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蔦重AtoZ
R=流行作家を若いうちに見出していた名伯楽(めいはくらく)
歌麿や写楽を売り出してスター絵師に育てた蔦重は、若き日の北尾政美(きたおまさよし=鍬形蕙斎〈くわがたけいさい〉)や葛飾北斎(かつしかほくさい)にも仕事を依頼していました。
その眼力は絵師の発掘にとどまらず、有能な新人作家を見出すことでも超一流。代表的な存在が山東京伝(さんとうきょうでん)です。
盟友だった戯作者・山東京伝
江戸深川(ふかがわ)生まれの京伝は、若いうちから吉原で遊び、浮世絵師を目ざして北尾重政(しげまさ)の門弟となり、政演(まさのぶ)の名で独立。
蔦屋の黄表紙の絵を描くかたわら、文章の執筆も手がけ、蔦重と組んで黄表紙や、遊郭を舞台にした洒落本(しゃれぼん)で一時代を築きました。
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蔦重の居候でもあった十返舎一九
駿河国(するがのくに=静岡県)の下級武士の子であった十返舎一九(じっぺんしゃいっく) も蔦重のもとで修業時代を過ごし、蔦屋耕書堂の仕事を手伝ううちに作家となり、めきめき頭角を現したひとり。
巨匠となる前の滝沢馬琴は蔦重のもとで修業
もうひとりが、江戸深川の下級武士の家に生まれた曲亭馬琴(きょくていばきん)。
若いころに父を亡くして生活苦に陥り、弟子入りを願った山東京伝に蔦重を紹介されています。
そうして生真面目(きまじめ)な努力家の馬琴は、蔦重のもとで人気作家への地歩(ちほ)を固めていったのです。
蔦重が見出した才能はほかにも・・・
かわいい動物画で知られる鍬形蕙斎
鍬形蕙斎は北尾政美を名乗っていた早い時期に蔦重のもとで絵を描いていました。鍬形蕙斎と改名した後に手がけたゾウやトラなどの略画が今注目を集めています。
あの葛飾北斎も駆け出し時代に世話になっていた!
『冨嶽三十六景』『北斎漫画』などで世界的に有名な葛飾北斎。数多くの画号を用いていたが、蔦重のもとでは北斎辰政と名乗っていました。これは江戸の名所を紹介するガイドブック的な本で、掲載したページには神田明神が描かれています。
アイキャッチ画像:『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』メトロポリタン美術館蔵