都心までのアクセスが良く、買い物も便利で、豊かな自然も残る埼玉県北本市。衣・食・住が全てそろった住みやすいまちと言えますが、それは何も今に始まったことではありません。
遡ること、およそ1万年。なんと縄文時代早期から、北本は「住みやすいまち」として集落が形成されていたのです。とくに5000年前、中期の賑わいはまさに「縄文銀座」! 太古の昔の北本は、どのような姿だったのでしょうか?
住みやすさの秘密は「水」にあり
水は、飲み物としてはもちろん、炊事や洗濯など、生きていく上で絶対に欠かせないもの。それは現代も縄文時代も変わりません。縄文時代の北本が発展したのは、荒川・元荒川・江川による、3つの流域があったからと考えられます。
さらに、縄文時代以前の旧石器時代(約3万年前)から、北本市内には旧石器人のキャンプ跡が確認されています。当時は氷河期で火山活動も盛んだったため、大変厳しい自然環境でした。そのため、旧石器人はキャンプによる移動生活を送っていたのです。
氷河期が終わって火山活動が休止すると、温暖で暮らしやすい環境に。土器や弓矢も発明され「縄文時代」が始まります。移動生活を送っていた旧石器時代と比べ、北本にも定住する人が増え、たくさんの集落が見られるようになっていきます。
画像を見ると、どの集落も川沿いに集まっていることがわかりますね。特に発展したのは、江川流域の「デーノタメ遺跡」。このほか、北本に隣接する桶川市の「諏訪山遺跡」と「高井遺跡」、上尾市の「中井遺跡」は、全長200メートル級の大環状集落(住居が広場を囲むように円形に並んでいるムラ)として注目されています。
縄文銀座で「銀ぶら」してみた
「銀ぶら」とは、東京・銀座のまちをブラブラ歩くこと(本来は「銀座でブラジルコーヒーを飲む」という意味だという説も)。
そこで、縄文時代を想像しながら「妄想銀ぶら」してみました! 縄文銀座のまちの様子や、おしゃれな出土品をご紹介していきます!
元荒川流域
まずは、埼玉県を流れる利根川水系の一級河川、元荒川流域をブラブラしてみましょう!
豪邸の建つセレブタウン?「上手遺跡」
上手(うわで)遺跡は縄文中期後半を主体とする、元荒川流域では最大の縄文集落。なんと、全長約12メートルもの柄鏡(えかがみ)形住居跡も発掘されています。豪華な家が建つ、縄文時代のセレブタウンだったのかもしれませんね。
子孫繁栄を祈るためのものと思われる、男性器の形をした「石棒」も発掘! 小型の「壺形土器」は、ランプのようなかたちをしていてとってもおしゃれです。
落とし穴に注意!「提灯木山(ちょうちんぎやま)遺跡」
ここでは、縄文中期後半の住居跡が3軒確認されています。
閑静な住宅街だったのかな~と想像しながらブラブラしていると……なんと、落とし穴が!!
この落とし穴は断面がT字形にすぼまっていることから「Tピット」と呼ばれます。シカなどの動物を獲るためのものですが、提灯木山遺跡を銀ぶらする際は、落ちないように気を付けましょう(妄想ですが)!
