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「如来」は、悟りを開いた最高ランクの仏様
「如来」という仏像は、だれもが知っている奈良・東大寺や鎌倉の大仏様のように、衲衣(のうえ)と呼ばれる質素な衣を肩にかけただけの姿。装飾品は一切なく、髪型は一見パンチパーマのような螺髪が基本です。ただし、密教の中心尊である「大日如来」だけは例外。すべての仏を統括する特別の存在であるため、頭には宝冠をかぶり、菩薩同様の装飾品を身につけています。
悟りを開いた後の釈迦の姿は極めてシンプル!
各如来像が何を表しているのかは、印相(両手の形)を見れば一目瞭然。代表的なものをあげると、右手を控えめにあげた「施無畏印(せむいいん)」は〝恐れなくていい〟、左手を膝のところで上向きに置いた「与願印(よがんいん)」は〝願いをかなえる〟、坐禅のポーズの「定印(じょういん)」は瞑想を表し、阿弥陀如来は次の画像のような独特の印を結んでいます。
これを知っておけば安心! 仏像専門用語・簡単解説「如来編」
光背(こうはい) 如来の背後にはオーラを表しているような「光背」がある(菩薩、明王も同様)。頭部周辺だけの「円光(えんこう)」や「輪光(りんこう)」、光を放っているような「放射光(ほうしゃこう)」のほか、上の写真左のようにスペードの形の豪華な「飛天光(ひてんこう)」や「二重円光(にじゅうえんこう)」は如来に多い。
螺髪(らほつ) 上の写真右のようにアップにすると、頭髪はパンチパーマのように小さくカールして粒状になっている。これが如来特有の「螺髪」。
印相(いんそう) おのおのの仏が伝えたい言葉を両手の形で表す、いわばボディランゲージ。印相を見ると、各如来の意味がわかる。
宝冠(ほうかん) 如来は本来無冠だが、密教の大日如来は別格なので上の写真右のように宝冠をかぶる。宝石をちりばめた豪華な宝冠をかぶった像もある。
台座(だいざ) 仏像が乗っているもので、如来や菩薩に多いのが蓮の花をかたどった「蓮華(れんげ)座」。明王は「岩座(いわざ)」が多く、不動明王専用の「瑟瑟(しつしつ)座」や、象や鳥をかたどったものもある。
ぜひ拝したい! 国宝の如来像
平等院の国宝『阿弥陀如来坐像』
定朝作 木造、漆箔 天喜元(1053)年 像高277.2㎝ 平等院(京都府宇治市)
詳細は以下サイトへ。
https://www.byodoin.or.jp/
如来の代表的な仏像とされる平等院の『阿弥陀如来坐像』は、平安時代の名仏師・定朝(じょうちょう)の作。それまで中国風であった日本の仏像の歴史において、穏やかで気品のある定朝の作風は、日本独自の仏像の完成という意味でも重要な出来事。「定朝様(じょうちょうよう)」と称された作風は仏像の模範となり、円派(えんぱ)、院派(いんぱ)といった仏師集団へと受け継がれていった。本像は、そんな日本仏像史に欠かせない仏師の代表作にして、現存する唯一確実な像。
円成寺の国宝『大日如来坐像』
運慶作 木造、漆箔、玉眼 安元2(1176)年 像高98.8㎝ 円成寺(えんじょうじ 奈良県奈良市)
詳細は以下サイトへ。
http://www.enjyouji.jp/
のちに巨匠と称される仏師・運慶(うんけい)が20代半ばでつくったデビュー作が、奈良・円成寺にある、密教で最も重要な大日如来の像。若々しく力強い姿にインパクトがあり、玉眼の黒目のまわりを赤く縁取ったり、それまでは平らにつくられていた足の裏にふっくらとした丸みを帯びさせたりしているところに、リアルな作風で一世を風靡した運慶の萌芽(ほうが)が見られる。
構成/山本 毅
※本記事は雑誌『和樂(2019年4・5月号)』の記事を再編集しました。