クラフツマンシップの真髄を、ゆったりと体感
「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」は、ロエベが1846年にマドリードでレザー職人の工房として誕生してから、世界的ブランドへと成長するまでの軌跡を、多彩なコンテンツで紹介する展覧会です。
約1300平方メートルにおよぶ展示空間は、21世紀を代表する革新的な建築を数多く手がけてきた、建築設計事務所OMAとのコラボレーションによってデザイン。ファッション、アート、デザイン、音、映像が交差するインタラクティブな演出を通じて、メゾンのクラフトの歴史と、それを支える哲学を体感として楽しめる内容になっています。
イベントのはじまりには、和樂の高橋編集長、和樂webの鈴木編集長から、ご参加いただいた皆さまへ感謝の気持ちを込めたご挨拶がありました。
「日頃から和樂を応援してくださっている皆さまと、ロエベのクラフツマンシップに触れる特別な機会をご一緒できることを、大変嬉しく思います。」 会場の空気もやわらぎ、緊張がほどけるような雰囲気のなかで、イベントはゆるやかに幕を開けました。
会場内では、各組にロエベのスタッフが付き添い、展示の背景や素材、制作工程を丁寧にご案内。
「ひとつひとつの展示から感じられる、手仕事を大切にする姿勢は、日本の工芸にも通じるものを感じますね。」
「製品が生まれるまでの背景に触れ、細部に至るまで一切の妥協を許さない姿勢に、深い感銘を受けました。」
と、ブランドのものづくりに対する真摯な姿勢に、参加者からは感嘆の声が上がりました。
ロエベが大切にしているクラフツマンシップの本質に触れることで、参加者の多くが、表層的な美しさだけではない“つくるという行為の尊さ”を感じ取っていたようです。
見逃せない展示の数々
展示は複数のテーマごとに空間が構成されており、ロエベのクラフト精神が多角的に表現されています。その全てが、メゾンのクラフツマンシップを体現する場として見逃せないものですが、特に反響の大きかった展示空間をご紹介します。
「ロエベのアトリエ」バッグが生まれる工程に宿る、手仕事の哲学
ロエベのアイコニックなバッグが完成するまでの工程を、実際の道具や素材とともに辿る空間。レザーのライブラリーから、裁断・縫製・塗装・組立に至るまでの流れを視覚的に追体験できる、職人の手仕事への敬意が込められた展示です。いくつもの工程を経て仕立てられる過程や、繊細な手作業の積み重ねに、多くの参加者が足を止めていました。
「クラフトによる連帯」世界の手仕事とつながる、もうひとつのロエベの顔
ここでは、ロエベやLOEWE FOUNDATION(ロエベ財団)が、世界各地のクラフトを支援してきた取り組みに焦点が当てられています。2016年から始まった「LOEWE FOUNDATION Craft Prize(ロエベ財団 クラフトプライズ)」や、400年の歴史をもつ京都の茶の湯釜師・大西家の技術継承支援など、メゾンがクラフトの未来と向き合ってきた姿勢を、具体的なプロジェクトとともに紹介。
展示空間には、クラフトプライズ受賞作家の作品に加え、明・清時代の単色陶磁器、ミラノサローネで発表されたブランケットやチェア、バスケットなど、多様な手仕事の表現が並び、技術への敬意と継承への意志が伝わる空間です。
「限界なきファッション」ジョナサン・アンダーソンの革新
2025年3月に退任を迎えたジョナサン・アンダーソンが築いてきたロエベの現在地を見つめ直すこの展示は、アンダーソンのロエベにおける革新と遺産を振り返るとともに、彼のデザインがもたらしたブランドの進化を体感できる貴重な空間です。
2013年の就任以降、アンダーソンはブランドの再構築を担い、クラフトの伝統に現代的な感性を重ねながら、メゾンの世界観を築いてきました。象徴的な「パズルバッグ」や、ユニークで遊び心に溢れたコレクションなど、彼のデザインはロエベに新たな息吹をもたらし、国際的な評価を再確立する原動力となったのです。
会場では、彼が手がけた代表的なルックが並び、その創造性と革新性を空間全体で体感できます。単に過去を回顧するだけでなく、彼の創造性とクラフトへの深いまなざしが、ブランドにどれほど豊かな変化をもたらしたのかを実感できる空間です。
「意外な対話」共演から広がる、想像力あふれるインスタレーション
スタジオジブリや陶芸ユニット スナ・フジタなど、ロエベの創造性と共鳴したコラボレーターたちの世界が、幻想的なインスタレーションとして表現されているエリアです。のぞき穴の中に広がる物語や、花が宙を舞うような演出、幻想的な映像が広がる空間など、ブランドの“遊び心”と“文化的視座”がひとつになったような世界は、まさに没入体験そのものでした。
記憶に残る一品を、ギフトショップで
ギフトショップでは、展示を見終えたばかりの余韻のなか、気になるアイテムに思い思いに手を伸ばす姿が見られました。なかでも、ロエベのアイコンバッグ「ハンモック」の限定カラーや、通常は展開されていないミニサイズの“ハンモック コンパクト”やラージサイズの”ハンモック トート“は、この展覧会だけの特別な仕様として話題に。多くの参加者が足を止めていました。
そのほかにも、ハンモックバッグを模したチャームや、ハンドタオルセットなどのギフトショップ限定品、ロエベらしいクラフトの遊び心が詰まったアイテムたちが目を引きます。
ギフトショップは単なる物販の場ではなく、展示で感じた“クラフトの世界”を日常へと繋げるもうひとつの体験空間として、多くの参加者の記憶に残っていたようでした。
カサロエベ表参道にて、特別なショッピング体験
展覧会を楽しんだ後は、カサロエベ表参道へと移動。貸し切りの店内では、シャンパンとフィンガーフードがふるまわれ、メゾンの世界観に包まれながら、ゆったりとショッピングを楽しむ時間が設けられました。
スタッフと和やかに談笑しながら、バッグやウェア、アクセサリーなどを手に取り、思い思いのアイテムを吟味。展示で目にしたアイテムを、実際に店頭で手に取り、その質感や仕立てを確かめる。ひとつひとつに丁寧に向き合う姿が、とても印象的でした。
商品そのものだけでなく、そこに込められた哲学や技術を知ったうえで触れることで、ものとの距離が縮まっていく。そんな感覚が、会場全体に漂っていたように感じられました。
クラフトという言語を通じて
「ロエベ クラフテッド・ワールド展」は、メゾンの歴史やアートとの対話、そして職人の技術を多面的に紹介する試みであり、単なるファッション展示ではありません。手でつくること、受け継ぐこと、そして世界とつながること。クラフトという言語を通じて、ロエベが語る179年の物語は、静かに、けれど力強く私達の心に訴えかけます。
今回のイベントは、そうした価値観を、特別な体験を通して共有する貴重な場となりました。
これからも『和樂』および『和樂web』は、こうした文化的な体験をお届けしてまいります。どうぞご期待ください。
ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界
東京都渋谷区神宮前6-35-6
JR山手線「原宿」駅徒歩2分、東京メトロ千代田線・副都心線「明治神宮前」駅直結
2025年3月29日(土) – 5月11日(日)
9:00 – 20:00(最終入場時間 19:00)
入場無料(予約制) *混雑状況により当日入場も受け付け可能な場合があります。
公式ウェブサイト
文・構成/石川ともみ 撮影/須田卓馬