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Culture
2021.03.11

性行為の「終わった後」に美を見出した後朝とは。枕草子にも書かれた理想のアフターナイト

この記事を書いた人

性行為って、前戯や真っ最中も大事ですが「終わった後」も大切ですよね。とはいえ、現代の性行為は「真っ最中」に重点がおかれがち。しかし、遡ること約千年。平安時代は現代と反対に、プレイボーイの恋愛を描いたことで有名な『源氏物語』にも、真っ最中は書かれていません。

え、意外!『源氏物語』ってえっちなのかと思ってた。

代わりに平安時代の人々が美を見出したのは「終わった後」。性行為が終わった後のひとときは「後朝(きぬぎぬ)」と呼ばれ、多くの平安文学に美しい後朝の情景が描かれました。

そこで「後朝ってどんな感じ?」ということを、現代の私たちにもわかりやすくご紹介します!

後朝とは?

後朝とは、性行為を終えた男女が翌朝別れることを意味します。

きぬぎぬ、いい響きだなあ〜。

平安時代は妻問婚(つまどいこん)と言って、男性が女性の家に通う婚姻スタイルが一般的でした。そのため、夜に2人でイチャイチャした後、朝になったらいったん別れなければならないのです。

また「後朝の文(ふみ)」と言って、自宅に帰った後、男性から女性に手紙や和歌を送る風習がありました。今でも別れた直後に、このようなLINEのやりとりなどするのではないでしょうか。

男性から女性へ 後朝のLINE

なんで関西弁?(笑)

平安時代と違って、女性から男性へ送ることもあるでしょう。しょうたが塩対応なので、少し熱くなってしまいました

ちなみに上記の画像は、「MOSO」というアプリでAIと後朝っぽいトークをしてみた様子です。AI相手にこんなこと言って、とっても恥ずかしくて複雑な気持ちになりました。正直、二度とやりたくないです。気になる方はインストールしてみては。

1人でやってると虚しくなりそう。

枕草子に書かれていた!これが理想の後朝だ!!

その気になるような、カッコイイ誘い方ってあると思います。もちろん素敵な真っ最中も。しかし「終わり良ければ総て良し」という言葉があるように、有終の美を飾ることも大切です。

清少納言が書いた『枕草子』「暁に帰らむ人は(明け方に帰る人は)」の箇所には、平安貴族の「理想の事後」が描写されています。原文がちょっと長いので、私の意訳だけご紹介します。

【理想の後朝】
男は、明け方の帰り際にセンスが出る。女に「早く起きてください。みっともないわ」と言われて渋々起きて溜息をついたりするのは、もっと一緒にいたい感じがしていい。
着物もすぐに着ないで、女に近寄って夜のウフフな言葉の続きをささやき、いつの間にか着替えが終わっているといい感じだ。
(中略)
【BADな後朝】
スッキリ起き上がって、なんだか騒がしくきっちり着替え、帽子まできちんと被りなおす男。枕元に置いたはずなのにいつの間にか散らかってしまったものを「どこだ、どこだ」と探して見つけ「それじゃ失礼します」などと言って出ていくのはね……。

はあーん!わかる!!

つまり理想の後朝は「もっと一緒にいたい」感じを出しつつ、さりげなく支度を終えていること。対して爽やかに目覚め、さっさと着替え、スマホを慌ただしくポケットに突っ込み「じゃ、また!」なんて出ていくのは……確かにちょっと風情がないかもしれませんね。

帽子はいちゃいちゃしながらさりげなく被っておこう
※平安時代、烏帽子などの帽子は貴族男性のマストアイテムでした

光源氏が詠んだ、狂おしい後朝の歌

後朝の和歌には、どのようなものがあったのでしょうか。一例として『源氏物語』から、私の大好きな歌をご紹介したいと思います。

見てもまた逢ふ夜まれなる夢のうちに やがてまぎるる我が身ともがな

昨夜のように愛し合うことがこの先できないなら、あなたと過ごすこの夢の中に紛れて消えてしまいたい

『源氏物語 若紫』より

あまぁーい!とろけた。

これは、光源氏が義母と禁断の逢瀬を遂げた翌朝に詠んだものです。天皇である父の妻との恋。「夢のようなこのひとときがずっと続けばいいのに……」。張り裂けるような光源氏の胸の痛みが伝わってきます。

前戯も大切です

終わった後も大事ですが、始まる前も大事です。「前戯」について『源氏物語』を参考に書いた記事もあるので、あわせて読んで頂けると嬉しいです。

▼前戯に関する記事はこちら
雰囲気づくりから「前戯」は始まっている。光源氏に学ぶ、最高に盛り上がる性行為への道すじ

アイキャッチ画像:『源氏五十四帖 八 花宴』著者:月耕 国立国会図書館デジタルコレクションより

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。