 木村黙老著 国本出版社 1935 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1874790 (参照 2025-06-04)
おすすめの記事

水木しげるが浮世絵師だったら? 江戸と未来をつなぐ現代美術の挑戦【東京国立博物館 表慶館】

小川 敦生

「肉の筆」に溺れそう!狩野派、歌麿、北斎、一点物の春画がすごい/細見美術館「美しい春画」展レポ前編【日本画家・木村了子のイケメン考察 】vol.4

連載 木村 了子

江戸が熱狂した美人画の帝王、喜多川歌麿。代表作とともに解説【カリスマ絵師10人に学ぶ日本美術超入門】vol.8

和樂web編集部

悪口上等!アンチも沸かせた、北斎の“バズるパフォーマンス”とは?│浮世絵師・葛飾北斎を知るAtoZ【P】

和樂web編集部

人気記事ランキング

最新号紹介

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア