平安貴族の詠んだ「和歌」を、私も詠んでみたい! でも色々なルールがあって難しい……。そこで、簡単な「和歌のレシピ」のようなものを考えてみました! レシピをもとにスタッフが和歌づくりに挑戦した模様もお伝えします。
和歌の基本
まず、文字数は 5・7・5・7・7 で構成された全部で31文字です。
次に押さえておきたいのが「和のこころ」。そもそも和歌は詩の一種で、「やまとうた」とも呼ばれるように、日本人ならではの感性がぎゅっと凝縮されているのが特徴です。四季や風景に想いを託したり、日本人ならではの細やかなものの見方を表現したり……。自分の思う「和」を31文字にのせてみましょう!
和歌の調理方法~基本の技とスパイス~
和歌にはさまざまな表現技法があります。基本を押さえつつ、ちょっとしたスパイスやアレンジを加えると、ぐっと奥行きが出るのです。ここでは基本的な技法「枕詞(まくらことば)」「掛詞(かけことば)」「本歌取り(ほんかどり)」をご紹介します。
※このほかにも序詞・縁語などの技法がありますが、今回は割愛します。
枕詞~高級料理が載ったやたら面積の広い皿~
枕詞とは、特定の語を飾る5音(4音の場合も)の言葉で、それ自体に特に意味はないものを指します。例えば映画のタイトルにもなった「ちはやふる」は、「神」を修飾する枕詞です。
枕詞には、例えばこんなものがあります。
たらちねの 母
あしひきの 山
ひさかたの 光・天・月・日 など
このような一般名詞のほか、固有名詞にもかかる枕詞もあります。
こもりくの 泊瀬(はつせ)
八雲立つ 出雲
あをによし 奈良 など
これを見て気付いたかもしれませんが、枕詞は畏怖の対象(スゴイもの)に使われることが多く、ちょっとした名詞には使われません。
つまり例えるならば、枕詞は「高級レストランで使われるやたら面積の広い皿」です。余白の多い高級皿に、あまりもので作った野菜炒めは載せないですよね。
面積の広いお皿は、なくても別に困らないもの。むしろ場所をとるし、実用的な意味はない。しかし、面積の広いお皿に料理が載せられていると「この料理、おいしいに違いない!」という期待が生まれ、味が引き立ち、良い雰囲気が生まれます。特に実用的な意味はないけれど、場を盛り上げるもの、それが「枕詞」です。
たくさんある枕詞は、昔はいちいち覚えないといけませんでしたが、今はGoogleがあるので、調べて使ってみることができます。
例
ちはやふる神代もきかず龍田川 からくれなゐに水くくるとは
在原業平
掛詞~ポトフはカレーにもなる~
和歌の表現技法の中でも特に重要なのが「掛詞」です。簡単に言うと、ひとつの言葉に複数の意味をもたせたもののことで「ダジャレじゃん」と言われることもあります。
【掛詞の例】
ながめ(長雨と眺め)
ふる(降ると経る)
あき(秋と飽き) など
掛詞を使うと、ひとつの言葉に2つ以上の意味を持たせられるので、歌の世界が一気に広がります。たった31文字の言葉の中に、より広い世界を持たせることのできるもの。それが掛詞です。
これまた調理に例えるなら、ポトフにカレー粉を入れて、翌日別の料理に変えるような感じです。もとは同じものだけど、別の料理になっています。
ちなみに、掛詞を使うと和歌そのものに2つの意味もたせることができますが、その2つの意味が全く関係ないものではいけません。野菜炒めをフォアグラのソテーにアレンジはできないように、別々の意味をもつと言っても、ひとつの詩であることは忘れないようにしましょう。
例
花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
小野小町
本歌取り~伝統料理に基づいた創作料理~
和歌は、伝統を非常に大切にします。過去に詠まれた和歌を尊重し、それを受け継ぎながら斬新でオリジナルな和歌を詠むのが「本歌取り」です。
使い方は、昔の人が詠んだ和歌を参考にしたことをアピールしつつ、オリジナルの和歌を詠みます。つまり本歌は、できるだけ誰もが知っている和歌であるということ。そうでないと「本歌取り」したことがわからないからです。現代なら、百人一首の和歌を本歌取りするといいかもしれません!
