最新のイメージング技術と伝統工芸を融合し、日本の「至高の美」を遺す——。
東京・港区の「キヤノンギャラリーS(品川)」で10月11日から11月16日にかけて開催される作品展「高精細複製品で綴る日本の美」は、キヤノンの最新イメージング技術を伝統工芸と融合させて生み出した、我が国が世界に誇る貴重な文化財の「高精細複製品」が一堂に会する展覧会です。
作品展の背景となっているのは、キヤノンならびに特定非営利活動法人 京都文化協会が2007年にスタートさせた「綴(つづり)プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)です。同プロジェクトがどのような取り組みなのか、さらに、最新技術と伝統工芸の技を融合させることで何が生まれるのか。「綴プロジェクト」の狙いに迫ります。
最新技術・匠の技で再現する、比類なき日本の美
「綴プロジェクト」とは、日本古来の貴重な文化財の高精細複製品を制作し、その複製品を有効活用することで多くの人に作品鑑賞の機会を提供するもの。
日本古来の貴重な文化財には、歴史の中で海外に渡ったものや国宝として大切に保管されているものなど、鑑賞の機会が限られている作品が多数あります。たとえば奇想の絵師、曽我蕭白(そがしょうはく)「雲龍図」。襖絵として制作された大迫力の龍は現在、アメリカ・ボストン美術館で保管・展示されています。あるいは、長谷川等伯(はせがわとうはく)の代表作であり、近世日本水墨画の最高傑作とされる国宝「松林図屏風」。東京国立博物館に所蔵されていますが、作品保存の観点から、近年では展示期間が正月などの数週間に限定されています。
こうした貴重な文化財をより多くの人が間近に鑑賞でき、さらに学校教育の場などでも活用できるよう、限りなくオリジナルに近いものとして制作されたのが、同プロジェクトの「高精細複製品」なのです。デジタルアーカイブを残すだけでなく、日本古来の貴重な文化財と接する機会を広く提供することで日本文化の再認識を促しています。
「綴プロジェクト」作品ができるまで
綴プロジェクトの高精細複製品は、単に作品を撮影・復元したコピーではありません。キヤノン独自のデジタルイメージング技術と、京都の伝統工芸の技が融合することによって生まれた、原本と見分けがつかないと言われるほど、精巧につくられた複製品です。
その制作過程をご紹介しましょう。まずは対象となる文化財を、同社の最新デジタルカメラと専用に開発した制御システムを用いて、微細な動きまで自動で制御しながら多分割撮影します。多分割撮影したデータをデジタル合成する際、レンズ収差による「ひずみ・ゆがみ」などの補正も施されます。そのうえで、照明の違いによって生じる色の見え方を、独自開発の画像処理技術によって補正し、忠実な色再現を実現しています。
さらに、プリント技術にも同社の最新テクノロジーが採用されています。水墨画の繊細な濃淡、陰影が生み出す立体感、経年変化による文化財の微妙な風合い、質感は12色の顔料インクシステムを採用した大判プリンター「imagePROGRAF」で出力し、実物と遜色なく再現。これまで難しいとされていた和紙や絹本への出力も、それぞれ独自開発した紙や絹本を使用することで可能となりました。
一方、綴プロジェクトの最大の特徴は、ここからの工程にあります。金箔・金泥の再現です。この工程は、京都・西陣の伝統工芸士が手掛けています。単に印刷した複製品に金箔・金泥を施すのではなく、「古色」と呼ばれる経年変化や風合いを再現する表現技法によって、作品の持つ「年代」までも忠実に再現しているのです。金箔は、文化財の制作年代や産地によっても差異があるため、それぞれ緻密に検証したうえで、複数の種類が使い分けられます。
最後は表装。西洋の絵画とは異なり、日本の近世美術はその多くが襖絵や屏風絵などとして描かれました。表装には京都で古くから文化財修復などに携わってきた伝統工芸士が携わり、表具師の伝統技法を用いて制作当時の襖や屏風に設(しつら)えられています。
作品展で観られる至高の美、8点がズラリ
綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」(会期:10月11日~11月16日)では、こうしたプロセスを経て制作された高精細複製品のうち、教科書などで一度は目にしたことのある有名な作品8点が展示されます。日本が世界に誇る美の極致の数々を、まさに間近に鑑賞することができます。展示作品をそれぞれご紹介しましょう。
国宝「風神雷神図屏風」
国宝「松林図屏風」
重要文化財「竹に虎図襖」
重要文化財「風神雷神図屏風・夏秋草図屏風」
「樹花鳥獣図屏風」
「雲龍図」
「見返り美人図」
「江戸風俗図屏風」
綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」詳細
・会期 2023年10月11日(水)~11月16日(木)
・開館時間 10時~17時30分 ※日曜・祝日休館
・会場 キヤノンギャラリー S(住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)
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