江川流域
次に、埼玉県鴻巣市から南へ流れる荒川水系の一級河川、江川流域へ! ここでは関東最大級の集落「デーノタメ遺跡」が見どころです。
縄文銀座の中心!「デーノタメ遺跡」
ここは370m×230mの広さを誇る、関東最大級の遺跡「デーノタメ遺跡」です。
何だか変わった名前ですが「デーノタメ」とは、昭和40年代の半ばまでこの地にあった湧水池の名前に由来します。縄文中期~後期まで、およそ1500年もの間、人が住んでいたのだとか! 北本の中でも、ダントツに住みやすい場所だったのですね。
環状集落というドーナツ形の遺跡で、これまでに確認された住居跡は39軒。全体では200軒以上あるのでは、と考えられています。
ここでは“銀座”にふさわしい、ラグジュアリーな宝飾品が手に入ります。そのひとつが「大珠(たいしゅ)」。新潟県の姫川上流からもたらされたヒスイで作られており、つややかで美しい輝きを放ちます。赤漆を塗った華やかな土器など、日用品にもセンスを感じられる一品が揃います。
さらにグルメも堪能できるのがデーノタメの魅力! 「クルミ塚」という、主にクルミの殻を捨てていた場所からは、クルミだけでなく、クリ、ベリー類の種、ヒシ、エゴマ、トチノキなども発掘されています。ヘルシーでおいしそう! 意外と縄文人はグルメだったのですね。
荒川流域
埼玉県から東京都にかけて流れ、東京湾に注ぐ大河川、荒川。名前の通り荒れ川だった、荒川流域の遺跡をブラブラしてみましょう!
おまじないアイテムが豊富「宮岡氷川神社前遺跡」
縄文晩期の遺跡「宮岡氷川神社前遺跡」。ここでは大型の住居跡や、土偶・土版・石剣・土製耳飾・石冠・ヒスイ製小玉などの呪術道具がたくさん出土しています。特に土製耳飾には、精巧な透かし彫りや漆の塗装など、緻密でデザイン性の高いものが多く見られるのが特徴。縄文人たちの技術レベルの高さと、センスの良さが伺い知れますね。
宮岡氷川神社の鎮座するこの地は、太古の昔から祈りの場として受け継がれているのです。
北本に今も残る、縄文の原風景
宝飾品から日用品、グルメまで何でも揃う縄文銀座・北本。約8000年間にわたって、多くの縄文人が自然と共に生活を営んできました。
それは、現代の北本にも受け継がれていることをご存知でしょうか。北本は、衣・食・住の全てが満たされているだけでなく、縄文の原風景を受け継ぐ「里山」が今なお残るまち。
便利なだけでなく、ほっと心落ち着く豊かな自然がすぐそばにあり、その恵みを享受しながら暮らしていく――。そんな場所こそが本当の「住みやすいまち」と言えるのではないでしょうか。
【連載 全11回】縄文と雑木林のまち、北本
自然とともに暮らすまち、埼玉県北本市。独自の縄文文化と豊かな自然を入り口に北本の暮らしの魅力を考えてみました。
第1回 都心から50分!人に一番近い自然ってなんだ?を埼玉県北本で考えた
第2回 感度の高い縄文人が集う、埼玉県北本。1万年前からずっと住みやすいまち「縄文銀座」で銀ぶらしてみた
第3回 100年に1度の大発見?関東最大級の環状集落「デーノタメ遺跡」は縄文のタイムカプセルだ!【埼玉】
第4回 縄文界に新アイドル誕生?北本土偶「きたもっちゃん(仮)」愛用の呪術アイテムも紹介!
第5回 デーノタメ遺跡で貴重な発見!なぜ北本縄文人たちは「オニグルミの土製品」を作ったのだろう?
第6回 縄文VS現代!災害リスクの低いまち、埼玉県北本市「どっちが住みやすいの?」対決
第7回 艶やかな七宝ジュエリーにドキドキ!作家・近藤健一さんが北本にアトリエを構える理由【埼玉】
第8回 埼玉県北本市に、今こそ行きたい店がある。日々の小さな幸せが見つかるgallery&cafe yaichi
第9回 人も、自然を構成する一部。縄文文化の根付く埼玉県北本市に聞いた「雑木林」の今
第10回 貴重な動植物の楽園!埼玉のまほろば、北本雑木林散歩が楽しい
第11回 ここは地上の楽園か?鷹やキツネ、希少な植物も育つ「トンボ公園」が教えてくれること【埼玉】
※アイキャッチ画像:『デーノタメ遺跡の世界』より