料理に例えるなら「フィショナーレを煮込んだマイヨンヌ~朝どれミエラッテのクリーム添え~」とかいうそもそもよくわからない料理をアレンジして「エッヘンガッハのグリル~朝どれショミーンのワイン煮込みを添えて」にしました、とか言われてもピンとこないのと一緒。あ、ちなみにこの料理名は、高級レストランの料理名が呪文に聞こえる私が適当に考えたものです。
「“肉じゃが”を洋風にアレンジして、お店オリジナルの創作料理にしました」。本歌取りするなら、この程度にするといいのだと思います。
例
ひとり寝る山鳥の尾のしだり尾に 霜おきまよふ床の月影
藤原定家あしひきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む(本歌)
柿本人麿
実際に詠んでみました!
ご紹介した和歌の基本と調理法を参考に、さっそく和樂webスタッフで詠んでみました!
平安暴走戦士~chiaki~の和歌
ディレクターのミステリアス鳩仮面さんに「ちゃんと和歌詠んでください」と言われ、この記事の筆者(言い出しっぺ)が詠んでみました。
あしひきの山のふもとの松の木に 一人佇む秋の夕暮れ
これには、枕詞と掛詞を使っています。
訳はこのようになります。
山のふもとの松の木の下で、一人佇む秋の夕暮れ。私に飽きてしまったのかあなたは来てくれないけれど、待っています。
この和歌を詠んだ日は10月。秋らしく物悲しい和歌を詠みたいな~と思ってつくりました。ちなみに、和歌に詠むこころは、実際の体験である必要はなくフィクションでもOKなんです!
クロちんの和歌
和樂webの大黒柱とも言われる、クロちんも詠んでくれました!
衣替えうつりにけりないたづらに わが身変わりてながめせしまに
この和歌で使っているのは本歌取り。本歌は、小野小町の「花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに」という有名な和歌です。これは「長雨の降っている間に花が色褪せてしまった。それと同じように、あれこれ物思いをしていたら、私の美貌も衰えてしまったことよ」 という意味になります。
これに基づくと、クロちんの和歌はこのような意味に。
季節の変わり目、衣替えをしていたら、色あせてもはや着れないものも。あ~ぼーっとしているうちに体形も崩れ、もうくびれないし、着られないよな~~、ああ悲し
絶世の美女・小野小町の和歌をオバチャンの哀愁漂う趣に変えた、斬新な和歌! しかし、実際のクロちんは崩れ知らずの美ボディ。和歌はフィクションでいいのです!
和歌の本質とは
ちょっと難しそうだけれど気になるのが「和歌の本質」です。そこで最後に、平安時代の勅撰和歌集『古今和歌集』より、和歌の本質について書かれた箇所をご紹介します。
やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。
やまとうた(和歌)というものは、人の心を種と例えると、そこから生まれる無数の葉のようなもの。
世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。
世の中にはさまざまな出来事があるので、心に思ったことを、見たものや聞いたものに託して言い表したのが歌です。
花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
花の間で鳴くうぐいすや、清流に住む河鹿(カジカガエル)の声を聞けば、生きているもので歌を詠まないものなどいるでしょうか。
力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の中をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり。
力を入れずとも天地の神々の心を動かし、目に見えない死者の霊魂を感激させ、男女の仲をも和らげ、強い武人の心までをも慰めるものが歌なのです。
▼おすすめ書籍古今和歌集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典
アイキャッチ画像:鳥文斎 栄之 シカゴ美術館蔵
主な参考書籍:『和歌とは何か』渡部 泰明著 日本古典文学全集『古今和歌集』小学館 『日本大百科全書(ニッポニカ)』『小学館 全文全訳古語辞典』