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2025.02.25

「モネVS浮世絵」5つの画題で見比べ!・前編

19世紀のパリ芸術界で、いち早く浮世絵に惹かれ蒐集していたモネ。そのためか、「浮世絵の影響?」と思われる作品がいくつもあるのです。そんな作品を見比べると、モネの〝浮世絵♥ラブ〟がよくわかります!

日本を愛した巨匠モネの魅力に迫ります!

印象派の巨匠、クロード・モネ。彼は、300点近くの浮世絵を所有していた、日本美術の熱心なコレクターでもありました。モネと浮世絵、ふたつの美の世界をぞんぶんに!

モネVS浮世絵 見比べ1「睡蓮」 あの代名詞的モチーフも浮世絵から着想?

モネは晩年、大装飾画や連作のモチーフにもっぱら〈睡蓮〉を用いました。
睡蓮を描いた作品を所蔵する美術館は日本にも数多く、国立西洋美術館で開催されて大評判だった「モネ 睡蓮のとき」のように、展覧会でもたびたび特集され、多くのファンを集めています。
睡蓮は19世紀後期に移り住んだジヴェルニーの、〝水の庭〟と呼ばれたエリアの池を彩った花。モネの特徴的モチーフだと考えられています。
ですが、歌川広重の風景画シリーズのなかに、池を覆うように咲く蓮を描いた『東都名所 上野不忍蓮池』が! 
広重といえば、モネが多数コレクションしていた絵師のひとり…。このなんともいえない共通性を見ると、モネに対する親近感もわいてきます。

歌川広重『東都名所 上野不忍蓮池』

『東都名所』シリーズは、『東海道五拾三次』で人気を博した広重による風景画シリーズの後継作。1867年のパリ万博での展示によってジャポニスム(日本趣味)ブームが起こったが、モネはそれ以前から浮世絵に関心をもっていたようだ。●歌川広重(うたがわひろしげ)『東都名所 上野不忍蓮池(とうとめいしょ うえのしのばずのはすいけ)』大判錦絵 天保15~弘化2(1844~1845)年 海の見える杜美術館

クロード・モネ『睡蓮』

妻や長男の死、自身の白内障とつらい時期を経て、70代半ばで再び絵筆をとったモネは睡蓮の連作に執心。当時の作に、青空や白い雲が水面に映ったものは珍しく、ピンクの花弁を含め、全体に明るく華やか。●油彩・カンヴァス 1906年 89.9×94.1cm シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Mr. and Mrs. Martin A. Ryerson Collection, 1933.1157

歌川広重『名所江戸百景 亀戸天神境内』

『東海道五拾三次』で知られる歌川広重が最晩年に手がけた連作『名所江戸百景』のうちの1枚。藤の名所として知られる亀戸天神の、境内の池にかかる太鼓橋が描かれている。藤棚も太鼓橋も、モネ作品に多出するモチーフである。●歌川広重『名所江戸百景 亀戸天神境内(めいしょえどひゃっけい かめいどてんじんけいだい)』大判錦絵 安政3(1856)年 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

クロード・モネ『睡蓮の池』

1883年にジヴェルニーに移住したモネは、1893年に近隣に土地を買い、そこに自身で「水の庭」をつくりあげ、そこで多くの作品を描いた。なかでも睡蓮の池とそこに架けられた日本風の太鼓橋を描いた連作は18枚あり、本作はその1点。繁茂する緑が濃密な印象。●油彩・カンヴァス 1899年 88.6×91.9㎝ ポーラ美術館

モネと浮世絵 見比べ2「風景」 手前の木の描き方に〝浮世絵 〟が溢れてる!

15世紀のルネサンス期に定められた規範が連綿と受け継がれてきた西洋絵画。
モネが率いた印象派は、それを超越したことで美術史に金字塔を打ち立てました。その最たるものが風景画です。
遠近法を駆使して奥行きを出し、目に映る景色をありのままに描く…。モネはこの鉄則に従うことなく、光溢れる自然を見たときの印象をそのまま表現したのです。
モネを革新的な画法へと導いたのが浮世絵風景画だったことは、そのコレクションから推測できます。
特に葛飾北斎の『冨嶽三十六景』シリーズの、木などを前面に描いたインパクトある作品には、類似性があるものがいくつも! これは模倣ではなく、モネの意識改革に影響を与えたと考えるべきでしょう。

葛飾北斎『冨嶽三十六景 信州諏訪湖』

手前の中心部に立つ木を際立たせ、奥には諏訪湖の水平線。『ボルディゲラ』のモチーフの配置とことごとく似ていて、北斎の構図のすごさを再認識。●葛飾北斎(かつしかほくさい)『冨嶽三十六景 信州諏訪湖(ふがくさんじゅうろっけい しんしゅうすわこ)』横大判錦絵 江戸時代・19世紀 メトロポリタン美術館 The Metropolitan Museum of Art, Henry L. Phillips Collection, Bequest of Henry L. Phillips, 1939, JP2965

クロード・モネ『ボルディゲラ』

43歳のころ、モネはルノワールとともに地中海を訪れ、ボルディゲラで多数の絵を描いた。それらの作品の色彩は明るさを増し、浮世絵の構図を自らの作品に応用する傾向にも拍車がかかったといわれている。●油彩・カンヴァス 1884年 65.0×80.8㎝ シカゴ美術館 Art Institute of Chicago, Potter Palmer Collection, 1922.426

※本記事は雑誌『和樂(2024年12・2025年1月号)』の再編集・転載です。

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和樂web編集部


構成/山本 毅、古里典子(本誌)
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