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2019.09.02

聖徳太子「十七条憲法」を徹底解説。現代語訳を読んでみたい!

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聖徳太子の制定した十七条憲法ってなに?

聖徳太子の説いた十七条憲法は日本最初の憲法。内容は今の憲法とは少し違いますが、現代でも通じるものばかりです。今回はその内容について解説していきます。

誰のために十七条憲法がつくられたのか

聖徳太子が推古12(604)年に制定した十七条憲法は、現代の憲法とは異なり、貴族や官僚など政治に関わる人々に道徳や心がけを説いたものです。

聖徳太子ってどんな人?

「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」という聞き馴染みのある俳句にも入っている「法隆寺」を建てた人物、聖徳太子。お札の肖像画になったり、教科書上でも必ず見た事があるような人物として有名ですが、本当は実在していなかったのではないか? と密かに噂されていたり…! 一体どんな人物だったのでしょうか。簡単にご紹介します。

聖徳太子の出生は?

574年に橘宮(たちばなのみや)と呼ばれた地で、用明(ようめい)天皇を父に、穴穂部間人(あなほべのはしひとの)皇后を母に、聖徳太子は生まれたとされています。

名前が10個を超えていた!?

「聖徳太子」という名前の他に「厩戸皇子(うまやどのおうじ)」という名前も少なからず聞いたことがあるかもしれませんが、「上宮皇子(かみつみやのみこ)」や「豊聡耳皇子(とよとみみのみこ)」など、10を超える名を持っていたそうです。ちなみに「豊聡耳皇子」は名前から想像できるかもしれませんが、太子が10人の請願者が同時に話した内容を聞き分け的確に返答したという有名な逸話に由来しています。

したたかな一面も持っていた聖徳太子!

「聖徳太子像」 フリーア美術館蔵 Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution,Washington, D.C:Purchase — funds provided by the Parnassus Foundation, courtesy of Jane and Raphael Bernstein; Mr. and Mrs. Frank H. Pearl; Jeffrey P. Cunard; and the Charles Lang Freer Endowment,F2001.1a-f

聡明で、人望がありとにかくずば抜けて優れている政治家だったようです。外交的手腕が高く評価されただけではなく、国内的にもスポンサー集めに長け、いわゆる政治の三バンでいう看板(=知名度)だけでなく地盤(=組織)や鞄(=資金)もしっかり確保していたようです。一大スポンサーの秦河勝(はだのかわかつ)には、献金のお礼にと「百済の仏像(くだらのぶつぞう)」を贈呈するのですが、実はこれが太子の造らせた「日本製」であることが調査で判明するなどしたたかな一面も垣間見られます。

十七条憲法の条文・訳文

次に、十七条憲法の内容についてご紹介します。

第一条、和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す……。

「やわらぎをもってたうとしとなしさがふことなきをむねとなす……。」

訳文「和を大切にし人といさかいをせぬようにせよ。人にはそれぞれつきあいというものがあるが、この世に理想的な人格者というのは少ないものだ。それゆえ、とかく君主や父に従わなかったり、身近の人々と仲たがいを起こしたりする。しかし、上司と下僚がにこやかに仲むつまじく論じ合えれば、おのずから事は筋道にかない、どんな事でも成就するであろう。」

第二条、篤く三寶を敬へ、三寶とは佛と法と僧となり……。

「あつくさんぽうをうやまへ、さんぽうとはぶつとほうとそうとなり……。」

訳文「篤く仏教を信仰せよ。仏教はあらゆる生きものの最後に帰するところ、すべての国々の仰ぐ究極のよりどころである。どのような時代のどのような人々でも、この法をあがめないことがあろうか。心底からの悪人はまれであり、よく教え諭せば必ず従わせることができる。仏教に帰依しないで、どうしてよこしまな心を正すことができよう。」

第三条、詔を承けては必ず謹め……。

「みことのりをうけてはかならずつつしめ……。」

訳文「天皇の命を受けたら、必ずそれに従え。譬えるなら君は天、臣は地。天が万物を覆い、地が万物を載せる。それによって四季は規則正しく移りゆき、万物を活動させるのだ。もし地が天を覆おうとするなら、この秩序は破壊されてしまう。そのように、君主の言に臣下は必ず承服し、上の者が行えば下の者はそれに従うのだ。だから、天皇の命を受けたら必ず従え。もし従わなければ、結局は自滅するであろう。」

