日本の辺境・異境を物ともせずに旅に出る和樂スタッフが、「自分史上最高のご飯のお供」を、自前のお茶碗に盛ってプレゼン。故郷を思い出す味、取材で知った味…個性あふれる和樂スタッフの生の声をお楽しみください。
第9回「大井肉店の牛肉茶漬」
選・茶の湯担当 植田伊津子
明治4(1871)年に神戸初の牛肉専門店として開業した大井肉店(おおいにくてん)。日本人の肉食の歴史と共にあり、関西肉文化を牽引してきた名店として知られています。創業者の岸田伊之助(いのすけ)は、牛の目利きであり、商売の才覚が優れていました。明治35(1902)年には「牛肉味噌漬」や「牛肉佃煮」の製造販売を始め、全国に広まっていったとか。ここで紹介する「牛肉茶漬」は14年ほど前に開発されたもので、長い歴史をもつこの店にとっては、新しいもの。関西にはごはんの〆はお茶漬け、という習慣があり、お茶漬け用にあっさりと食べられる牛肉の佃煮を、ということで“梅山椒煮”が誕生したとか。兵庫県出身の植田さんは実家のいただきものを通じてこのご飯のお供を知りました。
「牛肉の佃煮といえば、たいがいが甘い味付けなんですよね。大井肉店にも甘いものがあるのは知っていますが、同じ佃煮でも私は甘みのない『牛肉茶漬』が好きなんです。牛肉を実山椒と梅風味で炊き上げてあるので、味わいがさわやか。後味がさっぱりしていて、大人のご飯のお供だと思います」
ところで、植田さんはなぜお茶漬けにしないで、そのままご飯と食べることにしているのですか?
「お茶漬けにすると、ご飯を食べすぎてしまうからでしょうか(笑)。でもね、お茶漬けにしないほうがそれ自体の味をしっかり味わうことができます。禁じ手の食べ方を教えますね。卵の黄身をごはんにポトンと落として、鰹節をかけたところにこの佃煮をのせて食べてみて。恐ろしいほどにご飯が進んでしまいますよ」
◆大井肉店
住所 兵庫県神戸市中央区元町通7-2-5
公式サイト
新米特集 全10回
第1回 ちりめん山椒
第2回 ふくやの明太子
第3回 生あみ
第4回 養肝漬
第5回 いか塩辛
第6回 細切り柚子昆布
第7回 金糸瓜の粕漬
第8回 特白とろろ
第9回 牛肉茶漬
第10回 かえりちりめん