Culture
2021.02.15

デーノタメ遺跡で貴重な発見!なぜ北本縄文人たちは「オニグルミの土製品」を作ったのだろう?

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クルミ(オニグルミ)の形をした、とってもかわいくて不思議な土製品が発掘されました。この珍しい土製品が見つかった場所は、埼玉県北本市にある「デーノタメ遺跡」。縄文時代に営まれた関東最大級の環状集落です。

「なぜ北本縄文人たちは、オニグルミの土製品を作ったのだろう」

その謎を解き明かしていくと、身近な自然とともに生きた北本縄文人から受け継がれる、現代の北本の姿が見えてきました。

埼玉には海があった!でも北本にはなかった

オニグルミの土製品を説明する前に知っておいてほしいことがあります。それは「海なし県」として有名な埼玉県にも、縄文時代には海があったということ。当時は今より気候が温暖で、海面が2~3メートルほど高かったと考えられています。

2019年に上映された映画『翔んで埼玉』では、「埼玉ホイホイ」という、リゾートムードたっぷりの「海の家」を模した罠が仕掛けられていました。東京・池袋に設置された“海っぽい”場所に埼玉県人が誘われ、まんまと捕獲されるという仕掛けです。筆者も埼玉育ちなので、海には狂おしいほどの憧れをもっています。それなので「埼玉にも海があった」ということに、大きなロマンを感じるのです。

しかし、埼玉でも内陸に位置する北本には、縄文時代にも海がありませんでした。このことが、北本に暮らす縄文人とクルミに大きな影響を与えます。

江川上流域の縄文時代の遺跡の分布 北本市教育委員会「デーノタメ遺跡の世界」より
海はないが、生活に便利な川沿いの高台に集落が点在していることがわかる

抜群に暮らしやすかった場所、北本

「貝塚」という言葉を覚えていますか? 貝塚とは、貝殻や割れた土器などのいわゆる“生活ゴミ”を廃棄した場所のこと。埼玉県内でも、当時海に面していた地域では貝塚が発掘されています。

しかし、海なしエリア・北本で貝は獲れないため、貝塚はありません。ちょっと遠出して魚介類を獲りに行こうと思えば行けたはずですが、そうしませんでした(交易により食べることはできたでしょうが)。その理由は、縄文時代の北本の住みやすさにあります。

北本市内にある、関東最大級の縄文環状集落「デーノタメ遺跡」には「デーノタメ」と呼ばれる湧水池があり、低湿地帯にはクルミの木がたくさん植えられていました。デーノタメ遺跡は生活に必要な水も食料もすぐ近くで手に入る、とても便利な居住地だったのです。

「わざわざ貝なんか獲りに行かなくても、ウチにはクルミがあるもんね」

そんな風に思っていたのかもしれません。北本縄文人たちの生活は、身近な自然の恵みに支えられていたのです。

クルミ塚とオニグルミの土製品

クルミも貝と同じく、中身を食べたら殻が残ります。それを北本縄文人が廃棄した場所が「クルミ塚」。クルミ塚は、デーノタメ遺跡の調査区において6カ所確認されています。

クルミ塚のクルミの核(殻のこと)
北本市 デーノタメ通信 より

しかし、北本縄文人は、クルミの殻をただの生活ゴミとしては見ていませんでした。不要なものを芸術にアップデートする——。そんな感度の高い北本縄文人のスピリットが見て取れるのが「オニグルミの土製品」です。

デーノタメ遺跡内の最も大きなクルミ塚からは、オニグルミの形をした土製品が見つかっています。これは全国的にも大変珍しいもの。大きさは、長さ5センチ・幅4センチ・厚さ2.3センチほどです。

クルミ塚から出土したクルミ形土製品
北本市 デーノタメ通信 より

さて、このオニグルミを模した土製品は、一体何に使われていたのでしょうか。

オニグルミの土製品は「第二の道具」と呼ばれる、実用性のない「呪術アイテム」だったと考えられています。自然環境に影響されやすい縄文時代、毎日の食料を得るのはとても大変なこと。北本縄文人の生活を支えるオニグルミの形をした土製品を作り、神に捧げ豊作を祈っていたのでしょう。

クルミ形土製品の展開写真
北本市 デーノタメ通信 より

自然を「カミ」とみなし、共に生きる

交通網の発達した現代では、世界中からさまざまな商品を取り寄せることができます。遠く離れた土地のものも、早ければ翌日には届くほどです。

「あれが欲しい」

そう思った時に何でも手に入る現代。しかし、縄文人たちは、無理に遠くのものを手に入れるのではなく、身近な自然とともに生活していました。

日本には「八百万の神(やおよろずのかみ)」という、自然のものには全て神が宿っている、といった考えがあります。これは、自然と共生する縄文時代から脈々と受け継がれてきた、人と自然の在り方を表しているように思えます。

オニグルミの土製品に見られるように、身近な自然に「カミ」を見出していた縄文人。その縄文スピリットは、令和の北本にも息づいていることをご存知でしょうか。

デーノタメ遺跡現況航空写真 デーノタメ遺跡総括報告書より

かつて縄文人の生活した場所は、現在は「雑木林」として北本の人々の生活に溶け込んでいます。自然に触れ、癒され、子どもたちはのびのびと遊ぶ。そんな自然とともに暮らす縄文の原風景が、北本には残っているのです。

北本市内の雑木林 シティプロモーション冊子「&green」より

【連載 全11回】縄文と雑木林のまち、北本

自然とともに暮らすまち、埼玉県北本市。独自の縄文文化と豊かな自然を入り口に北本の暮らしの魅力を考えてみました。
第1回 都心から50分!人に一番近い自然ってなんだ?を埼玉県北本で考えた
第2回 感度の高い縄文人が集う、埼玉県北本。1万年前からずっと住みやすいまち「縄文銀座」で銀ぶらしてみた
第3回 100年に1度の大発見?関東最大級の環状集落「デーノタメ遺跡」は縄文のタイムカプセルだ!【埼玉】
第4回 縄文界に新アイドル誕生?北本土偶「きたもっちゃん(仮)」愛用の呪術アイテムも紹介!
第5回 デーノタメ遺跡で貴重な発見!なぜ北本縄文人たちは「オニグルミの土製品」を作ったのだろう?
第6回 縄文VS現代!災害リスクの低いまち、埼玉県北本市「どっちが住みやすいの?」対決
第7回 艶やかな七宝ジュエリーにドキドキ!作家・近藤健一さんが北本にアトリエを構える理由【埼玉】
第8回 埼玉県北本市に、今こそ行きたい店がある。日々の小さな幸せが見つかるgallery&cafe yaichi
第9回 人も、自然を構成する一部。縄文文化の根付く埼玉県北本市に聞いた「雑木林」の今
第10回 貴重な動植物の楽園!埼玉のまほろば、北本雑木林散歩が楽しい
第11回 ここは地上の楽園か?鷹やキツネ、希少な植物も育つ「トンボ公園」が教えてくれること【埼玉】

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。