第四条、羣卿百寮體を以て本とせよ……。

「ぐんけいひゃくりょうれいをもってもととせよ……。」

訳文「群卿(大夫と呼ばれる上位官吏)や百寮(各官司の役人)は、みな礼法を物事の基本とせよ。民を治める肝要は、この礼法にある。上の者の行いが礼法にかなわなければ下の者の秩序は乱れ、下の者に礼法が失われれば罪を犯す者が出てくる。群臣に礼法が保たれていれば序列も乱れず、百姓に礼法が保たれていれば国家はおのずと治まるものである。」

第五条、餮を絶ち欲を棄てゝ明かに訴訟を辧へよ……。

「あぢはひをたちよくをすててあきらかにうったへをわきまえよ」

訳文「食におごることをやめ、財物への欲望を棄てて、訴訟を公明にさばけ。百姓の訴えは一日に千件にも及ぼう。一日でもそうなのだから、年がたてばなおさらのことだ。近ごろ、訴訟を扱う者は私利を得るのをあたりまえと思い、賄賂を受けてからその申し立てを聞いているようだ。財産のある者の訴えは石を水に投げ込むように必ず聞き届けられるが、貧乏人の訴えは水を石に投げかけるように、手ごたえもなくはねつけられてしまう。これでは貧しい民はどうしてよいかわからず、臣としての役人のなすべき道も見失われることだろう。」

第六条、惡を懲し善を勸むるは古の良典なり……。

「あくをこらしぜんをすすむるはいにしえのよきのりなり……。」

訳文「悪しきを懲らし善きを勧めるということは、古からのよるべき教えである。それゆえ、人の善行はかくすことなく知らせ、悪事は必ず改めさせよ。人におもねり、人をあざむく者は国家をくつがえす利器ともなり、人民を滅ぼす鋭い剣ともなる者だ。また、媚びへつらう者は、上の者には好んで下の者の過失を告げ口し、下の者に会えば上の者を非難する。このような人々はみな君に対して忠義の心がなく、民に対しては仁愛の心がない。大きな乱れのもととなることだ。」

第七条、人各任し掌ることあり宜しく濫れざるべし……。

「ひとおのおのよきしつかさどることありよろしくみだれざるべし……。」

訳文「人にはそれぞれの任務がある。おのおの職掌を守り、権限を濫用しないようにせよ。賢明な人が官にあれば政治をたたえる声がたちまちに起こるが、よこしまな心をもつ者が官にあれば政治の乱れがたちどころに頻発する。世間には生まれながら物事をわきまえている人は少ない。よく思慮を働かせ、努力してこそ聖人となるのだ。物事はどんな重大なことも些細なことも、適任者を得てこそなしとげられる。時の流れが速かろうと遅かろうと、賢明な人にあったときにおのずと解決がつく。その結果、国家は永久で、君主の地位も安泰となるのだ。だから古の聖王は、官のために適当な人材を集めたのであり、人のために官を設けるようなことはしなかったのだ。」

第八条、羣卿百寮早く朝りて晏く退れよ……。

「ぐんけいひゃくりょうはやくまゐりいておそくまかれよ……。」

訳文「群卿や百寮は、朝は早く出仕し、夕は遅く退出するようにせよ。公務はゆるがせにできないものであり、一日かかってもすべてを終えることは難しい。それゆえ、遅く出仕したのでは緊急の用事に間に合わないし、早く退出したのでは事務をし残してしまう。」

第九条、信は是れ義の本なり事每に信あれ……。

「しんはこれぎのもとなりことごとにしんあれ……。」

訳文「信は人の行うべき道の源である。何事をなすにも真心をこめよ。事のよしあし、成否のかなめはこの信にある。群臣がみな真心をもって事にあたるなら、どのようなことでも成するだろう。しかし真心がなかったら、すべてが失敗するだろう。」

