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2021.03.22

俺たちの青春のマシンよ、もう一度。日本独自の排気量クラス「400ccバイク」がガラパゴス進化した理由

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日本の二輪車は、400ccで区切られている。

400cc以下の排気量のマシンは普通自動二輪、それを上回れば大型自動二輪と区分される。だからこそ、俗に「400ccクラス」と呼ばれるマシンには需要がある。1996年以前は尚更で、バイク少年たちは競うようにこのクラスの新車を購入して乗り回した。

日本はこの大きさの二輪車が異常発達した稀有な国ということでもある。

伝説の400cc4気筒マシン

80年代のバイク少年は、400cc以上のマシンに憧れていた。

憧れているなら自動車学校に行って大型自動二輪免許を取ればいいではないか、と現代人は考えてしまう。が、それは不可能だった。この当時、指定教習所での大型自動二輪教習は行っておらず、希望者は試験場での一発試験に臨むしかなかった。しかし、今も昔も一発試験は難関である。下手な大学の入試よりも遥かに難しいというのは数十年前からの定評だ。

つまり、80年代に18歳を迎えたライダーは日本の不可思議な免許制度に願望を阻まれていたのだ。

ただし、それは決して悪いことばかりではない。この免許制度があったからこそ、「400ccを400ccのまま進化させよう」という発想が生まれたのは事実だ。

1979年に発売されたカワサキ・Z400FXは、日本の免許制度の産物とも言えるマシンだった。

二輪車のエンジンは、現在でも単気筒から4気筒以上のものまで多種多彩に揃っている。ピストンを入れるシリンダー(気筒)の容積が1000cc分のもの1本と、250cc分のもの4本があるとするなら、果たしてどちらが優れているのか?

これはナンセンスな問いかけである。単気筒と4気筒のどちらが優れている、ということはない。しかし、より高回転のエンジンを求めるなら、単気筒ではなく4気筒に限る。大きな身体の木こりが1人で大木を切るより、小さな身体の木こりが4人で作業をしたほうが結果的に早く木が倒れる。が、1979年の時点で新車販売されている400cc4気筒のマシンは1車種もなかった。そこに登場したのがZ400FXというわけだ。

750ccクラスでは珍しいものではない4気筒エンジンを、400ccクラスで味わえる。全国のバイク少年たちは、必死にアルバイトをして得た給料をこのマシンの購入に注ぎ込んだ。

80年代の直4は保険に入れない!?

Z400FXの登場以降、まるで号令を聞いたかのように他社も400cc4気筒エンジン車の開発に注力する。

敢えて繰り返すが、この時代のライダーは普通自動二輪免許から大型自動二輪免許へステップアップすることが実質不可能だった。だからこそ、400ccクラスの車種が恐るべき進化を遂げていく。

そして、この時代の400cc車は今も人気が高い。中古市場で数百万円の値がつくことすらある。たとえば1981年に発売されたホンダ・CBX400Fは「盗難保険に入れないバイク」として知られている。このマシンは中古価格が高騰しているため盗難の被害に遭いやすく、本来の保険の趣旨から逸脱してしまう。従って、どこの会社もCBX400Fの保険加入を拒否しているということだ。

言い換えれば、80年代の400ccマシンに数百万円を投じて満足する人が大勢いる。市場は需要があるからこそ成立するのだ。Z400FX登場以前は「夢のマシン」だった400cc4気筒は、いつの間にか「日本人の常識」と化していった。日本という国でしか通用しない水準、と表現するべきか。

日本の工業製品を語る上で「ガラパゴス化」という言葉をよく耳にするが、それは携帯電話やキーボード配列、NFC規格だけではない。80年代、既に二輪車の世界でガラパゴス化が発生していたのだ。

400ccは不要になった?

さて、筆者が所有するスズキ・SV400Sも400ccマシンである。が、このマシンは2つの要素が災いして、日本ではあまり売れなかった。

1998年に発売されたSV400と400Sは、Vツイン即ちV型2気筒エンジン。にもかかわらずアメリカンではなくスポーツマシンというのは、直列4気筒エンジンにすっかり慣れた日本のライダーの目には異様に映った。

また、これより2年前に指定教習所での大型自動二輪教習が開始されている。普通自動二輪免許の上限が引き続き400ccとはいえ、費用と時間さえあればあまり苦労することなく夢の大自二免許を入手できる。やや飛躍した表現を使えば、この時点で400ccマシンの歴史的使命は終焉を迎えたのだ。

400ccマシンには大型二輪同様、車検義務がある。この部分を考慮して「どうせ車検代がかかるなら、より大きなバイクに乗り換えたほうが得だ」と判断するのは当然の流れである。

では、400ccマシンは不要の存在になったのか?

そういうわけではない。400ccという排気量は、日本人が幾度も思案した末の結論とも捉えることができる。市街地、峠、高速道路を苦労なく安全に走破できるオールラウンダー性は、大型二輪にはないものだ。特に降車時の取り回しは、車両重量が250kgもあるリッターマシンではかなり辛い。しかし400ccなら200kgに満たないモデルも多い。2021年型カワサキ・Ninja400のそれは僅か167kgである。

つまり、400ccマシンは日本の土地事情にピッタリ合っているのだ。そのような意味でも、このクラスの車種は極めて「日本的」と解釈できる。

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【参考】
『モト・ライダー』1984年7月号(三栄書房)
Z400FX-バイクの系譜

書いた人

ノンフィクションライター、グラップリング選手、刀剣評論家。各メディアでテクノロジー、ガジェット、ライフハック、ナイフ評論、スタートアップビジネス等の記事を手がける。