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2024.02.09

モデルであることがコンプレックスだった。置かれた場所で咲く努力【SHIHOの楽禅ライフ9】

禅について学びを深めている、モデルのSHIHOさん。ここでは連載企画「SHIHOの楽禅ライフ」として、自身が坐禅に取り組む中で気になった「禅にまつわる言葉」を挙げながら、感じるままにつづってもらいます。
TextsSHIHO

置かれたところが今の私たちの居場所

今回の禅語:以水為命(いすいいみょう)しりぬべし、以空為命(いくういみょう)しりぬべし。以鳥為命あり、以魚為命あり。以命為鳥なるべし、以命為魚なるべし。
(『正法眼蔵』のうち「現成公案」より)

大意と解説:魚が水を、鳥が空を出ればたちまち死んでしまう。水中で生きている魚にとって水は命であり、鳥にとって空は命である。水と魚、空と鳥は生きている限り、命として一つであり、切っても切り離しようのない関係にある。まずは水を極めよう空を極めようなどと考えたりする暇はない。私たち人間も生きていくうえで、刻々と移り行くそれぞれの現実と一つ。その現実とどのように向き合うかを、問わねばならない。

私たちの生きる場所は、水でも空でもなく、この大地。その目の前に広がる現実の中では、日々、さまざまなことが起こっていますが、この禅語を読んで浮かんだのは、カトリックの修道女である渡辺和子さんの著書『置かれた場所で咲きなさい』という言葉。

文字通り、置かれたところが今の私たちの居場所で、魚は水に、鳥は空に、私たちは陸(目の前にある場所)で咲きなさい、と言われているよう。渡辺さんによれば、ここでいう「咲く」とは、仕方ないと諦めることではなく、笑顔で幸せに生き、周囲の人々も幸せにすることによって、神が、あなたをここにお植えになったのは間違いではなかったと、証明することだそうです。

今いる場所、環境や出会いは、すべて神様からのギフト!

そう思えたら、ネガティブに思えることも、ポジティブに捉えられそうですよね。渡辺さんは「証明する」とおっしゃっていますが、これはただ笑顔で幸せになる、周りを幸せにするだけでなく、行動によって示し、自分自身がここにいられてよかったと心から感謝し、生きがいを感じるまでに及ぶことなのかもしれません。

モデルをしていることがコンプレックスだった

道元禅師の冒頭の禅語は、このような言葉に続きます。

得一法通一法(とくいっぽうつういっぽう)、遇一行修一行(ぐういちぎょうしゅういちぎょう)
(『正法眼蔵』のうち「現成公案」より)

読み方:一法を得ては一法に通じ、一行に遇うては一行を修す。
大意と解説:私たちが日々直面している現実を修行の実践とするならば、その現実に対し思慮分別を差しはさむ余地はなく、ただその現実を受け入れ、ひたすらに生きるしかない。出会うところ、わが人生と受け入れて、その本質に通じていけば、道を得ることができる。

つまり、とやかく文句を言わず、目の前のことに一生懸命に取り組めば道はきっと開ける! ということですよね。

ここでふと思い出したのは、10代の頃のこと。スーパーモデルの全盛時代にモデルの仕事をしていた私は、自分がモデルをしていることにコンプレックスを持っていました。自分にも、仕事内容にも全然、納得していなくて。
そんな時に、当時の所属事務所の社長に言われたのが「何一つ文句を言わず、来た仕事はすべてやりなさい」でした。

言われた通り、どんな仕事も全て受け入れて撮影を積み重ね、たくさんの洋書や写真集も片っ端から購入してモデルのポーズを研究し尽くして、努力を重ねて5年ほど経った時、『model;Shiho』というフォトエッセイ集を出版させていただくことができました。その頃はモデル個人に注目することが少ない時代だったので、モデルとしての自分にやっと誇りが持てたし、モデルとして道が開けたと感じた出来事でした。

人生はいつも幸せなわけではなく、違和感や「こんなはずじゃなかったのに、どうして私だけがこんな目に?」と思うことがあるかもしれません。たとえ幸せであっても、すべてに満足することはないのかも。それでも、それは神様が与えてくださったものだと信じて、今の環境の中でベストを尽くす。

最近、私自身、自ら何かを掴みにいくというよりは、人に求められることに応えていく、周りに頼まれたことに応じる。その積み重ねが、気づけば、自分らしさや、自分にしかできないことにつながっている気がしています。「したいこと」より、「できること」に全力で取り組んでいくしかないのかもしれないですね。

そして同時に、自分の「好き」なものや「得意なこと」を見極めるのも大切なのかも。だって、好きなものは、どんなことだって努力できるから。嫌いなことやものを続けるほど、つらいことはないですから。

たとえ根拠のない希望だったとしても

『置かれた場所で咲きなさい』の中で、渡辺さんは「希望には人を生かす力も殺す力もある」という旨を書かれていました。たとえば「いつまでにこうなれる!」と希望を持っていた人は、その「いつ」が叶わなかったら諦めてしまう。でもたとえ根拠のない希望だったとしても、期日を決めてしまわずに、いつか…と永続的に願い続け、希望を捨てなければ、人は努力し続けられるのだそう。渡辺さんは、「みこころのままに、なし給え」と、謙虚にその希望を神様に委ねることも提案されていました。

私も10代の頃から、とにかく「いつか、いいモデルになりたい」、そして20代になったときには「いつか、SHIHOとして確立したい」と、「いつかそうなれるはず!」と信じて、大好きな仕事に無我夢中でした。

30代で結婚して母になり、支える人ができて、家族の人生が私の人生に。40代になった今は、モデルを続ける中で心身を整えることを中心に生活するようになり、ヨガや禅、聖書の教えに出会い、それらを学ぶ日々です。

さまざまな書物を読み、体験を繰り返しながら、人生に照らし合わせて生きていく中で、より平和な世界のために私に何ができるのか。自分と周りの笑顔と幸せのために、希望を持って今ある道でできることを積み重ねています。

皆さんは、今、どんな場所にいますか? いつも希望を持って、笑顔でいられますように。

Photo by SHIHO

監修:横山泰賢(日光山 禅昌寺住職・曹洞禅インターナショナル会長)

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SHIHO

ファッション雑誌・テレビ・ラジオ・CM・プロデュース・ 出版など幅広く活躍。心身が健康で美しくなるウェルビーイングな暮らしを提案している。ヨガDVD本 『SHIHO loves YOGA〜おうちヨガ〜』、出産後に出版した『トリニティスリム"全身やせ "ストレッチ』は、シリーズ累計40万部を突破。 比叡山延暦寺など各地で瞑想リトリートツアーをはじめとするさまざまなイベントも企画・開催。滋賀国際親善大使。全米ヨガアライアンス認定講師。Wellness AWARD of the Year 2019受賞。日本だけでなく韓国でも活躍している。
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