第十条、忿を絶ち瞋を棄て人の違ふを怒らざれ……。

「こころいかりをたちおもていかりをすてひとのたがふをおこらざれ……。」

訳文「心に憤りを抱いたり、それを顔に表したりすることをやめ、人が自分と違ったことをしても、それを怒らないようにせよ。人の心はさまざまでお互いに相譲れないものをもっている。相手がよいと思うことを自分はよくないと思ったり、自分がよいことだと思っても相手がそれをよくないと思うことがあるものだ。自分が聖人で相手が愚人だと決まっているわけではない。ともに凡夫なのだ。是非の理をだれが定めることができよう。お互いに賢人でもあり、愚人でもあるのは、端のない鐶(リング)のようなものだ。それゆえ、相手が怒ったら、むしろ自分が過失を犯しているのではないかと反省せよ。自分ひとりが、そのほうが正しいと思っても、衆人の意見を尊重し、その行うところに従うがよい。」

第十一条、明かに功過を察して賞罸必ず當てよ……。

「あきらかにこうかをさっしてしょうばつかならずあてよ……。」

訳文「官人の功績や過失をはっきりとみて、それにかなった賞罰を行うようにせよ。近ごろは、功績によらず賞を与えたり、罪がないのに罰を加えたりしていることがある。政務にたずさわる群卿は、賞罰を正しくはっきりと行うようにすべきである。」

第十二条、國司國造百姓に歛ること勿れ……。

「くにのつかさくにのみやつこひゃくしょうにおさめとることなかれ……。」

訳文「国司や国造は、百姓から税をむさぼり取らぬようにせよ。国にふたりの君はなく、民にふたりの主はない。この国土のすべての人々は、みな王(天皇)を主としているのだ。国政を委ねられている官司の人々は、みな王の臣なのである。どうして公の事以外に、百姓から税をむさぼり取ってよいであろうか。」

第十三条、諸の官に任せる者同じく職掌を知れ……。

「もろもろのかんによさせるものおなじくしょくしょうをしれ……。」

訳文「それぞれの官司に任じられた者は官司の職務内容を熟知せよ。病気や使役のために事務をとらないことがあっても、職務についたなら以前から従事しているかのようにその職務に和していくようにせよ。そのようなことに自分は関知しないといって、公務を妨げるようなことがあってはならない。」

第十四条、羣臣百寮嫉妬あること無れ……。

「ぐんしんひゃくりょうしっとあることなかれ……。」

訳文「群臣や百寮は人をうらやみねたむことがあってはならない。自分が人をうらやめば、人もまた自分をうらやむ。そのような嫉妬の憂いは際限がない。それゆえ、人の知識が自分よりまさっていることを喜ばず、才能が自分よりすぐれていることをねたむ。そんなことでは五百年たってひとりの賢人に出会うことも、千年たってひとりの聖人が現れることも難しいだろう。賢人や聖人を得なくては、何によって国を治めたらよいであろうか。」

第十五条、私に背き公に向くは是れ臣の道なり……。

「わたくしにそむきおおやけにむくはそれしんのみちなり……。」

訳文「私心を去って公の事を行うのが臣たる者の道である。人に私心があれば他人に恨みの気持ちを起こさせる。恨みの気持ちがあれば人々の気持ちは整わない。人々の気持ちが整わないことは私心をもって公務を妨げることであり、恨みの気持ちが起これば制度に違反し法律を犯すことになる。第一の章で上下の人々が相和し協調するようにといったのもこの気持ちからである。」

第十六条、民を使ふに時を以てするは古の良典なり……。

「たみをつかふにときをもってするはいにしえのりょうてんなり……。」

訳文「民を使役するのに時節を考えよとは、古からのよるべき教えである。冬の月の間(10〜12月)に余暇があれば民を使役せよ。春から夏にかけては農耕や養蚕の時節であるから、民を使役してはならない。農耕をしなかったら何を食べればよいのか。養蚕をしなかったら何を着ればよいのか。」

第十七条、夫れ事は獨り斷むべからず必ず衆と與に論ふべし……。

「それごとはひとりさだむべからずかならずしうとともにあげつらふべし……。」

訳文「物事は独断で行ってはならない。必ずみなと論じあうようにせよ。些細なことは必ずしもみなにはからなくてもよいが、大事を議する場合には誤った判断をするかも知れぬ。人々と検討しあえば、話し合いによって道理にかなったやり方を見出すことができる。」

参考文献/『中公バックス 日本の名著I「日本書紀」』責任編集・井上光貞

※「和樂」2007年8月号を再編集しました。画像は「和樂」11月号別冊付録(2015年10月1日発売)より転載しました。

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